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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
参章 将軍の苦境─正しいお見合いの断り方─
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二十六話 土人形の弱点

 私は空を仰いだ。

 間違いない。雨が止んでいる。


 村の方でドラゴンたちの咆哮が聞こえた。

 まずい。

 早く装置を壊さなきゃ。


 私は装置に向かって走る。



「無駄ですよ!」

 愉快そうな少年の声。


 右から左、上から横、色んな位置から攻撃が飛んでくる。

 私は夢中で土人形(ゴーレム)の攻撃を避けた。


 あと、もう少し。

 あと、もう少しで手の届くところに装置がある。

 私は右手を伸ばした。


 完全に土人形(ゴーレム)は避けていたはずだった。


 なのに、私の手は装置から弾かれた。


「簡単に触らせるわけないでしょう?」

 少年は声高に笑った。


「何よ、これ!」


 ジェスカちゃんが作った空気の壁みたいなものだろうか。

 見えない壁に阻まれて、装置に触れることができない。


 コイツ、土人形(ゴーレム)以外にも仕掛けていたわけね。


 私は見えない壁を叩いた。

 それは硬く、まるでレンガや岩を叩いているようだった。


 ヴィニウスも攻撃を掻い潜ってこちらに走ってくる。

 そして、その勢いのまま、見えない壁に蹴りを放った。

 しかし、壁はびくともしない。

 あの体力馬鹿のヴィニウスの蹴りが効かないなんてどうなってるのよ!


「ふふふっ、その顔いい! 最高にいい!」

 興奮したように少年は顔を赤くして叫ぶ。


 私は少年を睨みつけた。


「まだまだ君は絶望しない! すごい! あの馬鹿な権力者も、弱くてどうしようもない女もそんな顔しなかったのに!」


「何の事よ!」

 私はわけも分からず叫んだ。


「君のことはよく知っています。ルドベキアであの弱くてどうしようもないヘキサ・メロウと戦ったんでしょう? ヘキサが言っていましたよ」


「ヘキサ? あの女逃げたの?」

 私はルドベキアで会ったあの幽霊みたいな女を思い出していた。

 そう言えば、あの女どうなったのか聞いていなかったわね。


「いえ、僕が殺しました。魔王城に忍び込んで!」

 そう叫んでから、少年は恍惚の表情を浮かべる。


「実に良かったです。助けに来たと思ったら殺されるわけでしょう? まさか、死ぬと思ってない。なのに、死ぬ! 透明になれる薬と偽って毒を飲ませたんですけど、馬鹿ですよね。そんな薬あるわけないのに! 毒と気づいたときのあの顔といったら最高に笑えましたよ。嗚呼、君にも見せてあげたいなぁ!」


 初めてこの少年の声を聞いたときの寒気がまた蘇る。

 コイツ、父様と母様を殺した奴と同じ、殺すことを何とも思っていないんだわ。

 玩具のように弄んで殺すなんてどんな悪い奴にだってやっちゃいけない。

 絶対に許せない。


 私は憎しみを込めて少年を睨んだ。



「そうでした。君が教皇庁に引渡したデュグライムとかいう馬鹿。あれも僕が殺しておきましたよ。僕の悪事がバレると困る人たちがいるんでね」

 少年は愉快そうに口を押さえて笑った。


「それ以上悪趣味な言葉を叫ぶのはやめろ! 聞くに堪えない」

 ヴィニウスは今にも殺してしまいそうな顔で少年を睨みつけた。


 私はヴィニウスに拍手してやりたい気持ちになった。

 まあ、本当に殺すのはダメだけどね。


 少年の目がすっと細まる。

「じゃあ、仕方ありませんね。君たちは殺しておきましょう」

 そう言うとまた地面に液体をばら撒いた。


 ボコボコと地面が湧く。

 そこから三体目、四体目の土人形(ゴーレム)が姿を現した。

 二体でも面倒だって言うのに、その上二体も増えるなんて敵も本気みたいね。


 一気に敵を倒して装置を壊せるような妙案が浮かぶわけもない。

 とりあえず、潰されて苦しい思いをして死ぬのだけは御免こうむりたい。


 私はすぐにでも逃げられるよう脚に力を込めた。


「そう言えばババアがゴーレムの弱点を言っていた気が……」

 ヴィニウスがぽつりと呟く。


「何か知っているの? 知ってるなら早く教えてよ!」

 私は慌てて問い質す。

 アスティアナさんが言ってたことなら信用ができる情報だわ。


 ヴィニウスは困ったように唸る。

 いやいや、早く思い出して頂戴よ。


 少年が乗っている土人形(ゴーレム)以外の三体の土人形(ゴーレム)がこちらに向かって突っ込んでくるのが見えた。


 雨も止んでしまったし、早くしないと私たち本当にまずいことになるわよ。


「ヴィニウス! 早く!」


「そうだ! 文字! 文字を消すんだ!」

 ヴィニウスは思い出したように叫ぶ。


「文字?」


「ゴーレムは身体のどこかに文字が刻まれているんだよ。そのうちの一文字を消すとただの土塊(つちくれ)に戻るって言ってた!」


「分かったわ! 文字を消せばいいのね」


 私は向かってくる土人形(ゴーレム)の攻撃を避けながら、文字を探した。

 避けながら探すのは難しいかと思いきや、意外と簡単だった。

 すぐに腕に文字らしきものが刻まれているのを発見する。


「あのさ、ヴィニウスさん? 文字って三文字あるみたいなんだけど、どれを消すの? 全部?」

 そう。

 刻まれている文字は一つではなかった。

 三つの文字が並んでいるのだ。


「消すのは一つだけだ!」

 ヴィニウスはヴィニウスで私に向かってきたのと別の一体を相手にしながらそう叫んだ。


「はぁ? どれよ!」

「知らん!」

「え?」

「だから、知、ら、ん!」


「知らんてなんなのよ!!」

 私は頭にきて叫んだ。

 せっかく弱点が分かったと思ったのに、どの文字を消したらいいか知らないってないでしょ!

 それじゃあ、弱点が分からないのと同じじゃない!


「おやおや、仲間割れですか?」


「「仲間割れじゃない!!」」

 私たちが叫ぶと、少年は愉快そうに笑う。


 あー、ムカつく。

 雨が止んで、左腕は折られて腫れてくるし、肝心の相棒はポンコツで重要なところが抜けてるし、何もかも追い詰められたままじゃないの。


「頭にきたからどれでもいいから一つ消してやるわ!」


「待て! 失敗したら……」


「それこそ知らないわよ!」

 私はそう叫ぶと、土人形(ゴーレム)の腕めがけて走った。


 まずはコイツの文字から消してやるわ!


 私はナイフを構えた。

 土で出来ているんだもの文字だってナイフで削れるはずだ。


「スクルド! 一番左の文字を消しなさい!」

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