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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
序章 魔王と私
2/73

一話 序章の序章

 帝国歴4003年。


 一度絶滅しかけた人類は現在、大きく分けて3つに分かれていた。


 1つは、魔王陛下を筆頭に、魔法に長けた種族である魔族たちが住む国、新人類帝国。

 そして、宗教上の元首であり、国家元首でもある教皇が束ねる人間中心の国、聖教国。

 最後に、そのどちらにも属さない小さな国々をまとめて、小世界と呼んだ。


 これは、そんな世界で生きる、少女と魔王のお話である。 


 ***


「魔王! 覚悟!」

 私は叫んだ。


 相対するのはとても美しく、憎らしい男の姿だった。

 男の黒く昏い色をした髪は微動だにせず、紫の澄んだ瞳はこちらを向いていた。

 整いきって澄ましたツラを無表情に向けている。


 私は、跳んだ。

 真っ直ぐ、力強く。


 漸く、積年の恨みが晴らされる。

 私は歓喜に震える胸を抑えながら、ナイフを振りかざした。


 長い長い跳躍だった。

 地面が、魔王が、遠い。

 

 やっと、やっと果たされる!

 父様、母様、見ていてください!


 不意に男と目が合う。


 そして、男はこちらに向かって悠々と微笑んだ。

 それはあまりにも美しく、完璧なものだった。



 ***



 その日はとても気持ちの良い天気だった。


 何故、あそこに行こうとしたのかは思い出せない。

 覚えているのは、あのとき、何故だか無性に母様に会いたいと思ったことだけだ。


 私は母様の部屋のドアノブに手をかけた。

 パチンと弾ける音とともに静電気が走る。


 私は驚いて手を離す。

 ぞわり。

 鳥肌が立った。


「母様」

 胸騒ぎがして、私は愛する人を呼んだ。

 返事がない。

 ざわざわと騒めく胸を押し殺し、恐る恐る扉を開く。


 扉の開く音ともに目の前が真っ白になった。


 無数の羽根が空中に舞い、赤い染みが絨毯やベッド、天井にいくつもあった。

 そこは見慣れたはずの部屋ではなかった。


「母様?」

 掠れた声が漏れる。


 その部屋からは死の匂いがした。


「父様?」

 もう一度、声が漏れた。


 誰の声も返ってこない。


 白金と鮮やかな空色、羽根の白、赤の染み。そして、黒。

 色だけはやけにはっきりしていた。


 ごろり。

 黒いそれが何かを落とした。

 転がった何かと目が合う。

 私は息を飲んで目を見開いた。

 唇が震える。


「母様?」

 震えた声に対する返事はやはりない。


 黒いものがくるりとこっちを向く。

 それがなんなのか、12歳の私でも、十分すぎるほど分かっていた。


 驚きよりも恐怖が身体を縛る。

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 こわい。


 目の縁からじんわりと視界が滲む。

 じわじわと半透明の膜で覆われる視界。


「何故……何故なの」

 唇から漏れたのは陳腐な言葉だった。


 黒いものは、完璧に整った顔を歪めて微笑んだ。

 心臓が凍るほど美しい顔だった。


「陛下……!」

 私の声はあの人に届いたのか分からない。


 私は震える唇でそう叫んだ。




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