ギルド
アルは機嫌良く宿屋に入った。
機嫌が良い理由は新しい魔法式を知れたからである。知ったと言うより創ったのだが‥‥。
アルはベットに寝転び先程の魔法式を1メートル
指先に展開する。
(落ちていない自信はあるが仮に落ちたとしても、これだけで来てよかったよな)
アルが創ったと言っても途中までは研究者達が魔法式を完成させていたので。アルが一から始めたとしたら長い年月がかかっていただろう。
(合格発表は3日後だったよなー。それまで何するか‥‥‥そういえば近くに冒険者ギルドがあったよな。ヒマだし行ってみるか)
アルは宿屋からでる。
道は石畳になっていて道の左右にはお店が並んでいる。道には人が多く少し息苦しい。
遠くを見ると高い建物もある。
アルは少し歩くと冒険者ギルドを発見する。
冒険者ギルドは石造りでかなり大きく綺麗だ。
アルは両開きの木製扉を押して中に入る。
アルは室内を見回す。室内は広く右側3分の1は木製のテーブルが並んでおり酒場になっていて、左側の正面には壁一面に依頼の紙がビッシリ貼り付けている。
(へー以外に綺麗なんだな。イメージとちがう)
中では鎧や帯剣をした人達がお酒を飲んで騒いでいる。魔族では戦闘で男も女も関係ないため女性も多い。
(酒場兼依頼所って感じか)
ギルドの室内にいた人達は1度アルをチラ見したが、ギルドでは学院生達も登録するからだろうか、その後は一切気にしていない。
アルは左側に歩くとカウンターを発見する。
受付嬢は4人いるようだ。アルはギルドに登録する為、列に並ぶ。しばらくするとアルの番になる。
「ギルドに登録したいのですが」
「かしこまりました。では、こちらの用紙にご記入下さい。代筆が必要でしたらお申し付け下さい。書き終わりましたらカウンター横の扉に入り奥に窓口がありますので提出して下さい」
受付嬢が用紙とペンを出しながら言う。
「分かりました」
アルはカウンターの左に移動し書き始める。
用紙には名前と得意魔法使っている武器。
特技など書かれている。
アルは空欄に書きはじめる
名前は名字を書かなくても良い。
(得意魔法は全般で得意武器は素手っと特技は魔法かな)
アルは用紙に書き終わると奥の窓口に提出する。
「アル様ですね。アル様はギルドについての説明は必要ですか」
「いや、必要ないです」
アルは城の図書室でギルドの事はだいたい把握している。
ギルドとは依頼にEランクからSランクまであり。Sランクに近づけば近づくほど依頼は難しく命懸けになる。冒険者自身にもEランクからSランクがあり同じランク以下の依頼しか受けられない。だが依頼には特例があってAランク5人がチームになりSランクの依頼を受けられる場合がある。
「分かりました。では登録料の銀貨1枚お支払い下さい」
アルは銀貨を渡す。日本での目安で言うと木貨が一円 石貨は十円 鉄貨は百円 銅貨は千円 銀貨は一万 金貨は十万 白金貨は百万。これはあくまでも目安だ。貨幣には特殊な魔力が含まれているので偽貨幣は難しい。
「では、この腕輪をお渡ししますので
その腕輪を付け少しだけ魔力をお流し下さい」
アルは銀色の腕輪を付けて魔力を流す。すると腕輪の上に直径30センチの魔方陣が出て映像が浮かび上がり魔方陣が消える。
「おぉ」
映像にはランク、名前、得意魔法、得意武器、依頼達成率、依頼数が映像に映っている。
(光魔法と幻惑魔法かな?)
