二話 パーティ会場
私は清々しい気持ちでジェスカちゃんとニコラウスさんの方を向く。
「さあ、お話を続けましょう」
戸惑うニコラウスさんに私は笑顔を浮かべ、話をするよう促す。
「あ、嗚呼、魔族は個人の名前と苗字の間に種族の頭文字を入れる習慣があります。ドラゴン族ならD、鳥のような翼の有翼人ならA、獣人はTと言ったように」
戸惑うようにニコラウスさんは話を始める。
「確かに、私の名前にはAが入っているわね」
意識したことなかったけど、ヴィニウスの名前もヴィニウス・A・ハルピュイアって名前だし、グィルセンヴォルフもグィルセンヴォルフ・T・ナハツェールだったわね。
AとかTとかその一族を示す頭文字だとは知らなかったわ。
「スクルドさんの一族――有翼人の中でも鳥のような翼をもつ一族は、先祖が天使であると考えられているので、Aの文字を用います」
「おお! お姉様は天使のようなお方ですもの。納得ですわ!」
ジェスカちゃん、持ち上げすぎよ。
私はジェスカちゃんの言葉に照れてしまう。
「じゃあ、ジェスカちゃんのDは……」
「勇者様の村でDが多いのはおそらく、ドラゴンの誇りを忘れぬようにとドラゴンの血を継ぐ者が名乗ってきた名残なのではないでしょうか? ドラゴンは自分の持つ血に誇りを持っていますから」
「じゃあ、ワタクシたちにもドラゴン族の血が流れているということですの?」
「その可能性が高いかと……」
やっぱりね。
ジェスカちゃん、普通じゃないもの。
ドラゴン族の血が混じってるなら、魔力が強いのも理解出来るわ。
私はニコラウスさんの話に大きく頷いた。
「あら、ヴィニウスとリザルトさんはどうしてしゃがみこんでいるの?」
私たちが話をしていると、アスティアナさんがうずくまる二人に声を掛けていた。
「あ、アスティアナさん、気にしないで。コイツらが話の邪魔をしてくるからちょっと黙らせておいたところなの」
涙目の二人に代わって私はそう答える。
アスティアナさんはそれを聞いて、声を上げて笑った。
「それで、スクルドにやられたんですか? だらしないですね。ちょっと鍛え直しますか?」
その言葉を聞いてヴィニウスは頻りに頭を振った。
「不意打ち! 不意打ちだから!」
そう言った後、ヴィニウスは嘔吐き始める。
思い出し笑いならぬ思い出し嘔吐きだろうか。
先程までは何もなかったのに。
「俺も吐くかも……」
それまで黙っていたリザルトは小さく呟く。
アスティアナさんは大きくため息を吐く。
「分かりました。わたしがこの二人の酔いを醒まして差し上げますので、スクルドと勇者様はファブニル殿と一緒に楽しんでください。ファブニル殿、この度はお越しくださりありがとうございます。甥が失礼いたしましたわ。どうぞ楽しんで行ってくださいませ」
アスティアナさんはそう言うと、二人を引きずりながら外へ向かっていった。
アスティアナさん、すごく楽しそうに笑いながら二人を運んで行ったけど、何をするつもりなのかしら。
確か、アスティアナさんのお仕置きは怖いってヴィニウスが言っていたような……
突然、背中に悪寒が走った。
うん、考えるのはやめよう。
あのヴィニウスが怖いというお仕置きだもの。
相当なものに違いない。
二人のことが気になったが、私は考えることをやめ、この場を楽しむことにした。
***
夜も更け、帰ろうとするお客様がメイドに向かってアスティアナさんの所在を聞いていた。
漏れ聞く話からアスティアナさんが会場にいないことで帰れず困っている様子だ。
私は一緒に話していたジェスカちゃんとフローラちゃんに断りを入れ、その場を離れると、メイドとそのお客様のところへ向かった。
私はメイドとお客様の間に入ると、自分がアスティアナさんの身内であることを説明し、主催者の不在を丁重に謝った。
お客様は怒った様子もなく、寧ろ申し訳なさそうに、主催者に挨拶できず途中で退席する非礼を謝ってくださる。
私はアスティアナさんにその旨伝えることとお土産を渡し、納得してもらうことに成功した。
私は辺りを見回す。
やっぱり、会場にヴィニウスとアスティアナさんがいない。
いつからいないのだろう。
まさか、二人を連れて行ってから?
私は辺りを見回してリザルトを探す。
すると、リザルトは一人で会場の隅でおとなしく酒を飲んでいた。
どうやら別行動をとっているらしい。
先程のこともあるし、絡まれる可能性もある。
リザルトに二人の居場所を聞くのはちょっと面倒ね。
しかたない。
私はため息を吐く。
手掛かりのないのでとりあえず屋敷内を探すことにしよう。
主催者がいないと帰りたくても帰れない人がでてきてしまうものね。
***
騒がしい会場を少し離れると、急に辺りは静かになる。
酔い覚ましに行ったまま帰ってこないというのなら、風に当たれる場所にいるはずよね。
そう思い、バルコニーや玄関のあたりを探すが、二人は見当たらない。
他におもいあたる場所は中庭だけだ。
中庭に向かう廊下は人通りがない。
月が出ているとはいえ、暗い中庭に本当に人なんているのかしら?
私は疑いながら廊下を歩く。
もうすぐ中庭だ。
ここにいなければ、別の場所を探さなければならない。
そう思っていると、大きな声が聞こえた。
女性と男性、二人が言い争っているようだった。
私は驚いて廊下にあった調度品の影に身を隠した。




