四話 赤に染まる
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私たちが会場に着くと、パーティはもう終わったようで会場から出ていく客や名残惜しそうに話をする客たちがいた。
「お姉様!」
ジェスカちゃんの声がした。
辺りを見回すと、何かを引きずるジェスカちゃんの姿があった。
よくよく見ると、それはリザルトだった。
泥酔しているらしく、サルみたいに真っ赤な顔をして何やらむにゃむにゃ言っている。
うん、何を言っているのかさっぱり分からないわ。
サルならサルらしくお山に帰ればいいんだわと毒の1つも吐きたくなる。
というか、コイツまったく歩けていないじゃない。
どんだけ飲んだのよ。
私は同じペースで飲んでいたはずの再従弟の顔を見た。
ヴィニウスはもう酒が抜けきっているようで、メイドを呼び止めて、少々きつい酒を持ってくるようお願いをしていた。
コイツ、まだ飲む気?
アスティアナさんのお仕置きが足りていないんじゃないの?
私は呆れて、リザルトとヴィニウスを無視することに決めた。
「もう帰るの?」
「ええ、今日はノショウで宿をとろうかと思っていたのですか……」
ジェスカちゃんはリザルトに目を落とす。
「それじゃ、移動は難しそうね。私も泊まっていくし、アスティアナさんにお願いして泊って行ったらどう?」
「そうですね。そうしていただけるならありがたいですわ」
「じゃあ、アスティアナさんに言ってくるね」
そう言って、私はその場を離れようとした。
そのときだった。
頭から冷たいものが降り注いだ。
私はあっという間に赤に染まる。
白いドレスを着たのは失敗だったようね。
このドレス高かったのにこんなにシミになって。
私はそんなことを考えながら真っ赤に染まる自分のドレスを見つめる。
私を中心に悲鳴が広がった。
アルコールの臭いが鼻をつく。
この色、臭い、赤ワインに違いないわ。
冷静に分析しながら、ドレスの染み取りについて考えるが、こうも広範囲の染み落ちそうもないとすぐに結論に至る。
「おい、クソババア!」
ヴィニウスの怒鳴り声がした。
顔を上げると、ヴィニウスが見たことのある水色の髪をした女性に食って掛かっていた。
「ヴィニウス、私は何ともない。だから、そんなに怒らなくても大丈夫よ」
周りが怒っていると妙に冷静になれるものだ。
いつもなら激怒してしまうところなのだが、私は冷めていた。
それよりもヴィニウスがこの女性を殴り殺してしまうのではないかと、私は心配になってしまう。
まあ、この女性が私の想像通りの人物であれば、それは杞憂で済むのだが。
「ヴィニウス、何故こんな娘を庇うの!」
ゴトンという鈍い音とともに、ワインの瓶が床に落ちて赤い水溜りを作る。
「庇うとかって問題じゃねえよ。自分がやったことを考えろ!」
「まあ! わたくしからアイビスだけでなく、ヴィニウスまで奪う気? この泥棒猫!」
その女性は髪を乱しながらこちらを向く。
そして、ヴィニウスそっくりの、人を殺せそうな形相で私を睨みつける。
嗚呼、やっぱり思った通り、ヴィニウスの母親だったわ。
泥棒猫なんて言葉、現実で使うこともあるんだ。
私は妙に感心してしまった。
「何の騒ぎですか!」
アスティアナさんの大きな声が響く。
「大丈夫! 大丈夫だから来ないで!」
その声に私ははっとして慌てて叫んだ。
あのアスティアナさんだけには、身内が争うようなこんな姿見せたくなかった。
私の願いは虚しく、アスティアナさんは人混みを掻き分け、私たちの元へたどり着く。
「何をしているのです! ミスティア!」
アスティアナさんは真っ赤に染まる私とヴィニウスに詰め寄られているヴィニウスの母親を見て叫んだ。
「お義姉様まで……この娘を庇うというの!」
ミスティアと呼ばれたヴィニウスの母親はそう叫ぶと、その場に崩れ、しゃくりあげながら泣き出す。
以前に会ったときの優雅さはそこにはなく、ワインにまみれ、子どものようにひたすら泣く彼女はとても哀れに見えた。
「スクルド、ごめんなさい。こんな目に合わせてしまって」
アスティアナさんはヴィニウスの母親を無視して、さっと上着を脱ぐ。
そして、私の肩に上着を掛けた。
「そんな……アスティアナさんが謝ることではないわ」
「いえ、私の責任です。本当にごめんなさい。勇者様にもご迷惑をお掛けしてすみません。今、替えの服を用意させますからまずは着替えてください。クロリス、スクルドと勇者様をお連れして。ワインで服が汚れてしまっていますから」
アスティアナさんはテキパキとメイドを呼びつける。
「ヴィニウス、申し訳ありませんが、ミスティアを落ち着けるような場所に移動させてください。私は後からそちらに伺います」
アスティアナさんの言葉にヴィニウスは静かに頷く。
「お義姉様、話を聞いて! お願いよ!」
泣き叫ぶ母親を抱きかかえてヴィニウスは奥へと退室する。
「さあ、行きましょう。スクルド様、ジェスカ様」
メイドのクロリスが私たちを促す。
私たちはヴィニウスとは別の方向に向かって歩き出した。
「皆様、お騒がせ致しました」
後ろでアスティアナさんが客に向かって謝る声が聞こえた。
今日は色々なことがあったわね。
私はとても疲れてしまって、深くため息を吐いた。




