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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
参章 将軍の苦境─正しいお見合いの断り方─
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七話 誘拐された理由

 ***


「連れてきたぞ」


 高い天井にはシャンデリア、家具は緻密で繊細な細工施されており、一級品のようだ。

 通された部屋は船の中とは思えないような豪奢な内装をしていた。


 部屋の中には女性が1人、部屋と同じく豪奢な椅子に座っていた。


 薄紅藤色の髪、白地に金と青の模様の施されたフルマスクから覗く深い蒼の瞳。

 その瞳に似た蒼の刺繍の入った淡い銀色のドレスを着た女性だ。

 大胆に肩を出したデザインのドレスの後ろでバサっと翼が動くのが見えた。

 この女性(ヒト)、有翼人ね。


「貴方は下がって」

 女性の、冷たい声がした。


 男は舌打ちをして、くるりと後ろを向く。


 私は慌てて声を掛けようとするが、素早い動きで男は扉の外に出て行く。

 ちょっとちょっと二人きりにしないでよ!

 困るんだけど!

 その言葉を飲み込んで、私は恨めしげに扉を見つめた。


「ごきげんよう。金のおチビさん?」

 女性は扇子で口元を隠す。無駄に優雅な所作だった。


「何の用ですか?」

 私は苛立ちを隠して、冷たく返す。

 誰がちびじゃ。

 私は立派なレディだっつーの。


「口の利き方がなってないおチビさんね。身の程を知りなさい!」

 女性は激昂して、椅子の肘掛けを扇子で叩く。


 あら、優雅に叫びますこと。

 嫌味のひとつも言ってやりたくなるのをぐっと我慢する。

 ここでは私は誘拐被害者だもん。

 できる限り刺激しないほうがいいわね。


「申し訳ございません。私のようなものが何故ここに呼ばれたのでしょうか? 理由をお教えいただけませんか?」

 馬鹿らしいと思いながらも、私は自分史上これ以上ないくらい丁寧に尋ねた。


「最初からそのように話せば良いのよ!」

 女性は扇子を広げ、顔を隠しながら高笑いをする。


「単刀直入に言うわ! いいこと! 貴女、養子になる話は断りなさい!」


 何の話だ?

 私が誰の養子になるの?

 そんな話聞いたことがないわよ。


「失礼ですが、なにかお間違いではありませんか? 私、養子になる予定なんてありませんよ」


「嘘をおっしゃい! では、何故、将軍とノショウに戻ってきたの!」


 それはアスティアナさんがお見合いが嫌すぎて家出したからです……とは言えないわよ。

 なんて言ったら納得してくれるのかしら。


 私が考えあぐねていると、女性は更に続ける。

「シレーネ家の領地は海に面していて豊かなところだわ。小さい領地だからと、泣く泣く我慢したけど、ハルピュイア家は違う! 絶対に渡さないわよ!」


 そう叫んだところでようやく理解出来た。

 アスティアナさんは有翼人。

 この女性も有翼人。

 アスティアナさんの養子を気にしている人物となると、答えは1つだ。


「えーと、もしかして、アスティアナさんの甥御さん……のお母さんとか?」


 女性は椅子の肘掛けを扇子で思いきり叩いた。


「分かっているのなら話は早いわ! いいこと! 絶対に断るの!」


 つまり、この話は私がアスティアナさんの養子になるのを断れってことか。

 でもね、アスティアナさんは誰も養子にする気がないのよね。


「誤解なんですって。そんな話聞いたことがありません!」

 とりあえず私は養子の話自体を否定することにした。

 事実だしね。


「いいえ、貴女にその気がなくても、将軍は違うかもしれないわ! 今後、その話があっても絶対に断るのよ!」


 アスティアナさんのあの様子だと、養子の話なんて絶対にこないと思う。

 多分、黙っていてもアスティアナさんの持っているものは全部、この女性(ヒト)の息子のものになると思うわ。

 でも、そのことを伝えたら面倒くさいことに巻き込まれそうだ。

 憶測で物事を言わない方がいいだろう。


「だから、そんな話は知らないって言ってるじゃないですか!」

 私は知らないで押し切ることにした。


「まあ、強情なおチビさん! ヴィニウス!」

 女性は椅子から立ち上がると、叫ぶ。


「うるさいクソババアだな」

 そう言いながらピアスの厳つい男が肩で風をきりながら部屋に入ってくる。

 本当にガラ悪い男ね。


 私は男を見上げた。


「この娘を連れて行きなさい! 反省するまで部屋に入れておくのよ!」

 女性が高圧的に叫ぶ。

 あらあら、優雅さが消し飛んじゃってるわよ。


「はいはい」

 ため息をついて男は私をひょいと抱き上げる。


 所謂、お姫様抱っこというやつだ。

 こんな奴にお姫様抱っこなんて屈辱的過ぎる。


「下ろしてよ!」

 私は男の腕の中でもがく。


 男は舌打ちをして、私を床の上に下ろす。

 が、すぐに片手で肩に担ぐ。


「丸太を運ぶように持つんじゃないわよ!」

 思わず私は突っ込んでしまった。

 これじゃあ、お姫様抱っこの方がマシである。


「黙れ!」

 男は唸るように短く怒鳴る。


 私は急に怖くなって黙らざるをえなくなった。


「じゃ、行くぞ」

 男は私を担いだまま、部屋を後にした。


 ええ、私、どうなっちゃうのよ!?

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