四話 買い物に行こう
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流石にデザート3杯食べたあとのお勉強はとても辛かった。
特に眠気。
本当に移動の疲れも出てきているのか、気を失いそうになりながら、ひたすらケイト女史の講義を聴き、問題を解いた。
ランチの後も眠さは変わらず。
寧ろ益々眠い。
正直、午後の外出も控えたいくらいだわ。
「スクルド! あそこに行きましょう!」
アスティアナは私とは対照的に生き生きとした笑顔で店を指す。
日頃、軍で神経使ってるせいか、こんなときは人一倍はしゃぐらしい。
通りでケイト女史が一緒に行きたがらないわけだ。
そのありあまる元気を分けて欲しい……
私はげっそりとしながらアスティアナさんについていく。
そこはアクセサリーのお店だった。
店内は、若者向けのものではなさそうな、見るからに高価で品のいい商品が並ぶ。
アクセサリーなんて安い露店でしか買ったことがないわよ。
妙な居心地の悪さを感じながら、私はアスティアナさんから離れないように注意して歩く。
「この髪飾り、スクルドの瞳の色と同じで素敵じゃありませんか?」
金色の装飾の中に大きなエメラルドグリーンの宝石が付いた髪飾りを私にかざす。
これ、全部、本物じゃないわよね?
だとしたら、桁が違いすぎるわよ。
そっと値札を見ると、下手したら私の半年分の生活費よりも高い金額が書かれている。
あまりにも長い数字の羅列に私は卒倒しそうになった。
これ、間違いなく本物でしょ。
「素敵だけど、もっとシンプルなものがいいわ」
私は頭を抱えながらもっと安そうな、私でも買えそうなものを探した。
「じゃあこれは?」
アスティアナさんは小さな黒い石とアメジストがついたピアスを指さす。
うわっ、この組み合わせの色合い、すごく見覚えがあるんだけど。
「不吉な色ね」
なんだか背筋に寒いものが走る。
後ろを振り返るが、何もない。
うん、気のせいよね。
「私のアクセサリーはいいからアスティアナさんのアクセサリー選ばない?」
「私ですか? 髪飾りはこの髪型だとなかなか付けられないですし、手首につけるものは引っ掛けると危ないですね。となると、指輪……いや、ピアスかネックレスですかね」
アスティアナさんは上機嫌でものを選びだす。
「私は金よりも白金の方が好きなんですよね」
「確かにそっちの方が似合うわね」
空色の髪には金よりも白金は映えそうな気がする。
私は白金のアクセサリーを目で探す。
可愛らしいデザインより大人っぽいデザインの方がアスティアナさんに似合うと思うわ。
「すみません。白金のネックレスが見たいんですけど」
アスティアナさんはネックレスを何点か出してもらうよう店員さんにお願いする。
あれこれ悩んだ末、アスティアナさんはネックレスを2点、ケイト女史のお土産用に赤い石のついた金の髪飾りを1点購入することになった。
ネックレスは色違いで、片方は蝶をモチーフにした白金の細工に水色の石がついたもので、もう片方は同じく蝶をモチーフにした金の細工に緑の石がついたものだった。
「2つ買ったので、お揃いにしましょう。スクルドは金色のもので」
とてもいい笑顔でアスティアナさんに押し切られてしまった。
ケイト女史の言う「将軍のわがまま」で振り回されているように見えるが、アスティアナさんなりの気遣いなのだろう。
せっかくなので、素直に受け取っておくことにする。
「今すぐ着けてください!」
アスティアナさんに促され、私はそれを着けてみることにした。
「やっぱり、スクルドには金がよく似合いますね。見立てどおりです」
ネックレスをつけた私をうっとりと眺めてアスティアナさんはそう呟く。
「そう? ありがとう」
確かに白金より金の方が私にはしっくりくる。
「いえいえ、たまには贈り物くらいさせてください」
高い買い物をさせてしまったけど、アスティアナさんが満足そうだからいいかしら。
「あ、ちょっと小腹がすいてきましたね。何かご一緒に食べませんか?」
アスティアナさんは思い出したかのようにそう言う。
確かに私のお腹も少しすいているようだ。
私はアスティアナさんの提案に賛成することにした。




