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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
弐章 勇者様の憂鬱─囚われの幼なじみの救い方─
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ニ話 美少女勇者登場!

 ***


 若い身空で死ぬのは嫌だわ。

 まだ24歳だし。

 美人薄命ってやつかしら。


 でも、出来れば老衰で死にたかったわ。

 孫とか子どもとかが枕元に居て死に水とってくれんの。

 シワシワで死ぬのはちょっと嫌かもしれないけど。

 やっぱり死ぬ前には恋愛とかきちんとしてからが良かったな。

 慎ましく仲睦まじい新婚生活もしたかった。

 子宝にも恵まれたかった。

 で、コウノトリさんにも会いたかったわ。


 しかし、仇を助けて死ぬのもなかなか間抜けだったな。


 というか、復讐!

 そうよ!

 復讐すらちゃんとできずに終わるなんて。

 今ここで死んでどう両親に顔向けできるんだ。


 なんか後悔とかばっかりで泣けてきた。

 何でこうも上手くいかないんだろう。


「スクルド……スクルド……」

 優しいテナー。

 ううん、もっと低い。バリトンかな。

 腹に響く声で甘ったるく私を呼ぶ声。


 甘いと言えば何かお腹すいたな。

 何時ぐらいなんだろう。


 そうよ、そうだったわ!

「昨日から何も食べてない!」


 あ、れ? 明るい陽射しこんにちは。

 魔王と眼鏡と、見知らぬ女の子こんにちは。

 今日の私にこんにちは。


 あれ? 魔王の顔が近いね。


 じゃなくて、生きてた。

 生きてたのよ。

 私は生きてました!


 呼吸よし。視界よし。触覚よし。

 思わず頬を引っ張る。痛覚もよし。

 私は涙を浮かべながら、1つ1つ感覚を確認する。


 生きてるって素晴らしい。

 有難う神様。

 数年ぶりのふかふかのベットの上で私は神に生きてることへの感謝の祈りを捧げた。


「第一声がそれですか」

 思い出したように腹黒眼鏡は呟く。

 ホッとした顔と言うより唖然とした様子でこちらを見ていた。


 うん、聴覚もいいかんじだ。

 眼鏡の嫌味もクリアに聞こえる。


「煩いわね」

 私は眼鏡を鋭く睨んだ。

 せっかく人が生きている喜びを噛みしめているときに邪魔するなんていい度胸じゃない。

 上等だ。喧嘩なら買ってやろう。

 私は拳を握った。


「いえ、魔王様を心配させてその言いぐさはどうかと思いまして……」


「はあ? ふざけるんじゃないわよ!」


「ごめんなさい!」

 私が叫ぶと、間髪入れず、見知らぬ少女が頭を下げた。


「いや、あなたを怒ったわけではなくて……」

 私は慌てて握った手を開いて振った。

 

 少女は不思議そうにきょとんとした顔をする。「え? 違うの? 私じゃないの?」という表情の少女。


 そうです。貴女ではありません。

 このクソ眼鏡が悪いんです。

 と言いたかったが、眼鏡がじっとりと湿っぽい目つきで私を見つめていた。

 こちらから喧嘩を売ってやると面倒だ。

 私は眼鏡の視線を無視してやった。


 いやいや、そうじゃない。

 この子は誰ですか?


 私は目の前の少女を観察した。


 髪は燃えるような赤、アクアマリンのような大きな瞳は好奇心の塊のように煌めく。

 肌は白かったのだろうが、日焼けのせいか赤くなっていた。

 顔立ちは美人と言うよりは可愛い系。

 長い睫毛に縁取られた目は垂れた形をしている。

 私から見て左目の下に泣きぼくろが1つあった。

 旅人なのだろうか。フードの付いたぼろぼろのローブを着ている。

 こんな若くて可愛い子が着ているには似つかわしくない服装のようにも感じた。


「あの、ワタクシが投げた石のせいなんです。本当にごめんなさい」

 少女はおずおずと言う。


 そうか。

 この子があの殺意混じりの石つぶてを投げたのか。

 それにしてもこんな細腕であんな剛速球をよく投げられたな。

 それほど追い詰められていたってことかしら。


「悪気があったわけじゃないんでしょ? 私は大丈夫だから!」


 後頭部はまだ僅かに痛むが、触ってみるとたんこぶにもなっていないようだ。

 これならすぐに痛みは引くだろう。

 子どものときなんて何度も木から落ちたことがあるし、頭打ってるけど、大丈夫だった。

 細くて小さいけど、頑丈さは私の売りだ。


「ほら! 頭の方も大丈夫みたいですし、お嬢さんは丈夫な種族なんですよ。本当に繊細な魔王様とは大違いでいらっしゃる」


「いらんこと言うな! 眼鏡!」

 私は眼鏡を睨む。

 眼鏡も私を睨む。


 私たち、こういう時の息はピッタリね。

 魔王よりも相性がいいんじゃないかしら。嫌な相性だけど。


「なんでまたそんなことに…」

 睨み合いの中、魔王がそれを無視するように言う。


 おうおう、魔王は私のこと好きとか言いながらどうでもいいわけか。

 まあ、興味がないなら別にいいわよ。

 私も魔王に興味ないし、殺しにくくなるだけだものね。

 ほんの少しいじけたような気持ちになる。


 でも、確かに魔王の姿勢は正しいのよね。

 眼鏡とこうして睨み合っているよりも、この子の話を聞いた方がずっと建設的な話ができるような気がする。


 私は眼鏡を睨むのをやめて、少女の方に目を向けた。


 少女は下を向く。

「話せば長くなるんですけど…」

 昔話で言う『昔々あるところに』のように彼女は言った。

 下を向く彼女の瞳が潤んでいるような気がした。


 いや、私、女の子の涙には弱いのよ。

 どう慰めようか。

 私はオロオロと少女の顔を覗き込んだ。


 少女は顔を上げた。

「ワタクシ、ひょんなことがきっかけで勇者になってしまったのです!」

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