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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
肆章 勇者様はドッペルゲンガー
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十話 船って怖い

 窓を見ていると徐々に景色が上方向に動いて行っているのが分かった。

 浮いてる!

 なにこれ、視界が気持ち悪い!

 というか、怖い!!


 私は慌てて窓枠にしがみついた。

 足から力が抜けそうで自然とへっぴり腰になるのが分かった。


「いやいや、急に落ちたりしませんから。大丈夫ですよ」

 天使様は大きな声で笑う。

 よっぽど私のへっぴり腰が面白いようね。


 でも、仕方ないじゃない。

 木に登ったり、大きな建物に登るときとは違う景色の見え方なんだもん。

 普通に生きていて、自分の動きとは全く関係なく、景色が徐々に上に上がっていくなんてある?

 私はないわよ!

 ルドベキアでドラゴンに乗ったときは暗かったし、命がかかっていたから恐怖なんて感じなかった。

 でも、今のこれ、すごく怖い!

 恐怖で涙が出てくる。


 思わず目を瞑りたくなったときだった。

 誰かが私を抱きかかえるようにして後ろに引いた。


「うひゃあっ」

 ひょいっと擬音をつけたくなるくらい軽く、持ち上げるもんだから、私は驚いてまぬけな声を上げた。

 少なくとも乙女が上げるような声ではないな。

 頭の片隅でそう思う。


「怖いなら窓から離れたらよいだろう」

 ふふふと漏れるような笑いを零して、低い声が耳元で囁く。

 この声はもしかして魔王じゃないわよね。

 私の視界に黒い艶やかな髪が揺れた。

 この色、もしかしなくても、魔王じゃないの!


 私はギュッと目を瞑った。


 耳!

 近いんですけど!!


 ぶわっと顔が一気に熱くになるのが分かった。

 どうしよう恥ずかしい。

 私の顔はきっと真っ赤だ。

 私は必死に両手で顔を隠した。


 魔王の愁い帯びた美貌が私の後ろにあるというだけで途端に羞恥心が湧き起こる。

 だって、あの白くて滑らかな肌に、長くて濃い影を落とす睫毛に縁どられたアメジストの瞳、すっと通った鼻、薔薇色の唇が近くにあるのよ。

 こんな近くで造りの粗い私の顔を見られているのよ。

 こんな羞恥プレイ耐えられない!


 私は魔王の顔があるであろう方向を見ることができず、とにかく、魔王から逃げようとした。

 しかし、それより先に、私の体はふわりと別の方向に動いていた。


 私はびっくりして顔を隠すのも忘れて、顔を上げた。


「陛下のお手を煩わせるわけにはいきませんので」

 それはヴィニウスの声だった。


 ヴィニウスさん、あなたの魔王への忠誠心はとても素晴らしいことなのでしょう。

 しかし、抱き寄せられるというか、正面から抱きしめられるような体勢なのは、何故ですか?

 魔王を見ないようにしていた私の顔はヴィニウスの方を向いていたようだ。

 なので自然とヴィニウスの顔は近くなるわけで……


「ぎぃあああ!」

 この状況に耐え切れず、私は叫んだ。


 なんで、お前の顔が私の顔のすぐそばにあるんだよ!

 魔王に比べたら美人度は下がるが、ヴィニウスだってそれなりに整った顔をしている。

 健康そうに日焼けした肌にきりっとした凛々しい眉毛、鼻筋が通っていて、彫りも深く、骨格がしっかりとしていて、男らしい顔立ちだ。

 それとは対照的に、性格に似あわず、穏やかそうに垂れた目には翡翠色の瞳が静かに私の顔を映していた。


 あとね、筋肉。

 筋肉がすごい。

 大胸筋?

 腹筋?

 服の上からなのにものすごく感じる。


 なんだこれ?

 コイツら私をどうしたいんだよ!!!!


「うるせえな」

 ヴィニウスはそう呟くが、私を離そうとしない。


 なによ、なんなのよ!

 誰か助けて!

 私は半分泣きそうになりながらされるがままになっていた。


 前にヴィニウス、後ろに魔王。

 悩ましい美貌がそこにはあった。

 どう動いても詰んでるじゃない!

 なんでこうなるのよ!


「「まあまあ、ここはワタクシが……」」

 ジェスカちゃんたちは2人がかりでヴィニウスから私を引き剥がすと、にこにこと手を引いてその場から離れてくれる。

 その手際の良いこと。

 流石は勇者様。


「ジェスカちゃん……」

 私はジェスカちゃんたちに手を引かれながら少し泣いていた。

 私のちっちゃなプライドはズタズタだった。

 せめてもう少し、胸が大きくなるとか、女らしい体つきであるとか、顔だって可愛らしければ何とかなったかもしれない。

 どうせ、私はおこちゃま体系、顔も魔族の中では中の中、学もなけりゃ、性格だって可愛げがないわよ。

 う、つらい。


「「お姉様、そんなに怖かったのですね。無理をさせてすみません。さあ涙を拭いてくださいませ」」


 2人のジェスカちゃんに涙を拭かれ、鼻水を拭かれながら、私はヴィニウスと魔王を呪った。

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