「それでその腕輪はアル様以外使えなくなっております。映像は流した魔力量によって映像を出している時間が変わります。魔力を流しすぎると腕輪は壊れますのでご注意下さい。それから腕輪をなくすと再発行時銀貨1枚お支払いしていただきます。何かご質問はありますでしょうか?」
「いや、大丈夫です」
「はい。それではこれで以上になります」
「分かりました。ありがとう」
アルはお礼を言い依頼掲示板の前のに行く。
(んーEランクは一番右端か‥‥‥‥採取に街の中での荷運び‥‥んーできれば討伐が良いなーおっ常時依頼ゴブリン3体討伐、討伐部位耳。これにするか。ゴブリンなんて其処らにいるが久々に死の森に行くか)
死の森とはランクEランクからSランクがいる森だ。アルの母親に師事していた時よく行っていた。危険地区Sランクである。
魔族領の北三分の一が死の森だ。
アルの父親でさえ半分しか踏破出来ていない。
アルは依頼書を外しカウンターに行く。
アルは列に並び。アルの番になると受付嬢に依頼書を渡す。
「ゴブリンの討伐ですね‥‥はい。受理致しました。1週間以内に討伐部位を提出して下さい。では、お気をつけ下さい」
ゴブリンとは大体身長が150センチと小さく。
細くて猫背だ。体の色は灰色で耳が大きく尖って。目が人の4倍ほど大きい魔物だ。羞恥心が有るのか腰に布を巻いている事が多い。
「分かりました。ありがとう」
と言いアルは身体の中に一瞬で魔法式を構築し死の森に転移する。
「「えっ」」
受付嬢と並んでいた人達が唖然とする。
普通魔法式を構築するには手の平や足の裏が一番構築しやすい。転移でも普通は足の裏で魔法式を構築するし複雑な魔法式のため時間がかかる。熟練な魔法師でも転移が出来る人は少ない。
アルは戦闘で転移もよく使うため大規模魔法以外は身体の中で構築するクセを付けている。
魔法式が見えないため相手に察知されづらいためだ。だが、それはアルも同じで、魔法式を見ないで構築する必要がある。これはかなりの高等技術なのだ。
アルは死の森に転移してゴブリンを探す。
気配を探りながら森を歩く。
(おっいた、ちょうど三匹)
アルの気配察知距離は1キロ前後だ。
ゴブリンの気配は似たり寄ったりなのですぐわかる。察知に引っかかった瞬間アルは訓練がてら体内で一瞬で身体強化の魔法式を構築し走る。
木々を躱しながら30秒程で到着する。アルは止まらず三匹揃って歩いているゴブリンの懐に入り手の中で魔法式を構築し魔力を纏いパンチする。パパパンとほぼ同時に音が響き首のないゴブリンが同時に倒れる。
「あーーーバカかゴブリンの討伐部位の耳がない」
ゴブリンの顔が弾け飛んでいたのだ。
痛恨のミスである。
(癖で拳に魔力縫ってしまった)
アルは昔魔力を操作して無理矢理手に纏い刃物の形にしてアイアンベアーを殺したが、今ではアルが創った魔法式で魔力を纏っている。
そうすると魔力使用率が極小になり、難易度が上がるがある魔法を魔方陣に加える事で魔力を魔法式に込めれば込めるほど攻防力があがる。
アルの母親のエレナも今これを使っている。
アルは死体を放置して不貞腐れながら森を歩く。1時間は歩いたろうか。その時アルは気配を探知する。
(ん?この気配は?人間?)
4人がこっちに向かってくる。
1人は3人の前を少し離れた場所を移動している。
(追われてるのか?)
アルは身体強化をして駆ける。少し離れたところで木の枝に登り目に魔法式を構築して透視の魔法を発動する。透視の魔法距離は50メートル先まで透視できる。
木々の間を一般の魔族の女性が走っていて冒険者風の人間3人がそれを下卑た笑みを浮かべて追いかけている。
「チッ」(魔族と人族は敵対していないが、何時も問題を起こすのは人間だ)
アルは舌打ちをして一瞬で人間3人の背後に転移する。
人間が気づくヒマさえ与えず首に手刀を当て気絶させる。
距離も近かったため女性は人間が倒れた音で振り向く。
「大丈夫?追われてるみたいだったから助けたけど」
アルは優しい声で聞く。
女性の顔を見ると同じ歳ぐらいだろうか可愛らしい顔している。
少女は同じ魔族で安心したのだろうかホッとしている。
「はい!ありがとうございました」
「君みたいな子が何故こんな森に?」
「薬草を採取していました」
少女が言うには母親が病気になり父親が母親の為に薬草を探していたが父親はゴブリンに襲われ怪我をした。何とか倒して村に帰ったが、傷口が化膿して高熱を出し意識不明なり、少女が森の奥に入り薬草を採取していた所を襲われたみたいだ。
