十八話 勇者様は見つからない
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さて、別のところに捕まっていた人たちも逃がすことに成功したんだけど……
「この屋敷、無駄に広いんだから」
私は人知れず悪態を付いた。
何畳、何坪、何平方メートル、何ヘクタールあるのよ。
こんな広い屋敷だけど、誰か外に出れたのかしら?
私は窓の外を眺めた。
そこには、トナカイには似合わない綺麗な花の咲く見事な庭園と海が広がっていた。
どうやら、こちらの窓からは街は見えないらしい。
花と戯れる赤鼻のトナカイさん。
想像するだけで激しく可笑しい。
似合わない。
トナカイは寒いところにでも居て、鈴鳴らしながらソリ引いていればよろしいのにね。
おっと話が脱線した。
それにしても、ジェスカちゃんと会う気配すらないってどういうことなのかしら。
やっぱり、捕まったの?
それとも逃げた後だとか?
そしたら、私は間抜けすぎるわ。
デュグライム邸のセキュリティよりアホじゃないの。
バタバタバタと走る音がした。
前方からだ。
とりあえず、見つからないように隠れなきゃ。
幸い、周りはゲストルームばかりだし、隠れるところは沢山あるので隠れるにはこと足りる。
私は右側の、自分に一番近い扉に体を滑り込ませた。
扉に耳を押し当てて廊下の声をチェックする。
「逃げたやつもいるらしい」
「侵入者は何処だ」
「あっちへ行ったらしいぞ」
「捕まえて褒美を」
「まだ捕まらないのか」
足音ともにいくつもの声が聞こえた。
どうやら声の主は兵士たちのようだ。
会話から察するに皆、上手く逃げ回ってるみたいね。
そういえば、まだ例の幼なじみくんに会えてない。
ジェスカちゃんと逃げ出せていればいいけど、こうなっては確認のしようがない。
とりあえず、この部屋から出て、ジェスカちゃんを探さなきゃいけないわね。
私は足音の去った廊下を確認した。
赤い絨毯の広がるそこには人一人居ない。
私は一度扉を閉めた。
出るなら今がチャンスだろう。
深呼吸して、扉をもう一度開こうとした。
「おい」
ギクリ。
不意に背後からドスの効いた声がした。
確かにさっきまで気配なんて微塵もなかったのに。
明かりの燈っていない室内だとは言え、目は既に慣れている。
私はゆっくりと振り返った。
朧げに人の形が分かる。
すらっとした長身の影。
彼は目の前、その差僅か二メートルの地点に居た。
いつの間に接近を許してしまったのだろう。
それはあまりにも近すぎた。
後退りしようにも扉が邪魔だ。
私の身体は小柄過ぎた。押し退けるほど力はない。ということは前に逃げることも難しい。
前も後ろも無理となれば、逃げ場は既に決まったようなものだった。
右か左しかない。
意を決し、左へダイブする。
もう、ヤケクソだ。
机か何かを押し倒す感触がした。
花瓶の倒れる音だとか、木材が壊れるときみたいな音が、耳に、腕に、骨に、感じられた。
骨でも折れたかもしれない。
そのまま、飛び込み前転をするようにくるくると床を転がっていく。
床を三回転ぐらいしたときだった。
身体が文字通りふわりと浮いた。
そこには床はなく、私の体はは重力を無視していた。
次の瞬間だった。
落ちる。
そう思った刹那、床に頭を強かにぶつけていた。
いや違う。
床の代わりにと言わんばかりにぽっかりと口を開けて待ち構えていた穴に落ちて頭を打ったのだ。
何故穴が開いてるの。
もしかして今流行りの欠陥住宅ってやつなの!?
私は逆さになった侭、亀の如く手足をばたつかせた。
笑いたきゃ笑えばいいんだわ。
寧ろ、笑ってくれた方がいっそ清々しいもんだ。
トナカイさん、欠陥住宅よ。
耐震偽装、白蟻の疑いアリだわ。
ちょっと転がっただけで大穴が開いたなんて、どんだけ脆いんですか。
やっぱり、これは弁償するべきなのかしら。
悪い奴でも物の道理としては払うべきよね。
でも、お金はあんまりないのよね。
こうなったら、魔王陛下に借金するしかないのかしら。
嗚呼、敵に塩を下さいとお願いするような女でいい訳ですか。
いやいや、いい訳ない!
セルフ漫才が終わったところで、突然、光が眼球を焼いた。
「おい、大丈夫か!」
どうやら奴が電気付けてくれたらしい。
有り難い。
いや、敵に心配されるとか、私はなんて間抜けなんだ。
自分を一喝すると、私は立ち上がる。
「大丈夫じゃないわよ」
穴からひょこっと顔を覗かせてやる。
うわ。赤毛の仮面野郎の顔が間近にあるではないか。
本当に無表情な顔。いや、顔というか仮面なんだけど。
てか、近いってーの。
下がって頂戴。
こういう時なんて言うんだっけ。




