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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
参章 将軍の苦境─正しいお見合いの断り方─
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二十七話 謎の声の正体

 深く考えず、左の文字を消せと言う言葉に私は素直に従った。


 素早く土人形(ゴーレム)の懐に入る。

 振り回している腕を避けながら、ナイフを滑らせた。

 ナイフで軽く、左の一文字を撫でる。

 すると、あっさりと文字は消えた。


 文字を消された土人形(ゴーレム)は急にぎこちない動きになる。

 そして、次の瞬間、溶けるように崩れた。

 あまりにも勢いよく崩れるものだから、私は土砂を浴びた。

 幸い、ほんの少しかかる程度だったから良かったものの、一歩間違えたら生き埋めになるところだったわ。


 今までの苦労はなんだったのよ!

 そう思うが、それよりも強敵を倒してやったという達成感が上回る。


「ヴィニウス! やったわ!」

 そう叫んでヴィニウスの方を見る。

 ヴィニウスの近くにいた土人形(ゴーレム)が崩れるのが見えた。

 そうやら、ヴィニウスも土人形(ゴーレム)を倒すことに成功したらしい。


 そりゃあそうか。

 私でもできたんだから、体力馬鹿のヴィニウスにできないわけがない。


「あっさりしたもんだな」

 ヴィニウスは手を振って付いた土を落としていた。


「ということは、あと二体ね」


「いや、あと一体……アイツだけだ!」

 ヴィニウスがそう言うと、さらにもう一体の土人形(ゴーレム)が崩れ落ちる。

 コイツ、一気に二つも相手にしていたのかよ。

 私は驚きながら、ヴィニウスを見た。


 本当にコイツ、あのヴィニウスなのかしら?

 疑いたくなるけど、今はそれどころじゃない。


「ちっ」

 少年は舌打ちをすると、乗っていた土人形(ゴーレム)から飛び降りる。


 私とヴィニウスはいつ攻撃されても迎え撃てるように半身をとって構えた。


 少年はやれやれと言いたげに頭を振る。

「君がここに来るとは意外ですね」

 少年は攻撃を仕掛ける様子もなく、そう言いながら私の方をじっと見つめた。


 ん? よく見ると、目線がわずかに私たちよりやや右側を向いていた。

 どうやら、私たちに言ってることではないようね。


 私は後ろを振り返る。

 そこには、空色の髪にモノクルがトレードマークのアスティアナさんがいた。

 しかし、その髪や肌は何故か、赤く濡れていた。

 血?


 ブルリと背中を震えた。

 私は慌ててヴィニウスのもとに向かう。 


「意外ではないでしょう? 私は国民を守る剣であり盾ですもの」

 アスティアナさんはにっこりと優雅に微笑んだ。


「ババア、アイツが……」

 ヴィニウスはアスティアナさんの登場に心なしか嬉しそうな表情を浮かべていた。


「聞いておりました。せっかく捕まえた悪人どもを殺したのはコイツなんですね。ヴィニウス、貴方がスクルドを守ろうとしたことは良くやったと褒めてあげたいところです。が、教えたことをすぐに思い出せなかったこと、スクルドが怪我をしたことに関しては減点せざるをえません」

 アスティアナさんは冷たく言い放つ。


 ヴィニウスは少し俯きながらしゅんとした顔をする。

 偉そうなことばっかり言ってるヴィニウスが怒られた子どものように小さくなっているのは小気味よい。


「その様子だと……そうですか。僕の部下を殺してくれたようですね」


「部下? 駒の間違いでは? 貴方がそんな人間らしいこと、思っていないでしょう? 」

 アスティアナさんは冷たく笑う。

 こんな顔のアスティアナさん見たことがない。


 私は怖くなって、ヴィニウスの服を掴んだ。

 ヴィニウスがこちらを向く。

「大丈夫」

 小さく優しく囁く。


 私は少しほっとした気持ちになって、アスティアナさんと少年のやり取りを見守った。


「嗚呼、そうですね。その方がしっくりと来る……流石は将軍様!」

 少年は喉を鳴らして笑う。

 この状況で笑える心境が私にはわからなかった。


 少年はやれやれと言った感じで頭を振る。

「しかし、将軍が来たとなると、残念ですが、分が悪い」

 少年は指をパチンと鳴らす。


 すると、最後の土人形(ゴーレム)は崩れ、土砂の山に変わる。


「逃げるのか?」

 ヴィニウスが慌てたように問う。


「勿論です。僕は小心者ですので」

 少年はニヤリと笑うと、もう一度指を鳴らした。

 ふわりと、少年は宙を浮く。


「待ちなさい!」

 アスティアナさんが叫ぶ。


「いえ、待ちません」

 少年は小馬鹿にしたようにそう返す。


「シャッテン! 貴方はドラゴンを捕まえて何を造ろうとしているのですか?」


 アスティアナさんの言葉にぴくりと少年は反応する。

 シャッテン。

 それが少年の名前らしい。

 どうやら、アスティアナさんと知り合いのようだ。


「本当は分かっているでしょう? 僕がつくるのは今も昔も薬ですよ」

 少年は唇を歪め、笑う。

 そしてローブを翻すと、跡形もなく消えた。


「消えた!?」

 私は思わず叫んだ。


「彼の十八番ですよ」

 アスティアナさんは少年がいなくなった場所を見つめ、そう呟いた。

 アスティアナさんの瞳には強い意志が込められているようだった。


 私は何も言えずに、アスティアナさんと同じように少年がいたはずの場所をずっと見つめていた。

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