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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
参章 将軍の苦境─正しいお見合いの断り方─
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二十話 音の正体

「はぁ? 記憶がねぇだと?」

 ヴィニウスは男の胸ぐらを掴むとぐらぐらの揺さぶる。


「嗚呼」

 男は力なく頷く。


「ドラゴン様は偉いって訳か。田舎者風情が。そんな言い訳通用すると思うのか?」

 ヴィニウスは鋭く男を睨みつけた。

 それだけで人が殺せそうな顔だった。


「お兄ちゃん、叔父さんをいじめないで」

 小さく、ラウラちゃんが泣きそうな声で懇願する。


 その声に、ヴィニウスは舌打ちをすると、男を離した。


 どさっと男は倒れ込み、尻餅をつく。

 そして、大きく数回咳込んだ。


「叔父さん……」

 フローラちゃんも心配そうに呟く。

 本当はすぐにでも駆け寄りたいところだろうが、私たちはそれをさせなかった。

 大切な姪すら襲う人を誰が信じられるのかしら。


 しかし、一方で、仲間意識が強いはずのドラゴンが仲間を襲うことに違和感もあった。

 だから、ヴィニウスも殺さずに尋問しているのだろう。


「覚えていることを言え」

 ヴィニウスは冷たく言い放つ。

 その瞳には殺気がこもっていた。

 流石はアスティアナさんの甥。

 怒らせると本当に怖いわね。


「嗚呼、村のはずれで変な男たちがいて、装置のようなものを持っていた。あまりにも怪しかったので、声を掛けようとしたのは覚えている。その後、変な音がして、気づいたらここで倒れていたんだ」

 突飛な話だが、ラウラちゃんとフローラちゃんの叔父さんが嘘を言っているようには見えなかった。

 だって、今さっき襲ったばかりで襲った記憶がないなんて、ドラゴンみたいなプライドの高い種族がそんな子どもみたいな言い訳するはずないもの。


「確かに、この人が襲ってきた間は変な音がしてたな」

 リザルトは頷く。


「じゃあ、その音に操られたってことよね? それなら仕方ないじゃない。ヴィニウス、剣を引っ込めて頂戴」


「そんな話、信じるのか?」

 私の言葉にヴィニウスは驚いたように目を見開く。


「だって、信じる以外ないでしょ。ラウラちゃんとフローラちゃんの叔父さんよ? それにドラゴンがそんなお子ちゃまみたいな言い訳すると思う? 自分の行動に誇りを持って襲うと思わない? そういうことは私よりも帝国にずっと居たヴィニウスの方が分かっているはずでしょ」


「それは確かに……」

 ヴィニウスは戸惑うように下を向いた。


「襲ってきた間、変な音がしていたってリザルトも言ってるわ。音が聞こえてなかったのは私とヴィニウスだけ……」

 そう言ってから私はあることに気づく。


「その音ってドラゴンしか聞こえないってことはないかしら?」


「確かに種族によって聞こえる音の周波数が違うと言うのは聞いたことがあるが……」


「でも、ワタクシたちも聞こえましたよ?」


「そうよね。ジェスカちゃんやリザルトに聞こえたなら、その逆で、偶々私たちに聞こえない音を使って操られたってことよね」

 そう言ってから私は考え込んだ。


 ラウラちゃんとフローラちゃんの叔父さんの言うことが本当であれば、村の外れにいた男たちの持っていたんだ装置というのがすごく怪しい。

 おそらく、そこから出た音を聞いておかしくなったというところだろう。


 しかし、ドラゴンを操って周りを襲わせるメリットなんてどこにあるのかしら。

 ドラゴンが憎くて復讐とか?

 いやいや、それならもっと直接的に殺すとか目の前で苦しめてやるとか方が復讐心が満たされるはず。

 憎い相手の意識をなくして周りを襲わせたって意味がない。

 現にこの私だってこの手で両親の仇を殺してやりたいと思っているもの。


「このやり方って、自分の手は汚さずに、効率的に周りを壊すためにやってるみたいじゃない?」


 ヴィニウスはハッとした顔をする。

「村に住んでいるのはドラゴンだけか?」


「ドラゴン以外にも、ドラゴンと人間のハーフ、人間がいる。ドラゴンと人間のハーフが作った村だから……」

 フローラちゃんが答える。


「ってことは、変な音ってやつはドラゴンと人間に影響のある音ってのが正解だな。大方、ドラゴン同士を襲わせて相打ちにさせたいやつがいるってことだろ」


「相打ちにしてどうするんですの?」


「そりゃ、捕まえるんだろ? ドラゴンは魔力が高い。人間の中にはその血を魔法に使う連中もいるらしいからな。高く売れるってわけだ」

 ヴィニウスは苦々しく吐き捨てるように言った。


「じゃあ、ラウラちゃんとフローラちゃんがさっき人間に襲われてたのも」


「逃がしたドラゴンを捕まえるための別部隊ってことだろうな」


「では、早く村に行きましょう!」

 ジェスカちゃんは叫ぶ。


「いや、また音がなるかもしれない。そのとき、ドラゴンと人間は影響があるだろう。被害を抑えるために、ラウラとフローラ、そこのドラゴンはこの村からならべく離れろ。それから勇者かその従者のどちらかが護衛としてついていってやってくれ。人間の方が影響がなさそうだからな」

 ヴィニウスはキビキビと指示をする。


「大勢のドラゴンを止めるにはワタクシの魔法が必要だと思いますわ」


「じゃあ、俺がとりあえず、アウラとフローラ、このおっさんを連れて逃げればいいんだな」

 リザルトは頷く。


「できれば、近くの村で帝国軍と連絡が取れるとなお良いが、そこまでは求めない。速やかにここから離れることを一番に考えてほしい」


「ああ、分かった。もしも、連絡が取れたらドラゴン以外の者を派遣するように言えばいいか?」


「よく分かってるじゃないか。そうだな。もしもできたらでいい。そうしてくれ」


「任せろ!」

 リザルトはそう言うと胸を叩いた。


「それじゃ、俺たちは村に向かうぞ」

 ヴィニウスの言葉に私とジェスカちゃんは頷いた。



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