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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
参章 将軍の苦境─正しいお見合いの断り方─
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十五話 再従弟はとても生意気です

 ***


「おかしいわね。全然着かないわ」


 歩けども歩けども、村に着く様子は一向にない。

 森をようやく抜けて道に出てきたところまでは良かったんだけどな。

 地図の見る限りでは一本道。

 歩いていても他に曲がるところもなかったし、そろそろ村についてもいいと思うんだけど。


「きっともう少しですわ」

 ジェスカちゃんはそう言って私を励ます。

 やっぱりジェスカちゃんは優しいこんなときでも笑顔で私を癒してくれる。


 それに比べて男どもときたら……


「適当なこと言うなよ、ジェスカ。地図で見る限り、あと一時間は歩くぞ」

 リザルトは地図を広げてそう言う。


 リザルトの言葉にヴィニウスも頷く。

「地図の縮尺考えてみろよ、馬鹿」

 なんでコイツは一言が多いのよ。


「馬鹿とは何よ!」

 私はヴィニウスに掴みかかろうとするが、ヴィニウスはさっと身を翻して避ける。


 その無駄に長い脚を切って踏台の足にしてやりたいところだわ。

 そうしたら、私も高いところから攻撃できるし、ヴィニウスの素早い動きも封じることが出来て一石二鳥なのに。

 実際はそんな惨いことができない心優しいスクルドちゃんにヴィニウスは感謝するべきじゃないかしら?


「馬鹿とはお前のことだ、馬鹿」

 ヴィニウスは避け続けながら私を挑発し続ける。

 馬鹿馬鹿馬鹿って何よ。

 それしか言えないわけ?

 本当に語彙力が貧困ね。

 もっと煽るなら語彙力を鍛えてからにしなさいよ。


「あ、そうか。お馬鹿なヴィニウスくんは語彙力が貧困であるが故に馬鹿としか言いようがないのね。馬鹿と言う奴の方が馬鹿というのはまさにこのこと。本当、お可哀想」

 私はヴィニウスを憐れむような目で見てやった。

 挑発っていうのはこうやってやるのよ。


「はあ? 語彙力は貧困だとしても、お前よりは馬鹿じゃねぇし」

 お返しと言わんばかりにヴィニウスはジロジロと上から下まで睨んでくる。


 私にメンチ切ってくるなんていい度胸じゃない。

「馬鹿っていうのはもともと無知とか迷妄って意味らしいわよ? 迷妄って意味をご存じかしら?」


「はあ? そんなこと知ってなくても俺はお前より馬鹿じゃねえし。頭が悪い人間ほど馬鹿だと思われたくないから知識をひけらかすらしいぞ? あっさい知識が露見すんぞ、ばーか」

 ヴィニウスの癖によくもまあ口が回るわね。


 私は言い返そうと口を開こうとする。


 ふと、視線を感じた。

 振り返ると、ジェスカと目が合った。


「あの……ジェスカちゃん?」


「仲が良いですわね。本当に……」

 ジェスカちゃんは眩しいものを見るかのように目を細めて微笑む。


「うわああああああっ!」

 突然、ジェスカちゃんの言葉を遮るかのようにヴィニウスは大きな声で叫び出す。

 そして、ジェスカちゃんの方に向かって突進する。


 ひらりとジェスカちゃんはヴィニウスの動きを読んで避ける。

 闘牛士を思わせるような無駄のない綺麗な足運びだった。

 こんなことなら赤い旗とか用意しておきたかったわ。


 自分が避けられると腹が立つけど、他人が避けられるといい気味だ。


「本当に姉弟みたいですわ」

 ジェスカちゃんはそう言い直すと、悪戯っぽい笑顔をヴィニウスに向けた。


 ヴィニウスは数秒呆けた顔でジェスカちゃんの笑顔を眺める。


「嗚呼、姉弟! 子どもの頃は姉弟みたいに遊んでいたからな! 勇者はよく分かってるな!」

 ヴィニウスは、頭が取れるんじゃないかと思うほど激しく頷く。

 なんだかやけに挙動不審じゃない?

 ヴィニウスの子どもの頃ってこんなに挙動不審だったかしら?


 思い出そうとするが、記憶の中でのヴィニウスはしょっちゅう泣いている。

 あんまりにも泣くもんだから、『パンみたいな顔がますますパンパンね』ってからかったらまた泣いて大変だったこともあったわね。


 ダメだ。

 泣いてる姿以外の記憶がないわ。


 私の中の辞書の「ヴィニウス」の項目には、「泣き虫」「子どものときは丸々した白パンのような男の子」「語彙力貧困」しか載っていない。

 考えるのも無駄だ。


 私は首振り人形になってしまった再従弟を遠巻きにして見た。


「ん?」

 リザルトが小さく声を上げる。

 なんだかそわそわとリザルトは視線を動かす。

 様子がおかしい。


「どうしたの?」

 優しい私は聞いてやる。


「いや、何か……嫌な予感がして……」

 リザルトがそう遠慮がちに言う。


「嫌な予感? そんな予感があるなら前に自分(リザルト)か捕まるときに使って欲しかったわ。ねぇ、ジェスカちゃん?」

 私はそう言いながらジェスカちゃんの方を向く。

 ヴィニウスとジェスカちゃんは黙り、同じ方向を見つめていた。


「魔法?」

 ヴィニウスはじっと一点を見つめて、そう漏らす。


「強い魔法の力を感じますね」

 ジェスカちゃんはヴィニウスの言葉に頷く。


 三人は何かを感じ取っているようだが、私にはまったく分からない。


「何を……?」

 私がそう言いかけるより早く、ジェスカちゃんとヴィニウスは走り出していた。


「ジェスカ!」

 一瞬、戸惑いながらも、リザルトはそう叫んで、ジェスカちゃんを追いかける。


「ちょっと、置いていかないでよ!」

 私は慌てて三人を追いかけた。

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