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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
弐章 勇者様の憂鬱─囚われの幼なじみの救い方─
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一話 天気は石模様

 なんと申しましょうか。


 ワタクシ、ジェスカ・D・クライシアはとても悲運な少女なのであります。

 地元じゃちょいと有名な魔術師の家系に生まれたアウトドア派美少女ウィッチなのでございます。

 ええ、お家柄だけじゃございませんのよ。ワタクシ自身も地元のミスコンで数回優勝したことがありますの。


 何処が悲運なのかって? そこは今から話すんですよ。


 聞いてくださいますか?

 兎にも角にも悲運なんです。

 それもこれもこの聖剣エクスカリバーのせい! 乙女の敵なんですの!



 ***


「エート、魔王様?」

 私は窒息寸前だった。

 こんな沈黙耐えきれない。

 何よ、この状況は。


 私はスクルド。

 魔王の命を狙っている暗殺者。

 そう、暗殺者のはずなの。


 それなのに、私は魔王に言いくるめられて馬車に乗っていた。

 自分でも全く意味が分からない状況だ。


「ん?」

 アメジスト色の瞳がキラキラとこちらを向く。


 うわっ、美形すぎる!

 魔王陛下は無駄に美形オーラを振りまく。


 そりゃあ、私は貧乳かもしれませんがね。

 私だって魔族なんですよ。

 ある程度は整った顔をしているはず。

 でも、顔面においては魔王には一切勝てる気がしない。

 ちょっとムカつく。


「この状況は何?」

 私は怒りを抑えながら尋ねた。


 言いたいことはたくさんあった。

 魔王が言った言葉の意味とか、私が今のところ処刑されない理由とか、魔王が何故私に惚れているのかとか、思いつくだけでざっと10以上ある。

 全部すっとばして、取り急ぎ聞きたいのは、魔王と2人で馬車に乗っている、この状況。


「近くに別宅があって、まずはそこで腰を落ち着けて話をしようと思ってな。やはり、結婚となると色々と準備が必要だろう」


「いやいやいや、意味が分かんないんだけど! アンタは魔王! 私は暗殺者! 絶対、絶対絶対ぜーったい! 結婚はしないわよ!」


「もしも、伴侶となれば、世界の半分をくれてや…」


「いらないわよ!」

 私は食い気味に叫んだ。


 なによ!

 意外とボケることもできるんじゃないの。

 美形のくせに。


 この先の事を考えると、頭痛までしてくる。

 私は頭を抱えた。


「冗談はさて置いて」


「冗談だったの? どこから!?」


「あ、惚れているのも、伴侶としたいのも本当だ」


「そこが一番冗談であって欲しかったわ!」


 魔王はしょんぼりと項垂れる。

 メンタルは弱いらしい。


「スクルド、貴女に自由を与えたい」

 項垂れたまま、魔王は言う。


「自由? 私は馬車から降ろしてくれたら何処にだって行けるわよ? 然るべきこと(あなたを倒して)然るべき罰(あなたを倒したばつ)を受けたらね」


「違う」

 魔王は顔を上げ、まっすぐ私を見た。


 私の心臓は跳ね上がった。

 怖いくらい真っ直ぐな瞳に私は射貫かれた。


「ち、違わないわよ!」

 私は声を上げた。

 それは酷く強ばった声をしていた。


「君は、自由が選べたんだ…」

 魔王は悲しげにそう呟く。

 今までの芝居がかった口調ではなく、静かに息を吐くように心の底から漏れ出たような声だった。


 私たちは暫く沈黙した。


「すまない。全ての責任は魔王たる私にある」

 ぽつりと、魔王は痛々しげにそう言うと、いつもの無表情に戻った。


 私はもう何も言えなかった。

 下を向いて、ただ床の木目を眺めた。


 魔王なんて会わなければよかった。

 でも、復讐を考えずにただ生きている自分なんて想像できなかった。

 私はどこから間違ったのだろうか。

 最初から、二人と、父様と母様と死ねばよかったのだろうか。


 どのくらい黙っていたことだろう。

 とても長い時間のようにも、ほんの一瞬のことのようにも思えた。


 最初の異変は音だった。

 雹でも降っているかのような音がした。


 顔を上げる。

 馬車の外では、石の雨が降っているのが見えた。


 何? 何が起きてるのよ?

 魔王といい、外の音といい、意味がわからないことばかりだ!

 

 絹を裂くような悲鳴に似た音とともに車内は大きく揺れた。


 私の身体は少しどころじゃなく浮き上がる。

 馬車が止まったのだ。

 それはあまりにも雑な止め方のような気がした。


「ちょっと見てくる」


 私はその声に顔を上げた。


 魔王は立ち上がると、私から見て右手側の扉を片方開けようとしていた。

 外ではまだ、石が降り注いでいる様子だった。


「馬鹿!」

 待てこら!

 石が降る中、扉を開けるのは自殺行為だぞ、阿呆!


 私はパニックを起こしていた。


 魔王に常識がないって言うのは既に承知していた。

 でも、まさかこんな時に扉を開けるだなんて思いもしなかった。

 こういうときは焦らず、騒がず、現状確認。

 とはいえ、安全第一だ。

 天然にも程があるでしょ!


 兎に角、私は目の前の阿呆を諌めるために魔王の腕を捕まえようとした。


 思いの外、魔王の動きは早かった。

 魔王は私の手を擦り抜け、既に扉を開けていた。

 私は辛うじて外套を掴んでいた。

 そして、魔王が仇なのも、すっかり忘れて魔王の外套を引っ張った。


「今開けちゃ、絶対ダメ!」


 魔王の体は既に外に出ていた。


 慌てて力を込めた反動で体が少し浮く。

 その瞬間、大きく馬車が揺れた。

 なぜここで揺れる?

 魔王の体は馬車の中に、反対に私の体が吸い寄せられるように扉へ向かうのが分かった。


 魔王のキラキラした顔がこちらを向く。

 こんなときでも魔王の顔は美しいんだなんて思った。


 私は夢中で、魔王の外套を引き、馬車の中に押しやった。

 と同時に、私の体の半分以上が外に出ているのがわかった。


 落ちると思った。

 でも、体は地面にも床にも叩きつけられなくて、代わりに頭に衝撃が走った。


 目の前が黒くなる。

 ブラックアウト。


 不思議とあまり痛みはなくて代わりに耳鳴りがした。

 深い深い水底に落ちていくような浮遊感を感じた。

 これって、私、死んだのかなぁ。

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