二十四話 土人形との戦い
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一つ目の装置は女がいた場所から十メートルくらい離れたところにあった。
子ども一人分の大きさの灰色の四角い箱に赤いランプのついた装置は森の中では明らかに目立っていた。
幸いなことに装置を守っていた女は既にこちらで簀巻き状態にしてやっている。
アスティアナさんの甥だけあって、ヴィニウスの一撃で装置は簡単に壊すことができた。
さて、2つ目の装置はといえば、そこからかなり離れたところにあった。
拓けたところにあったので、見つけるのは1つ目よりも簡単だったのだが……
「ヴィニウス、左!」
「分かってるよ!」
「いやー! 来ないでくださいー」
私たちはドラゴンよりも大きな土人形と戦っていた。
土人形とは、文字通り、土砂で出来た人の形をした何か。
おそらく、魔力を込めて造られた人工物なのだろう。
魔法もこんな使い方ができるのかと感心してしまった。
しかし、戦いとなると、関心ばかりはしていられない。
動きがすごく鈍いので簡単に倒せると思ったのだが、砕けても土でできてるからすぐに再生するし、大きくなったり、小さく分かれて数人になったり、変則的な動きですごく戦いにくい。
ヴィニウスがドラゴンを倒したときみたいに一撃で何とかするわけにもいかず、ジェスカちゃんの魔法もガス欠状態で頼る訳にもいかない。
私?
私は避けることで精一杯。完全にお荷物状態だ。
「スクルド!」
ヴィニウスの声にはっとする。
上から雨と一緒に大量の土が降ってくる。
広範囲に降っているので避けきれない。
私は咄嗟に口や鼻が土砂に埋まらないよう手で顔を覆うことしかできなかった。
「お姉様!」
ジェスカちゃんの掌から光が溢れるのが見えた。
ジェスカちゃんから放たれた魔法は突風になり、土砂を勢いよく飛ばしていく。
あまりにも強い風に私は目を開けていられなかった。
目を開けたときには、土人形は足だけになっていた。
「おい、勇者!」
ヴィニウスが叫ぶ。
ジェスカちゃんの脚はガクガクと震え、辛うじて立っているような状態だった。
どうやら、魔力を使い果たしてしまったところらしい。
「咄嗟のことで、無理やり魔法を使ったもので。でも、ご心配にはおよびませんわ。」
ジェスカちゃんは気丈に振る舞う。
「ちっ」
ヴィニウスは舌打ちをするとジェスカちゃんを担ぐ。
例の丸太担ぎだ。
「スクルド、そこの土人形が戻る前に装置ぶっ壊しておけよ!」
「え?」
ずるずると周囲の土砂が土人形に集まっていく。
足だけだったはずがもう肩の辺りまで出来てきている。
「もうあんな大きいサイズに? 時間が無いじゃない!」
私は叫びながら、装置に向かって走った。
土人形が完全に戻り切っていない腕を振り回す。
私はそれをジャンプして避けた。
装置の後ろに滑り込む。
思い切り叩いてみるがびくともしない。
そりゃあ、そうか。
簡単に壊れたら意味がないものね。
ヴィニウスみたいに力で壊すことは無理そうね。
私はナイフを取り出すと、突き立てた。
が、簡単に弾かれる。
装置には傷1つついていない。
それどころか、少しナイフが欠けてしまった。
こんな硬いものを一撃で壊すなんて、アイツ、どんな馬鹿力してんのよ。
舐めまわすように装置を見てみるが、継ぎ目やコードのような弱そうな部分は一切ないようだ。
これじゃあ、壊すことが出来ないじゃない。
そこで私は一か八かの賭けに出ることにした。
これが上手く行かなかったらトンズラするしかないわよ。
私は装置の前に立った。
土人形は私の方に手を伸ばしてくる。
私はそれを避けた。
避けるのが早すぎたようで土人形はぴたりと手を止め、私の動いた方向に腕を動かす。
鈍いから容易く避けられるのだが、それだけではダメだ。
もっと引き付けておかなきゃ。
私は土人形の周りをちょろちょろと動く。
それに合わせて、土人形は上から腕を振り落としたり、腕を振り回してくる。
引き付けては紙一重で避けるのを何度も繰り返す。
徐々に攻撃のタイミングも分かってきた。
逃げ出したくなったら、ワンテンポいやツーテンポくらい置いて動くと、丁度いいみたい。
私は装置の横に立った。
土人形が腕を横に振る。
1、2、今だ!
私は装置の上に飛び乗る。
土人形の腕が私の先程までいたところを通過する。
それを見届けてから後ろに思い切り退いて装置から飛び降りた。
ブンという音と共に装置は勢いよく飛ばされていった。
ガシャーーン。
装置は木にぶつかり、枝を折りながら、見事にへしゃげていた。
遠くから赤いランプが消えたことを確認する。
「どうやら壊れたみたいね」
私はそう呟くと、ヴィニウスが消えた方向に向かって走り出した。
ここにいて、これ以上戦っても体力を消耗するだけだわ。
早くヴィニウスに合流して最後の装置を壊さないと。




