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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
参章 将軍の苦境─正しいお見合いの断り方─
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十八話 再従弟は性格も悪いようです

 ***


「あ!」

 私は思わず大きな声を上げてしまった。


 皆の視線がこちらに集まる。


「どうした?」

 ヴィニウスが不機嫌そうな声で尋ねる。

 そんな声しなくてもいいじゃない。


 私は少し不愉快そうな顔をした。

「あの、ドラゴン狩りの連中、武器を取り上げただけでそのままにしてきちゃったじゃない? 大丈夫なの?」


 ヴィニウスは大きくため息をつく。

「武器を取り上げた。お前らが話してる間、俺がやったのはそれだけだと思うか?」


「違うの?」


「アイツらの身ぐるみ剥いで、半殺しにして奴らの持ってたロープでぐるぐる巻きにして木に逆さ吊りにしてやった。運が良ければ助かると思うが、まあ、こんなところで無理だろ」

 ヴィニウスは淡々と言う。

 仕事が早いと思っていたが、そこまでやってるとは再従弟ながらすごいというか、怖い。


「怖っ!」

 リザルトも同じことを思ったようで顔を真っ青にして叫ぶ。


「ざまぁねえよな。本当は蜂蜜とか塗ってやるといい感じの拷問になるんだけど、持ってなかったからやめた。そこでやめてやった俺は親切だろ?」


 蜂蜜を使った拷問のことは私も何となく知っていた。

 蜂蜜と聞くと可愛らしくて、あまり怖くないのだが、実際はかなりエグい拷問らしい。

 確か、蜂蜜を塗って放置しておくと、虫が寄ってきて卵を産み付けるとかいう拷問だったような。

 う、想像してしまったせいで気持ちが悪くなってきた。


「分かったから! それ以上は言わなくても大丈夫よ」

 私は吐き気を堪えながら叫んだ。

 

 私にフローラちゃん、ジェスカちゃんにラウラちゃんがそれぞれしがみついて震えている。

 こんな小さい子が、蜂蜜の拷問なんて知らないと思う。

 しかし、ヴィニウスが淡々と話す姿が余程怖かったようだ。

 こんなにか弱い少女にこれ以上トラウマ植え付けるのは非常にまずい。


「蜂蜜持ってなくて本当によかった……」

 リザルトは小さく呟く。


「たかだか人間のクズが。帝国に手を出したらどうなるか思い知らせてやらないとな」

 ヴィニウスは笑みを浮かべた。


 邪悪すぎる笑顔に私は悪寒がした。

 今まで散々馬鹿にしてきたけど、コイツ、知らない間に恐ろしい性格になっていたのね。

 言動に気をつけないと、私が殺られるわ!


「真っ青な顔をされてますけど、お姉様は大丈夫ですわよ」


 具合が悪くなりかけていた私に、ジェスカちゃんがこっそり耳打ちをする。


「え?」


「お姉様はクズなんかありませんもの。それに……」

 ジェスカちゃんはちらりとヴィニウスを見る。


「あの方、お姉様のこと、とっても大事に思っていると思いますわ」


「うん、それはジェスカちゃんの勘違いだと思う」

 私はすぐさまそれを否定した。


 大事に思ってたらあんな人を小馬鹿にしたような態度を取るかしら。

 いや、絶対に取らないわ。


「もうすぐ着く……」

 フローラちゃんは弱々しくそう呟きなから、前を指す。


「あ、煙……」

 空に小さく煙の筋が見えた。

 どうやら村は近いらしい。


「ん? 何か変な音がしないか?」

 急にリザルトがキョロキョロと視線を動かす。

 また、何かに気づいたようだ。


「あら、本当。変な音がしますわ」

「頭がちょっと痛いかも」

「お姉ちゃん、私も耳が痛い」

 皆、口々に異音を訴える。


「そんな音するか?」

 私とヴィニウスだけが何も聞こえないようで首を捻った。


「あれ!」

 頻りに目を動かしていたリザルトが何かを見つけたようだった。


 リザルトが指す方向を見る。

 煙の見えていたところより上の方に、影が見えた。

 あの、独特の形。

 ルドベキアで見たことがある。

 あれは、ドラゴン。


「叔父さん?」

 フローラちゃんが呟いた。


 叔父さんと呼ばれたドラゴンは急旋回すると、すごい勢いでこちらに向かって飛んでくる。

 勢いは弱まることなく、近付くにつれ、寧ろ加速しているように見える。

 ちょっとちょっと! 待ってよ!

 何だか歓迎してくれてる様子には全く見えないんだけど。


「伏せてください!」

 ジェスカちゃんが叫ぶ。


 私たちは慌てて地面に伏せた。


 ものすごい風と共にドラゴンが頭上ぎりぎりを通過していく。


「どういうことだ?」


「私が分かるわけないでしょ!」

 ヴィニウスの問いに私は素早く叫んだ。


「歓迎というより、攻撃という感じですわね」

 ジェスカちゃんは冷静に呟く。


 リザルトは立ち上がると剣を構えた。


 ドラゴンがもう一度、旋回し、こちらに向かってくる。


「叔父さんを殺しちゃだめ!!」

 ラウラちゃんが叫ぶ。


 ヴィニウスは舌打ちをして、立ち上がった。

「要は殺さなきゃいいんだよな? 勇者、何かあったら援護しろよ?」


 ドラゴンがものすごい速さで近づいてくる。


 ヴィニウスは迷わずドラゴンに向かって走り出す。

 あの勢いに向かっていくなんて自殺行為でしょ!?


 ヴィニウスはドラゴンにぶつかる。

 そう思った刹那、ヴィニウスは大きく上に跳躍し、衝突を避けた。

 そして、素早くドラゴンの背中に乗った。


「勇者、受け止めろよ!」

 ヴィニウスはそう叫ぶと、ドラゴンの首の付け根あたりに右ストレートを叩き込んだ。

 その一撃でドラゴンは羽ばたくのをやめた。

 気を失ったようだ。


 あれ? ヴィニウスさん、武器がないと熊を倒せないとか言ってませんでした?

 どう考えても、ドラゴンの方が強いわよ。

 アンタ、充分すぎるくらい倒せそうじゃない! 嘘つき!

 そう叫びたかったが、私にはそれができなかった。


 ドラゴンの勢いは止まらず、そのまま地面を擦りながらこちらに向かってきていたからだ。

 まだまだ危機は去っていない。

 どうしたら……


 ジェスカちゃんは素早く呪文を唱えて、前に剣を翳す。

「こちらは任せてください!」

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