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始まりの第一歩4

「シスター、ちょっといいですか?」

「あらエマ、どうしました?」


 教会に戻ってすぐシスターに声をかける。この教会で一番の古株のシスターだ。

 多分教会の本の管理はこのシスターと神父様が行っている。なのでとりあえず本を見せてもらうなら、このシスターにお伺いを立ててみようと思ったのだ。


「お願いがあるんです。私、ご本が読みたくて…」

「本?絵本ではなくて?」

「いいえ。おとなの人が読むようなご本が読みたいんです」

「あら、でもエマにはまだそういった本を読むのは難しいのではないですか?」

「大丈夫です!私は今日一つ大人になったんです!だから難しいご本も読めます!」

「ああ!…そうね。エマは今日お誕生日だったわね」


 私とシスターのやり取りを足元で見ていたコロちゃんがすごい顔になっていくのを視界の端で捉える。

 そんな顔をしないでほしい…。私だってやりたくてやっているわけでは無いのだから。でも6歳児ってこんな感じなんじゃないかな…違うかな。


「そうね、それじゃあ…。ああ!そこの貴方!」


 しかし私の熱意が通じたのか、古株のシスターが籠をもって今まさに出かけようとしているシスターに声をかける。


「城下町に行くのならエマも一緒に連れて行ってあげてくれませんか?図書館に行かせてあげたいの」

「え…。でもいいんですか?」

「ええ。エマは今日誕生日ですから、お祝いという事で。ほかの子には内緒にしてあげてください」

「ああなるほど。ええ、わかりましたわ」


 あら…。教会の本は見ることができなかったけれど、なんだかうまい具合に城下町に行くことができるようになったからまぁいいかしら。






「ここまでで大丈夫ですシスター!私、図書館の場所はわかります!」

「あらあら、エマは図書館が待ちきれないんですね。それでは私は本部の方へ行きますので、エマは図書館に居てくださいね。何かあればあの教会に来るんですよ?」


 シスターに連れられて城下町に入ると、私はすぐにそう言った。図書館だけではなく市場にも用事があるのでシスターに図書館まで送ってもらうと困るのだ。

 しかしシスターはそれをいい意味に捉えてくれたようで、微笑ましそうに大きなステンドグラスがはめ込まれた教会を指さす。

 この城下町には私たちがいた教会とは別にもう一つ教会がある。とても大きくて歴史のある教会だ。そこでは王家に仕える神官や、行く行くは司祭になるかもしれない若者達の教育もしてる。

 前に一度だけ祈りを捧げにシスター達と行った事はあるが、外壁は常に磨かれ美しい白を保っており、礼拝堂のベンチ一つ一つにも装飾が施されていた。間違っても孤児たちが沢山暮らせるような教会ではなかったなと冷めた事を思う。

 どうやらシスターはその教会に用事があったらしい。運がいい。教会と図書館は方向が逆だ。


「ええ勿論です。ありがとうございますシスター」


 シスターに頭を下げて私は図書館に向かう。先程もシスターに言ったように道は知っている。城下町に来るのは初めてでは無い。

 この城下町の治安はとても良いので教会の方でも月に何度か子供達を連れて買い物に来たり、たまに年齢が高い子が買い物を頼まれた時にお手伝いでついて行ったりするのだ。


「……コロちゃん、シスターはもう教会へ向かいました?」

「ええ、もうエマ様を見てはいませんよ」


 前を向いたまま小さな声でコロちゃんにささやきかけると、足元からコロちゃんの声が返ってくる。

 本当にコロちゃんは便利だ。そしてなんだかんだ優しい。

 そしてその返答に向かっていた方向をさっと変える。図書館と市場もまた方向が違うのだ。


「まずは市場に向かうのですか?」

「ええ、帰りはシスターが図書館まで迎えに来てしまうでしょうから、今しか市場に行く時間がありませんの」


 子供というのは本当に面倒である。行動できる範囲は狭いし、何をするにも常に大人の目がある。

 前世で一度成人して自由を味わった事があるこの身としては、今の状況は非常に歯がゆい。


「本当は魔法関係のちゃんとしたお店にいきたいのだけど、こんな子供一人でお店に入ったら目立つでしょう」

「まぁそうですね。魔法アイテムは値が張りますから」

「そうなのよね…。なにをするにも、まずは薬を作らなくちゃ始まらないわ」


 内心うんざりするがそれを表には出さずきびきびと歩く。コロちゃんの前では揺らいだり、動揺しているところを見せたくない。

 歩きはじめてしばらくすると次第に周囲が騒がしくなる市場についたのだ。

 活気溢れる声が飛び交い、色鮮やかな出店が並ぶ。食べ物や飲み物を売っている店もあれば雑貨や日用品、衣類等を取り扱う店もある。

 色鮮やかなそれらを見ているだけでテンションが上がってしまうのは、お祭り好きな日本人という前世を持つが故だろうか。


「すごいわ…本当に…」


 ゲームの中や過去のエマの記憶では知っていたものの、こうして実際に自分の目で見てみるとやはり全然違うものだ。

 すっかり本来の目的を忘れてきょろきょろとお店を見回っていると何かにぶつかり小さい体はいとも簡単に弾かれた。


「きゃっ!」

 

 走っていく人の足がみえた。急いでいたのだろう相手は此方に気づくことはなく遠ざかっていく。

 まぁこちらもよそ見していたのだ。お互い様だろう。ちなみにコロちゃんは黙って私を見ている。ぶつかる前に危ないと教えてくれてもいいんですのよ?


