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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
弐章 勇者様の憂鬱─囚われの幼なじみの救い方─
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二十四話 ヒーローは遅れてやってくるらしい

 なんと言うことでしょう。

 仮面野郎は野郎ではなく女だったのです。


 はい、しかも美人というオプション付き。

 涼し気な目元に黒曜石のような黒い瞳。

 男装の麗人という言葉がよく似合う顔立ちをしていた。


 うーん。

 最近、美形率が高くない?

 会う人会う人、美形ばっかり。

 会った人たちの8割以上が美形だ。

 アイスの中でも2本に1本は1塁打か2塁打が出るアイスの確率以上だ。


「野郎だと?」

 血みどろ幽霊系美人は目を細める。

 幽霊じゃないとわかってもかなり不気味だ。

 せめて流血をどうにかして戴きたい。


「じゃなくて女の方ですよね。あはは……」

 自分の顔が引き攣っているのがよく分かった。


「ふん、そんなことはどうでもよい。俺が直々に引導を渡してやる」

 流血したまま奴は剣を構えた。

 カチャリと剣は鳴る。


 野郎と思われたことに相当腹が立ったみたい。

 野郎発言ごときで怒るだなんて相当短気だ。

 短気は損気よ。

 残念無念また来週。

 おとといおいでなさい。


 不思議なくらい私は冷静だった。


 このままだと、もしかして殺されるかもしれない。

 不意に不吉な言葉が頭を掠める。

 剣って言うのは刺したり殴り殺すと言う使い方が多いらしい。

 殴られて脳みそ出たりしたら嫌だな。

 きっと気持ち悪いどころじゃすまないだろう。

 自分の脳みそなんて見たらトラウマになっちゃう。


「覚悟はいいか」


 にじりよる黒い影。

 両手に握られた、死の香りさえする剣はギラギラと血に飢えて光る。

 幽霊みたいに青白い顔。


 怖い顔。

 こんな怖いヤツに覚悟はいいかなんて聞かれて、いいなんて答えるヤツが居たら拍手してやるわ。


 私はナイフを構えた。


 静止画像を連続で見せられているようだった。

 ゆっくりと下りてくる銀色の物体。


 上手く避けないと頭からぱっくりってこともある。

 そう思うと、恐怖で自然と瞼が下りそうになる。


 刹那、目の前に黒がはためくのが分かった。

 影かと思えば、それは布だった。

 いつの間にそんな布が降ってきたのだろうか。


 視界が黒で覆われた。

 真っ黒な世界。

 何もかも見えなくなってしまう。

 こうなってはどちらから攻撃されるかも分からない。


 嘘でしょ?

 私、自分の状況も何も分からず、何も出来ずに死んじゃうの?


「スクルド!」

 懐かしい声が私を呼ぶ。

 私はこの声を知っていた。


 二週間程前に知り合って、私は彼を敵だと思っていた。

 大切なモノを奪った憎い敵。


 そりゃ、今だって恨んでるわ。

 なんで最後まで憎ませてくれないのって。

 いっそ殺してくれた方が楽だったし、処刑された方がよっぽど良かったと思っている。

 今思えば、彼を殺そうと決めたのも死にたかっただけなのかもしれない。

 死んでしまえば、痛みも、傷も感じなくて済む。


 でも、彼はそれを許さなかった。


 抜けていて、ちょっとおバカで、子どもじみていて、わがままで、大嫌いなヒト。

 本当に大嫌い。

 大嫌いなはずなのに。


「魔王……?」

 なんでここにいるの。

 なんで胸が一杯になるの。

 なんでこんなに嬉しいの。

 なんでなんで涙が出るのよ!

 自分の身体が制御できなくなっていた。



「ヒーローは遅れてくるものなのだろう?」

 弾くような金属音が響く中で魔王様は優しい笑顔で振り返った。

 いつもの乏しい表情はどこにいったのよ。


「なんでここにいるのよ、アホアホ魔王!」


 ちがう。

 本当はずっと待っていた。

 こうやって迎えに来てくれる人が現れるのを。

 もう一人ぼっちは嫌だった。


 でも、そういう弱さを認めたくなかった。

 だから、魔王を突き放したんだ。


「本当、馬鹿よ」

 仕事放っといてこんなところまで来て馬鹿じゃないの?


「すまん」


 金属のぶつかり合う音がした。


 魔王の体は微動だにしない。


「久しぶりだな。魔王様がこんなところで何をしている?」


 ギリギリと音を立てる剣。


 魔王はちらりと女の方を見た。

 そして、すっと目を細める。


 二人はどうやら知り合いらしい。


 そうか、この人も人間じゃなくて魔族なんだ。

 だから、美人だし、魔族を売るなんて商売に手を貸しているんだ。

 魔族なら魔族の扱いが上手いはずだもの。

 じゃあ、なぜ、この人、魔法を使わないの?


「大切な者はもう手放さないと決めたものでな」

 魔王ははっきりそう言うと、剣を弾いた。


「それは償い? それとも……ウルドが恋しいの?」

 女は冷笑する。


「違う! ウルドは関係ない!」

 いつものような淡々とした口ぶりと違い、酷く動揺したように魔王は叫ぶ。


「何を言う。髪の色、碧の瞳、彼女と同じではないか! 顔立ちだって似ている……」


「それは……」

 魔王は反論できず口ごもる。

 ちょっとは反論しなさいよ、おバカ。


「まぁ、彼女はもっと聡明そうな顔だったし、もっと機知に富んだ話し方をしていたがな。胸だってもっとあっただろう」


「ヘキサ……!」


 あーもう!

 2人でごちゃごちゃと何を話してるの。

 ウルドって誰よ!

 私を置いて2人だけの世界で話さないでよ!


 いい加減、魔王の秘密主義には飽き飽きしていた。


 それに、美人とは言え、目の前の幽霊さんだって胸がないじゃない。

 そんな言い方ないでしょ。

 ぺしゃんこ同士仲良くしようとか思わないわけ?


 アタマにきた!


「さっきからベラベラベラベラ! 本人を目の前にして似てる似てないとか失礼だわ。大体、私はスクルド。スクルド・シレーネ。ファミリーネームは父親から、ファーストネームはお祖母様から、この体は母親から戴いたものなの! 私は他人にはなれないし、なる気もない。私は私。私を譲る気もないわ。いつまでも私は完全無欠に私なのよ。死んだってそれは絶対に変わらないんだから!」

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