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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
間章 魔王が入院する話
33/73

二話 ないしょのはなし

 ***


「さて、陛下」

 リュウは少女を見送ると、魔王の方へと向き直る。


 魔王は冷えた目線をリュウに向けた。


「嗚呼、貴方様はもう理解されているとは思っています。報告をしにきたのです。どうか警戒なさらないでください」

 リュウは笑顔を作る。


 魔王は視線をヒルデに向けた。


「そうでした。スクルドちゃんの顔色が良くなかったわ。私、見てきますね」

 ヒルデは内心二人の話を聞いていたいと思った。


 しかし、魔王はそれを良しとしなかった。

 魔王の瞳はヒルデを窘めているようだった。

 適当な嘘を付けて早々に此処から出ていった方がよいと彼女は判断した。


「気をつけて」

 グィルセンヴォルフは身内を労るように呟く。


 ぱたぱたと慌ただしい音を立て退席するヒルデヴォルフを魔王は一瞥すると、またリュウの方を見つめた。


「今回のことは大変申し訳なく思っております。デュグライムが面倒なテロリストと手を結んでいたのは分かっていたのですが、証拠がなかったものですからなかなか動けませんでした」

 リュウの笑顔は一層毒々しさを増した。


「だから、彼女を、スクルドを利用したのだな」

 魔王はいつもとは違う殺気立った表情でリュウを見つめた。


「利用などとはとんでもありません。ただ、彼女がそこにいれば貴方様は彼女を助けにくるでしょう? 貴方様がヤツらであると太鼓判を押すならば教皇庁も本腰を入れられます。これで、堂々と僕たち教皇庁も小世界(そと)への捜査が出来るわけです」


 魔王は暫く沈黙し、何かを考えている様子だった。


「スクルドが私を殺しにきた件も、お前の仕業か」


「いえ、そこまではできませんよ。魔王陛下のお気に入りの貴族が皆殺し。実はその娘は生きていて、魔王陛下の命を狙うというあたりから、勇者様と合わせたら面白そうだなぁとか、じゃあ、1つ困った事件を解決してもらおうかなぁとは思ってましたけど。やったことと言えば、魔王陛下にお目通りできるよう情報を流したり、ちょこっと手を加えたくらいです」


「なるほど。スクルド1人でここまで来ることはないと思っていたが、そういうことか」

 魔王はその美しい顔を不機嫌そうに歪めた。


「いやあ、想像以上の成果でスクルド嬢には感謝してますよ。僕としては人身売買が公になる程度でもよかったんですけどね。色々と見つけてきてくれました」


「スクルドは優秀なのだ」

 あたかも自分が言われたかのように魔王を頬は緩み、嬉しそうに頷く。


 リュウは親バカだなぁと微苦笑した。


「優秀ですが、危険なことに首を突っ込みたがるようですね。注意した方がよいでしょう」


「嗚呼、そこはアスティアナをつけるから問題ない。あれはスクルドの従叔母だからなんとかするだろう。それに、他にも手は打ってある」


「で、御用向きは? 以上でしょうか?」

 グィルセンヴォルフは問う。

 慇懃な言葉は鋭利であった。


「デュグライムの件もございます」


 グィルセンヴォルフはその言葉に唇を噛んだ。

 自分の顔が歪んだのに気付いたのだろう。

 慌てて顔を元に戻すといつもの胡散臭い笑みを貼り付けた。


「彼、取調べ中に泡吹いて死んでしまったんですよ。お恥ずかしい限りです。死因の方ですが、どうやら毒を煽ったようです。しかしながら、それらしい瓶などは発見されませんでした。教皇庁のセキュリティはネットワーク、建築物共に強固で様々な防犯設備完備。24時間365日稼動してます。完璧なセキュリティ自負しておりましたが、こうも簡単に死なれるとは。ようやく調書を取り始めたばかりでしたのに」

 リュウは肩を落とし、ため息を漏らす。

 疲れ切ったような、やけに人間くさい仕草だった。


「口封じか」

 魔王は唇に拳を軽く当てる。

 そして、そのまま考え込むようにノリの利いたシーツを睨んだ。


「恐らくは。教皇庁は引き続き調査を行っておりますが既に人身売買された者の内70人ばかりはまだ見つかっておりません。当人が死なれて捜査は難航の色が見えております」


「こちらでも、テロリストであるヘキサ・メロウが服毒自殺しました。同じく調書は取れておりません」

 グィルセンヴォルフは苦々しくそう述べる。


「……ということでこちらも情報は何もないな」


「そんなところだろうと思いました。セキュリティなんて意味がないのです。ヤツらには魔王と等しい力があるのですから」


「黙れ」

 グィルセンヴォルフは声を低くした。

 右手は腰のあたりに置かれており、今にもリュウの首をはねようと殺気立っている。


「グィール」

 魔王が一言でグィルセンヴォルフを窘める。


「失礼いたしました」

 グィルセンヴォルフはそういいながら、剣から手を離す。


「で? それだけではないのだろう?」


「はい。デュグライムが亡くなったので、スクルドさんが撮ってきてくれた写真や小瓶を調べることになったんです」

 リュウは写真を取り出す。

 それは、あちらこちらに落書きがされた世界地図を写真に撮ったものだった。


 魔王は少し驚いたような顔をする。

 僅かに顔を動かすだけのものだったが、リュウはその変化を見逃さなかった。


「ご存知で?」


「嗚呼、この地図に書かれている文字や絵のほとんどは、私のものだ。子どもの頃、落書きをして怒られた地図の複製だな」

 魔王は断言する。


「じゃあこの下に書かれている『ゲームをしよう』というのは?」

 リュウは写真に書かれている文字を指す。


「私の文字ではないな。メッセージだろう。ヤツらがやっていることはゲーム──遊びだということだろう」


「なるほど。どうやら、またここに来なければならないようですね。小瓶の方も成分の分析に時間がかかりそうですし、また、何か分かり次第ご報告参ります」

 リュウはそう言うと、足早に病室を去った。


 リュウがいなくなり、部屋には魔王とグィルセンヴォルフの2人だけとなる。


「陛下、あそこまで言わなくても……」

 グィルセンヴォルフは魔王を諌めた。


「いずれは分かること。隠しても無駄だ。言わずともじきに気付くだろう」


「そうですが」

 グィルセンヴォルフは納得出来ないような顔をして魔王を見つめた。


「やはり、兄が生きている」

 魔王はそう呟くと、ため息をついた。



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