「なるほど。ちょっとその村に案内してくれるかい?もしかしたら治せるかもしれない」
「本当ですか!!!?」
「うん。たぶんね。俺はアル。魔法師だ」
アルは魔法師と言っておく。そちらの方が治療の信憑性が上がるからだ。
「お願いします!!助けて下さい!!ユミラと言います!」
「わかった。ちょっと待ってて」
アルは気絶している3人の元まで行き、3人の真下に魔法式を構築する魔方陣から黒い鎖が出て3人の手足を拘束し魔方陣が消える。魔法名は【黒錠鎖】地面に鎖が縫い付けられているため動く事さえ不可能だろう。
アルは振り返り唖然としている少女に声を掛ける。
「さて、行こうか。村の方角はどっちだい」
「あっはい!こっちです」
と少女が指を指して言う。
「分かった。今から連続転移で移動するから転移酔いしないように目を瞑ってくれるかい?それと肩を触れるよ」
(空を飛んでも良いが少女を抱きかかえる必要があるからな、俺は嫌じゃないが‥‥)
「はい!!わかりました!!お願いします」
少女は転移とはどんな魔法かわかっていないだろう。
アルは少女が目を瞑ったのを確認し転移を連続で発動する。
転移は1度行った場所か目で見えている範囲しか転移できない。
連続で転移をすると数分で森を抜け村が見える。だが村を見るとゴブリンに襲われている真っ最中だった。
30匹ぐらいだろうか。木で出来た柵でゴブリンを止め村人は木の棒で叩いている。
「ユミラ、村人が襲われているようだ。ちょっと行ってくる」
アルはユミラに結界を貼る。そして、手に魔力を縫いユミラが何かを言う前に転移しゴブリンの心臓を貫く。そこからも連続で転移しゴブリンの心臓を貫いていく。十数秒で戦闘が終わる。
村人達は唖然としていたがアルは無視してユミラのいる場所に転移し結界を解除する。
「あの!アルさん重ね重ねありがとうございます」
「いいよ。きにするな。取り敢えず村に行こうか」
アルとユミラは村へ歩いていく。
時間が開いたおかげか村人達はある程度落ち着きを取り戻す。
「ユ、ユミラその方は」
と村の村長が言う。村長は人間で言うと25才ぐらいだろうか。
「魔法師のアルさんです!父と母を治しもらえるそうです」
村長は神妙な顔をし
「ユミラちょっと来なさい」
ユミラは小走りで村長の所に行く。
村長は小声で
「ユミラ、あの方に治して貰うと言っていたがお金はあるのかい?」
「あっ」
「やっぱり。ユミラ、魔法師に治癒魔法を使って貰うにはかなりのお金が必要なんだよ」
アルは全部聞こえてるが話しが前に進まないためにユミラと村長の元へ行き
「ユミラ、金は取らんよ」
村長とユミラは身体を震わせる。
「えっでも」
とユミラが不安そうに言う。
アルはふぅと息を吐き出し。
「俺は21代魔王の息子アムルス・アヴァナーだ」
ユミラ含め村人全員は一瞬硬直した後平伏す。ゴブリンを倒した時の強さを見ていたからすぐに信じられたのだろう。
「全員顔を上げろ」
アルは無表情で言う。
「村長」
「はいっ」
「病気の2人の場所に案内しろ。ユミラお前も来い」
「はい!」
「他の奴は仕事に戻れ」
「「はいっ」」
ユミラの家に到着するとユミラが扉を開けアルが家に入る。母親は布団で寝ていて顔色が悪い。父親は熱で苦しそうだ。
アルは母親に右手を向け魔法式を構築する。
(なんの病気か知らないけど‥‥)
最上級治癒魔法を掛ける。基本治癒魔法は怪我などに効きやすく病気には効きにくいが最上級は別だ。母親は直ぐに顔色が良くなり目を覚ます。
「お母さん!!!!!」
とユミラは母親に抱きつく。
アルは次に父親に最上級治癒魔法を掛ける。
化膿や傷口が一瞬で治り顔も穏やかな表情になる。安らかに眠っているようだ。
(もう大丈夫だろう)
それを確認するとアルはこの後の展開が予想出来て面倒臭くなり転移でゴブリンの所に行き、右耳3つを切り取り、人間を縛っている場所に戻るのであった。
「おっ起きてる」
人間はその声を聞いて自分達を縛ったのはこの少年と分かったのだろう。
鬼の形相で3人の内の1人が
「おいっガキこれ外せ」
アルは無表情かつ無言で近づき3人の首を撥ねる。アルは少女に殺しを見せたくないため今殺したのである。
周囲は薄暗くなり始めていた。アルは北門の少し手前に転移して北門に向かって歩く。
(ギルドに報告は明日で良いか)
門番のお兄さんと世間話をして北門をくぐり宿屋に戻る。晩飯を腹いっぱい食べアルは眠りにつくのであった。