一話 パーティという名の打ち上げ
あのドラゴン狩りの事件から数ヶ月。
ようやく村の復旧も終わった頃、アスティアナさんの提案もあってノショウにある屋敷でお疲れ様パーティを開くことになった。
ドラゴンの村にいた村人と、復旧に関わった軍人、ジェスカちゃんとリザルトなどなど、色々な人が屋敷に集まった。
パーティというよりもお祭りのような賑やかさに私の胸は高鳴る。
主催のアスティアナさんが前に出て挨拶を始める。
「皆様、ご苦労様でした。お陰様で無事にドラゴンの村も復旧することができました。ご協力、本当にありがとうございます。今後の課題としては国境の守りを強化しつつ、さらにドラゴン狩りへの警戒を強めるために……」
「ババア、さっさと飯を食わせろー」
ヴィニウスの野次が飛ぶ。
くすくすと周囲から笑い声が聞こえる。
アスティアナは眉を顰めてヴィニウスの方を見た。
ヴィニウスは顔色を変えてさっと人影に隠れた。
隠れきれていないのを気づいてないのかしら?
図体がでかくて普通の人の後ろに隠れられるわけがないでしょうに。
私は呆れてヴィニウスを見つめた。
「まあ、お腹が空いている方もいるようですので、このくらいにしておきましょうか。今日は無礼講です。立場を忘れて楽しんでください」
咳払いをすると、アスティアナさんは笑顔を作り、話を締めた。
流石は将軍。
分かっていらっしゃる。
嗚呼、でも、きっとあとでヴィニウスは血祭りにあげられることだろう。
アスティアナさんが壇上からいなくなると、皆、思い思いのものを皿に載せていく。
ビュッフェスタイルのパーティが始まった。
早速、向こうでリザルトとヴィニウスは肩を組んで酒盛りを始めていた。
楽しめるのも今のうちだけよ。
私はそう思いながら、その様子を眺めた。
二人は乾杯をすると、一瞬のうちにビールのジョッキが空く。
二杯目も同じように二人は一瞬で飲み干していた。
うげぇ。あんなペースで飲むなんてやばいヤツらだ。
私は酒を飲んでいる間の二人には近付かないようにしようと心に決める。
さて、私もジェスカちゃんもお酒が飲めないので大人しく食事をしていた。
ケーキも沢山あるし、今日だけは我慢せずに色々食べちゃおうっと。
「先日はきちんとご挨拶できませんで、申し訳ございませんでした」
そう言いながら、見たこともない渋い老紳士が私とジェスカちゃんに近づいてくる。
「あのう、どちら様でしょうか?」
綺麗なオレンジの瞳がじっと私とジェスカちゃんを見つめる。
何処かでみたことのあるような色ね。
「失礼しました。わたくし、フローラとラウラの祖父のニコラウス・D・ファブニルと申します。お二人には二度も孫を救っていただいた上に、村を救っていただいてありがとうございます」
「ああ! こちらこそご挨拶もせず、申し訳ありません。スクルド・A・シレーネです。こちらは勇者の……」
「ワタクシはジェスカ・D・クライシアですわ。よろしくお願いします」
「おお! もしや、勇者様はDの家系なのでは?」
ニコラウスさんの瞳が輝く。
「ええ、理由はよく分かってないのですが、ワタクシの村ではほとんどの者の名前にDがついておりますの。何かご存知なのですか?」
ジェスカちゃんは不思議そうに首を傾げる。
そう言えば、リザルトの名前にも確かDが入っていた気がするわね。
「お前らそんなことも知らないのかよ!」
そこに酔っ払い二人組が乱入してきた。
酒盛りに飽きたのか、肩を組んだヴィニウスとリザルトがうざいテンションで絡んでくる。
「ハウス!」
私は二人に向かって叫んだ。
とっとと自分のいた場所に戻って酒盛りでもしてりゃいいのよ!
「えー、スクルドちゃん酷くない?」
リザルトが馴れ馴れしく私に向かって言う。
コイツ、いつもは私のこと「お嬢ちゃん」っていう癖に今日は「スクルドちゃん」って呼ぶのね。
少しばかり馬鹿にしている感はなくなったけど、「ちゃん」付けされるほど仲良くなった覚えはないわよ!
しかも息が酷い匂いがする。
嗚呼、もう酒臭くてやってられないわ。
「酷くない! くそ酔っぱらい共! いい加減にしろ!」
私はそう叫んで、リザルトとヴィニウスに肩パンを入れるが、全く効いていない様子だった。
どうやら酔っぱらいは痛みに強いらしい。
私だって最近アスティアナさんにちょこっと鍛えてもらってるから多少は筋力がついたはずなのに。
こうなったら、コイツらの綺麗なお顔がボコボコになるまで殴るか、さもなくば鼻にピーナッツを詰める刑に処すしかないわね。
私はパーティ会場にピーナッツがないか辺りを見回した。
「で、Dって何なんですか?」
一方、酔っぱらい共の絡みを無視してジェスカちゃんは話を続けようとしていた。
嗚呼、ジェスカちゃん、ここは私に任せてあなたはニコラウスさんの話を聞いてちょうだい。
「Dというのは……」
「DはドラゴンのDだぞ! Aはエンジェルで有翼人だぞ!」
ニコラウスさんの話を遮ってヴィニウスは大きな声で叫ぶ。
「嗚呼、もう、話に入ってこないでよ!」
私はヴィニウスの腹に鋭い突きを放つ。
突きを受けたヴィニウスはカエルの潰れたときのような声を上げると、腹を抱えてうずくまる。
ピーナッツがなかったので、咄嗟に暴力をふるってしまった。
レディが暴力をふるってしまったのは、アスティアナさんやケイト女史的にはよくないことだが、無礼講と言っていたし、この際、目を瞑ってもらおう。
まあ、本音を言えば、静かになって清々した、のよね。
私はついでにリザルトの腹めがけて膝蹴りを入れた。
打ち所が悪かったのか、リザルトもうめき声を上げ、しゃがみこんだままだった。
二人とも腹筋の鍛え方がまだまだのようだわ。




