二十二話 噂とスパイ活動2
さあ、あの部屋はどこだったかしら。
見たことのある壺や絵を探しながら走っていると、それはすぐに見つかった。
私の記憶力ナイス!
よく覚えていたわ。
「もしもーし、誰も居ませんかー」
扉を開けて中を覗くが、返事はない。
どうやら、あの意味不明な仮面野郎はいないようだ。
私は念には念を入れて、辺りを見回しながら、そっと侵入した。
途端、足元でバリッなんて音が聞こえたもんだから驚いた。
流石に声は上げなかったけど。
もしかして、ものすごく体重が増えちゃったのかしら。
見えないところにお肉が付いたのかも。
付くなら是非ともお胸に付いて戴きたいものだ。
違う。違う。違う。
目を凝らして見てみれば、何かの破片を踏んでいた様子。
嗚呼、高そうな調度品が見るも無惨に壊されている。
痛々しいけど、私がやったのよね。
私は点々と続く木片の跡を追う。
その先にはご丁寧に穴が開いたままだった。
見れば見るほど結構な大きさの穴だ。
やっぱり弁償?
頭の中で幾らぐらい掛かるか見積もってみる。
駄目だ。
ゼロの数が明らかに足りない。
私は物価についていけない自分の財布を呪うほかなかった。
という冗談はさておき。
この穴、私が作ったものじゃないわね。
こんなに大きい穴、昨日今日できたものじゃないわよ。
取り敢えず、辺りを見回して安全確認をする。
「うーん、本当に何にもないようね。普通何か仕掛けしとくもんじゃない?」
そう呟きながら地下へ降りる。
さっき滑ったものだから、私は慎重だった。
特に、さっきの階段は要注意。
気を引き締めて歩いた。
石の床は相変わらず滑りやすい。
私は怖々と小さな部屋へとたどり着いた。
明かりがつく。
黒くてふかふかな座面の椅子に、高級そうな机。その上には書類のような紙の束。
本棚には小難しい題名の本が並んでいる。
改めて見ても、普通の書斎だ。
何か取り立てておかしいというところはない。
ここにも何か仕掛けがあるわけではないようだ。
私はじっくり観察していく。
あれ?
壁に旗みたいなのがあるわね。
青い布に描かれた金と銀で描かれた紋様は帝国──つまり、魔王領の国旗だった。
それが逆さになって飾られている。
ここは聖都なのよね。
普通は教皇領の旗とかシンボルが飾られるもんじゃないの。
それに、飾るにしたって逆に飾るっておかしいわ。
私はそれに近寄ってみる。
どうやら、何か仕掛けがあるわけでもないらしい。
普通の布でできた旗だ。
とりあえず、私はそれをカメラにおさめた。
他に変わったものはないだろうか。
私は間違い探しをしている気分になった。
壁や本棚を順繰りに観察する。
本の並びが暗号になってたり、本棚がスライドして隠し扉が出てくる様子はない。
拍子抜けだ。
もっと何かすごいものが隠れているかと思っていたのに。
最後に机や椅子の後ろの壁を観察する。
大きな世界地図がそこには飾られている。
地図には赤や黒のインクで書き込みがされていた。
魔族の使う文字と、人間の使う文字。
それから子どもが描いたようなつたないイラスト。
ドラゴンだとか猫みたいなものから、ただ赤で塗りつぶされただけのものまであった。
下の方には赤で大きく魔族の言葉で『ゲームをしよう!』と書かれている。
飾っている意図がわからない。
とりあえず、カメラで撮っておこう。
あと、調べるとしたら、机の上の書類や机だろうか。
私は先に机を探った。
すると、赤いインクのようなものの入った小瓶が二十個ほど出てきた。
インク瓶にしては長く細い形をしている。
インクではないのかもしれない。
私は開けて、鼻を近づけてみた。
うっ。すごい臭い。
百合の花のような臭いと鉄錆の臭いを混ぜて、腐敗臭で割ったようなえげつない臭いがした。
これがリザルトが言っていたドラッグってやつ?
絶対、飲みたくないんだけど。
とりあえず、よく分からないから一瓶確保しておくことにした。
あとは、紙の束よね。
詳しく見ている時間が惜しいので、何枚か頂戴することにしよう。
私は紙の束をパラパラとめくると、怪しそうなものを十枚ばかりを拝借し、ポケットの中に突っ込んだ。
よし、何かやり残したことはないわよね。
私は辺りを見回す。
そろそろ上の様子を見て、逃げ出すなら逃げ出さないと。
私は階段をかけ登った。