 まぁこのまま転がっていても仕方ないと地面に手をついて立ち上がろうとしたとき、ふいに横から手が伸びてきた。デジャブである。つい今朝方同じような経験をしたばかりだ。

 不思議に思ってその手の主に顔を向けるととても奇麗な男の子が中腰で私に手を差し出していた。

 10才くらいだろうか、さらさらの金髪に緑色の瞳。着ているものも平民のそれとは違う装いなので恐らく貴族の子だろう。

 私と目が合うとにこりと微笑むその姿は、まるで宗教画の天使が抜け出て来たような眩さだ…美しいとはこういう事か。

 何処を見ても完璧に整った彼の、しかし少しだけ垂れ気味の目が、作り物めいた彼の姿に人間味を感じさせる。でもその愛嬌のある目に、姿に、なんだろう…とても既視感がある。

 エマには貴族に知り合いはいない。私の前世にもこんな知り合いは勿論いない。


「…なんですの?」

「お姫様を助ける栄誉を、僕に貰えないかと思ってね」


 初対面の私に対し、パチンとウインクをして彼はそんな事をのたまった。…なんだこいつ。

 まるで漫画やゲームの世界の住人のような台詞や仕草にぞわりと鳥肌が立つ。いや、ゲームの世界の住人に間違いはないのか。

 それにしても二次元では許せる行動が、三次元になるとこんなにも破壊力を持つとは…悪い意味で。ドン引きである。


「いえ、結構ですわ。」


 彼の手を避け自力で立ち上がり服についた砂を払う。

 どんなに見目が整っていてもこれでは女の子も近づかないだろう…可哀そうに。これが残念なイケメンってやつか。


「え…あれ、おかしいな。女の子はこうするとみんな喜ぶんだけど…」


 なんと…。残念なイケメンだと思ったのは私だけのようだ。

 この世界ではこれがいいらしい。この全身が凍えてしまいそうな破壊力に耐えられるとは、さすがゲームの世界の住人達…。


 不思議そうに首を傾げて私を見る男の子。おかしいのは明らかに彼方だと思うのに、さも私がおかしいような目で見るのはやめていただきたい。

 これ以上関わると心が削られると判断した私は早急にここから立ち去ろうと決める。


「では、私はこれで。手をお貸しくださったことは感謝いたします」

「あっ…待って、危な」

「きゃあ!」


 彼が何か言いだす前にと踵を返し一歩足を踏み出そうとした瞬間、また何かにぶつかって尻もちをついた。

 なんなんだろう先程から、知らないうちに何かの呪いでももらってしまったのだろうか。


「エル!!俺を置いて行動するのは止めろと言っただろう!!」


 大きな声が頭上から降り注ぐ。どうやら私にぶつかったその人は怒り心頭で私には気づいていないようだ。


「ガイ。今はそんな事を言っている場合ではないだろう。まずは君の足元で震えている小鳥に謝る事が先決だ」


 震える小鳥ってなんだ。まさか私の事じゃないでしょうね。

 もし私が震えているとするならば、原因はそのぞっとする言葉のせいだろう。


「なに?ん…ああ。申し訳ない、大丈夫だったか」

「え?…あ!?ちょっと!!」


 エルと呼ばれた少年の言葉に気を取られているうちに、両脇に手を差し込まれてすごい力で持ち上げられる。

 ガイと呼ばれた少年…いや青年だろうか。彼はしゃがんでいた私を軽々と頭上に持ち上げると下から私の顔を覗き込んできた。


「っ!!!」

「小さくて気が付かなかったんだ。怪我はしていないだろうか」


 短く切られた黒い前髪の陰から心配そうに私を見つめる黒い瞳。鋭く切れ長な形をしたそれは、もしこんな状況でもなければ睨まれていると感じたかもしれない。

 けれど今それらは優しさに溢れて私を見ているのがよくわかるから、私は荒れ狂う内心を抑えて大人しく首を横に振る。


「そうか、良かった」


 私の行動を正しく理解したガイはその端正な顔立ちに控え目な笑みを浮かべて私をゆっくりと地面に降ろしてくれた。

 驚いた…。まだ心臓がどきどきと脈打っている。


「ガイは本当に朴念仁だなぁ」

「そもそもエルが勝手にどこかへ行くからいけないんだろうが…」


 言い合いをする二人をこっそり眺める。ガイはエルよりも随分背が高く体つきも出来上がってきている。16才くらいだろうか。

 腰には立派な剣を携えており、奇麗に背筋を伸ばした立ち姿は、その齢にしてすでに只者では無い雰囲気を醸し出している。


(これは…この二人はもしかして…)


 嫌な汗が背中を伝った。

 先ほどエルに感じた既視感がどんどんと増していく。というか、エルとガイという名前に最早確信をもってしまう。


「ああ、ごめんねお姫様。僕の幼馴染が迷惑をかけてしまって」

「元々はお前のせいだ。しかし本当にすまなかったな。…どこか具合が悪かったら遠慮無く言うんだぞ」


 固まってしまった私に気づきエルがにこやかに声をかけてくる。ガイも申し訳なさそうに私の前に膝をつき頭を下げた。


「もし怪我をしてたらすぐに知らせてね?僕の名前はエッフェル・トゥスキー。エルってよんでね!そこら辺の兵にシャンマルス公爵って言えば多分屋敷まで連れて行ってくれると思うから」

「兵が見ず知らずの子供をお前の屋敷に連れて行くわけがないだろう!俺はガイ・セーン・モンダンテだ。もし後から問題が発覚したら俺に知らせてくれ、大抵兵士の訓練所にいるから」


 ああ…彼らの自己紹介を聞いて私の予想が当たっていたことを知る。相変わらず悪ふざけしているとしか思えないこの名前。間違いない。

 彼らが子供の姿だから気が付くのが遅れてしまった…。


 そう。ゲームではこれから十年後に、金髪碧眼の女誑しの公爵エルと、堅物真面目な王国騎士ガイとして、エマの攻略対象となる二人なのである。

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