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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
弐章 勇者様の憂鬱─囚われの幼なじみの救い方─
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三話 勇者は語る

「ワタクシ、ジェスカ・D・クライシアは、魔術師の村に生まれた超天才美少女ウィッチだったんです」


 確かに、ジェスカちゃんは自分で言うほどの美少女である。


 しかも、ウィッチ。

 ということは、魔法が使える人間であるということだ。

 魔法が使える人間は貴重な存在だった。

 人間は使える魔力量が足りなくて魔法があまり使えない。

 でも、例外的に普通の人より魔力量が多かったり、少ない魔力量を工夫して使うことができたり、そういうのが得意な人もいる。

 その中でもそれを仕事にしている人を魔術師やウィッチと呼ぶ。

 名称の違いは得意分野の違いや地域性によって違うものの、そう言う特別な力を持つ人は珍しい。


 つまり、ジェスカちゃんは普通じゃない村の更に普通じゃない人だということだ。


「ところがです! このユースティティアの剣の所為で」

 ジェスカちゃんは背負っていた剣を取り出す。

 剣と言うよりは刀や細剣のようなそれに一瞬私は戸惑った。



「これがユースティティアの剣!?」

 驚いた。

 正義の剣として有名な聖剣じゃない。

 確か、何処かの街の広場の真ん中にあったはず。

 千年ぐらい前のそこは戦場で、勇者とその仲間が悪政をしていた王を滅ぼしたとされる。

 そして、要らなくなった剣をその地に刺して魔力で封印した。味方も敵もなく、全ての死者の慰めとなるように。

 また悪政が蔓延るようになったとき、真の勇者のみがそれを手にすることができるという伝説の剣。


 人間は商売上手と言うか、がめついと言うか、その剣見たさに訪れる観光客目当てに周りに街を作って今に至るんだったっけ。


「そうなんです。それを抜いちゃったんですよ、遊び半分ですっぽりと。屈強な男の方、2人掛かりでも抜けなかったのに」


 ジェスカちゃんは意外にマッチョだったのね。


「街の人とか怒ってたりしなかった?」

 私は怒り狂う街の人々を想像した。

 怖い。

 怖すぎる。

 世紀末系マッチョ集団が見える。


「街の人は勿論、聖剣に挑戦していた屈強な人々も怒ってしまって……」


 やっぱりマッチョ集団も怒り狂ったらしい。

 そりゃ、怒ってしまうだろう。

 見たところ十代後半ぐらいの小娘が、自分たちは抜けなかった剣をたやすく抜いてしまったら。


「ワタクシだってずっと勇者様に憧れていて、一緒に旅をする為に魔術も一生懸命勉強してたんです。それなのにこの聖剣を抜いたのがワタクシだなんてあんまりですよ。一緒に街に滞在していた幼なじみも街の人に捕まってしまうし、ドラゴンの鱗か角を持って来ないと助けられないし」


「捕まって……もしかして、それって人質ってこと?」


 間抜けすぎるよ、幼なじみ君。


「えぇ。彼は、魔術師の村に生まれたくせに魔術はからっきしダメで、代わりに剣の腕は一流なんです。それで聖剣にも挑戦したんですけど、やっぱりダメで、結局はワタクシが抜いてしまったでしょ。ショック受けて寝込んでいた時だったんです」


 うわぁ、それはショックかも。

 だって、魔術がダメで素質がないから剣を極めてきたんでしょ。

 もしかしたら、聖剣が抜けたら魔術師を諦めて勇者になろうとしたのかも。

 それなのに自分より魔術の出来るジェスカちゃんが抜いちゃった。

 職業は生まれで決まると相場が決まってるんだもの。

 彼の決心はどうなるのよ。

 私は幼なじみ君に深く同情した。


「そして、ドラゴンを倒しに行く途中、森で遭難してしまったのです。やっと道に出たけど場所が分からないし、食料も底を尽きていて途方に暮れていた時でした。馬車が見えたんです。手を振ったんですけど、止まってくれなくて、そこら辺の石を魔法で投げつけていたら……」


「私の頭にぶつかったのね」


「そうです」

 ジェスカちゃんは頷く。


 私が頭を打ったのは、この眼鏡が馬車をすぐに止めなかった所為なのか。

 ジトっと私は眼鏡を睨んだ。


「なんですか、お嬢さん? 私は馬車を止めましたよ」

 眼鏡は首を傾げる。

 そんな仕草したって性悪腹黒眼鏡なのは分かっているのよ。

 騙されないんだから。

 全く、どんな面下げてそんなこと言ってんだか。


「べっつにー。誰もアンタの所為でなんて一言も言ってないわよ」

 確かに一言も言っていない。

 思っただけよ。


「でも、思いましたよね」


 げ、何で分かったのよ。


「何となくですよ」


 まさか、この眼鏡は私の心を読んでいる?


「そんなまさか!」

 さっきから口に出してないことを確実に眼鏡は返してきている。

 魔王以上に魔王らしい奴だわ。

 よし、今日から奴のキャッチフレーズは魔王より魔王らしい従者、或はサタニズムグィールだ。

 きっと魔王様崇拝し過ぎて読心術を会得したのね。


「まぁ、眼鏡はひとまずほっといて……ジェスカちゃん」

 これ以上コイツに構っていると話が進まない。

 眼鏡はほっておくに限る。


「は、はい!」

 ジェスカちゃんは自分に話を振られるとは思っていなかったらしく、驚いたように返事をした。


 確かに人間はお馬鹿だし、私利私欲の為に活動する。

 休戦協定結んだはずなのに魔族を倒そうとするやつらもいる。

 人間同士で争いもする。

 でも、魔族を目の前にしても普通にしているジェスカちゃんは確実にお馬鹿爆進中のアホアホ種族には貴重な人材だ。

 それに勇者だし、今後魔王を倒すことを考えると助けるだけの価値はありそうだ。


 全ては復讐の為に。

 私は内心にやりと笑った。

 腹黒い笑みなのは眼鏡には負けるけど。


「一肌脱がせてもらおうかしら。私、スクルド・A・シレーネ、二十四歳。ジェスカちゃんに力を貸すわ!」

 

「お姉様!」

 ジェスカちゃんは感動したように叫ぶ。


 かくして、勇者様が仲間になりました。

 まずは、どうにかしてジェスカちゃんの幼なじみくんを助けなきゃ!


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