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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
参章 将軍の苦境─正しいお見合いの断り方─
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一話 スクルドちゃんのお悩み相談室

「もう、もう許せません!」

 私の部屋に入ってくるなり、アスティアナさんは叫ぶ。


 ルドベキアから帰ってきて、二ヵ月が経とうとしていた。

 季節は夏から秋へと移り変わり、一年で一番過ごしやすい時期に入っていた。


 私はちょうど、勉強がひと段落して、ケイト女史とお茶をしているところだった。


「まぁ、将軍どうしまして? お茶でも飲んでゆっくりお話を」

 おっとりとケイト女史はアスティアナさんに紅茶を差し出す。


「ありがとう、ケイト」

 アスティアナさんはすすめられた紅茶を一気に飲み干す。

 そして、仁王立ちで私の前に立った。


 怒られるようなことをしたかしら?


 思い返してみよう。

 ここに来てからずっと勉強勉強勉強ばっかり。

 思い当たることといったら、一ヶ月くらい前に魔王にしつこく私の両親を殺した犯人を聞いたぐらいかしら。

 アスティアナさんの前ではそんなことしてないし、そもそもそんなことでアスティアナさんが怒るはずはないのだけど。


「スクルド。もう、私は陛下に愛想が尽きました。一緒に私の領に帰ってください!」


「んな、急に何で!」

 私は驚きながら、私のせいじゃないことに安心していた。


 アスティアナさんを怒らせると大変なことになるのは目に見えていた。

 だって、魔法も使わず、素手で戦艦を五隻くらいさくっと壊した「戦艦潰し」の異名を持つアスティアナさんだもの。

 怒らせたら、私はどうなっちゃうのか。

 考えただけで恐ろしい。


「もちろん、ケイトも一緒にです! お願いします」

 私の話は丸無視で、アスティアナさんは私たちに向かって土下座を始める。

 流石、将軍。

 流れるような動きで土下座をするわ。


「理由を説明してもらわないと決められません!」

 私は土下座をするアスティアナさんに向かって叫んだ。


 アスティアナさんが魔王にブチ切れるのは今に始まったことじゃない。

 寧ろ、よくある事だ。


 それでも、愛想が尽きたなんて言葉今まで一切なかった。

 根気強いはずのアスティアナさんを怒らせるなんて何をしたと言うの?

 とにかく、理由が分からない以上どうしようもない。


「では、私が理由を言えばついてきて下さるということで間違いありませんね!」

 アスティアナさんはものすごい勢いで立ち上がると、私の手を握った。


 圧がすごい。

 倒れそうになりながら、私は必死に踏ん張った。


 それを見ていたケイト女史は、アスティアナさんの肩を軽く二回叩く。


「将軍、椅子を用意しましたわよ。こちらにどうぞ」

 いつの間にか椅子が一つ増えており、座ることを促す。

 ケイト女史はできる女で行動がとにかく素早いのだ。


 アスティアナさんは言われるがまま、椅子に座った。


「落ち着いてくださいませ。まずは紅茶です」

 そう言いながらケイト女史は紅茶を差し出す。

 アスティアナさん好みのブラックティーだった。


 それをアスティアナさんは一気に飲み干した。

 そして、大きなため息をつく。

 どうやら、少し落ち着いたみたい。

 アスティアナさんはいつもの冷静な顔に戻っていた。


「聞いてください。陛下ったら私に内緒でお見合いをセッティングしてくるんです!」


「お見合い?」


 結婚を希望する男女が第三者を介して面会し、結婚相手として相応しいかどうか判断するという、あのお見合いのことよね。


「そう、お見合いです。私は結婚する気などありません! まだ、仕事もありますし、何よりスクルドが自立するまでは身を固めるつもりはないのです」

 アスティアナさんは私をダシにしてお見合いを断っているわけではない。

 以前からそのような発言は度々しているのを聞いたことがある。

 どうやら、本気で私が自立するまで面倒を見る気でいるようだった。


「そうは言っても会ってみるだけでもしてみては?」


 私はケイト女史の意見に賛成だった。

 前に魔王も重臣は自分より年上だと言っていたし、私の母親の親友であるアスティアナさんは割とお年を召されているはずだ。

 私のことよりも自分のことを考えてほしいと思う。


 それに、会ってみたら意外と気が合うかもしれないし、アスティアナさんの意見を尊重してくれる素敵な人かもしれない。

 会わないで決めるのは勿体ない気もするわ。


「嫌です! そう言うならケイト、代わりに行ってきてください」


「私には婚約者がおりますので」

 ケイト女史はにっこりと優雅に微笑む。


「ああ、そうでしたね。スクルドも……そうですね。お相手がいる方には私の気持ちは分からないんです」

 アスティアナさんはじっとりと湿っぽい目つきでケイト女史と私を見る。


 いやいや、私に相手はいないわよ!

 魔王は敵。

 魔王は敵。

 毎回、顔を合わせる度、求婚してくるけど、敵なの!


「そんなに嫌なら断ればいいじゃない」

 概ねケイト女史の意見には賛成だったが、アスティアナさんがそんなに言うなら仕方ない。

 丁重にお断りすれば、あの魔王のことだ。

 しょんぼり項垂れて渋々納得するはずだ。


「断ってます。何度も何度も何度も! もう限界なんです!」

 アスティアナさんは床をガンガン蹴り飛ばす。


 ちょっと待って。

 アスティアナさんがそんなに力強く床を蹴ると穴が空いてしまう。

 実は、私の部屋、何回かアスティアナさんに壊されかけていた。


 先日、やっとアスティアナさんが叩いたり、蹴ったりしても壊れにくい部屋に越してきたばかりだというのに早々に壊されてはたまったもんじゃない。


「分かった! 分かったから! 私が魔王に言ってみるから!」

 咄嗟に私は叫んでいた。


「本当ですか! ありがとうございます! よろしくお願いしますね!」

 アスティアナさんはすこぶる笑顔で私に抱きついた。


 あれ? これはまずいことを引き受けちゃったんじゃない?

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