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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
参章 将軍の苦境─正しいお見合いの断り方─
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終幕 ドラゴンの村

 ***


 シャッテンがいなくなると装置の前にあった見えない壁はなくなっていた。

 そうなると、あとの作業は簡単で、最後の装置もヴィニウスの蹴り一発で沈黙したのだった。

 あの装置、私のパンチやキックじゃびくともしなかったのよね。

 私は己の非力さを痛感し、帰ったらアスティアナさんに鍛えてもらおうと心に決めたのだった。


 こうして、全ての装置を壊すことに成功した私たちは村に戻ってきた。

 村は酷く壊れており、ドラゴンたちを手当する軍の兵士や村人の姿があった。


 向こうの方からジェスカちゃんが走ってくるのが見えた。


「お姉様! ご無事……とは言い難いですが、生きて帰ってきてくださって何よりですわ」

 三角巾の代わりにと、アスティアナさんがスカーフで吊ってくれた左腕を見てジェスカちゃんがそう言った。


「ありがとう。ジェスカちゃんも体調が戻ったみたいで何よりだわ」


「お姉様の再従弟さんのおかげですわ。いただいたお水を飲んで少し休んだらこの通りです!」

 ジェスカちゃんはくるりとその場で回ってみせる。


「勇者は有力な戦力だからな。さっさと治ってもらえばこっちも楽だろう?」

 ヴィニウスは淡々と言う。


「勇者様、ご気分を害してしまって申し訳ございません。彼の言葉は照れ隠しですので寛大なお心で受け止めていただけると幸いです」

 アスティアナさんは即座に仕事モードになって丁寧に頭を下げた。


「ええ、心得ておりますわ。ちょっと恥ずかしがり屋でぶっきらぼうな言葉遣いになってしまうだけの方なんですよね」

 ジェスカちゃんは可愛らしい笑顔で応える。


 ああ、バレていらっしゃる。

 ヴィニウスはお馬鹿だけど心優しいお馬鹿なのがバレている。

 まあ、そうよね。

 他人が怪我して泣いていたあの泣き虫ヴィニウスだもの。

 昔から優しいのは間違いないわ。


 アスティアナさんとジェスカちゃんの言葉にヴィニウスは顔を真っ赤にすると、村の中心に向かって歩き出した。


「どこに行くのよ!」


「うるせえ! ついてくんな!」

 ヴィニウスは怒ったように叫ぶ。

 ははあ、これも照れ隠しってやつね。


 私はニヤニヤとヴィニウスの背中を見つめた。

 今はほっといてあげるけど、面白いから今後のネタにしてやろうっと。


「スクルド。ちょっと」

 アスティアナさんが手招きをする。


「はいはいはい」

 私がそばに寄ると、アスティアナさんは盛大なため息をついた。


「あのう?」

 困惑する私に向かって、アスティアナさんは安堵の笑みを浮かべた。


「よかったです、今回も生きていてくれて。本当に貴女の行動には驚かされますよ。心配もしましたが、一度ならず、二度も魔族を守るなんて流石はグラウスの子です」


 グラウス――父様の名前だ。

 アスティアナさんの言葉に誇らしいような気持ちになる。


「ありがとう。そう言えば、どうしてここにアスティアナさんが?」


「嗚呼、発信機です。貴女に渡したペンダント、発信機になってるんですよ」


 私は慌てて胸に手を当てた。

 そう言えば、このペンダントずっと着けていたわ。


「発信機とバレやすいものだと敵に捕まったときに捨てられてしまいますからあえてペンダントにしました。スクルドも気付いていなかったのなら成功ですね」


「じゃあ、ずっと私の居場所が分かっていたってこと?」


「そうです。ヴィニウスが一緒だということもすぐに分かったので安心していたのですが、ノショウと逆の方向に向かっているみたいだったので、お迎えにあがりました」


 なんてことだ。

 じゃあ、私たち、慌てて帰ろうとしなくてよかったんじゃない。

 海に落ちたり、遭難しかけたりしたのは完全に無駄だったということか。

 まあ、この村を救うことが出来たのだから結果的には良かったのかもしれないけど。


「良かったですわ。お迎えに来てくれるような方がいて」

 ジェスカちゃんはしみじみと噛み締めるように言う。

 

 そうだ。

 ジェスカちゃんは私の身の上を知っているんだった。

 ルドベキアに向かう馬車の中で父様と母様が亡くなったという話をさらっとしただけだったと思うが、よく覚えてくれている。

 可愛くて優しいジェスカちゃんは本当に人間の鑑ね。


「そうでした! 遅れてしまって申し訳ございません。勇者様、我らの民を救っていただき、ありがとうございます。このことについては私の方からも陛下にご報告いたします。何らかの御礼をさせていただくようになると思いますが、よろしいでしょうか?」

 アスティアナさんは慌てたようにジェスカちゃんに向かってそう言った。


「御礼なんて……ワタクシは自分のできることをしただけですもの。恐縮してしまいますわ」

 ジェスカちゃんは手をヒラヒラと振って困ったような表情をする。


「そんな謙遜をなさらず。スクルドを守ってくださったことに関しても私の方から御礼をさせていただきたいと思っておりますので、是非!」

 相変わらず、有無を言わさないアスティアナさんの圧はすごかった。


「アスティアナさんがそう言うのだから素直に従ったほうがいいわ。私も御礼をさせてほしいし」


「お姉様が言うのなら……有難く頂戴致しますわ」

 ジェスカちゃんは戸惑うようにそう言った。


「無事だったか?」

 向こうでリザルトとフローラちゃん、ラウラちゃんが手を振っていた。


 ジェスカちゃんが手を振って答える。


「さて、ここでこうしてちゃだめよね。村の復旧手伝わないと!」

 私はリザルトたちの方に向かって走り出した。

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