十四話 ルドベキアの夜
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今日も野宿決定だ。
野宿といっても幸いなことに、使われていない家畜小屋を見つけることができた。
幼い子どもがいることもあって、宿をとることも考えたが、万が一のこともある。
あんなことがあったせいで、街中が敵のような気がしていた。
私たちはしばらく小屋に隠れていた。
兵士たちの声もなくなったので、私だけ外に出て周りを歩いて様子を探ることにした。
顔が知れておらず、かつ魔族で動ける私が適任というわけだ。
警戒していたが、もう兵士はいない様子だ。
おそらく、私たちはもうここを離れたのだと判断されたのだろう。
空にはすでに二つの月が輝いていた。
私は少女の家に戻ると毛布を数枚拝借した。
うん。やっぱり誰もいないわね。
私は帰り道も注意深く警戒しながら小屋に戻った。
帰ってみると、ラウラと呼ばれていた幼い少女は姉の膝の上で寝ていた。
「ただいま。外にはもうあいつらはいないみたい」
私の言葉に2人はほっとした顔をする。
私はラウラに持ってきた毛布を掛けた。
姉である少女は小さく「ありがとう」と呟く。
私は少女に微笑みを返した。
「お姉さまも帰ってきたことですし、聞きたいことが」
ジェスカちゃんは改まって少女の方を向く。
少女に聞きたいことがあったけど、律儀に待ってくれていたのね。
「なんでしょう、勇者さま?」
「ここはもしかして、隔離地域ですか?」
ジェスカちゃんの言葉に、少女はこくりと頷く。
「魔族やその子どもたちが住んでる。ルドベキアは元々色々な人や文化が集まる土地。魔族も勿論いた。でも、都の長がデュグライムに代わってから変わったってお母さんが言ってた」
小さくか細い声が聞こえた。
「デュグライムがこの場所を作ったってこと?」
少女はまた頷く。
「さっきの兵士は魔族やその子どもを時々捕まえにくる。きっと、捕まえやすくするために、ここを作ったんだと思う。定期的にあの人たちはくる。今日は捕まえに来る日。だから、勇者さまに助けてもらおうと思ったの」
なるほど。
街の人を捕まえるって噂は魔族やその子どもを捕まえるってことだったのね。
デュグライムの悪事がようやく分かってきた気がした。
「ラウラは大丈夫だったけど、お母さんが捕まっちゃった。遅かったみたい……」
少女は涙をぽろぽろと流す。
その顔を見ていると、胸がぎゅっと苦しくなる。
親をなくす子どもの気持ちは痛いほど分かるつもりだ。
「大丈夫。私たちが何とかしてあげるから」
気付けば、私はそんなことを口走っていた。
「そうですわ。ワタクシたちもデュグライムに捕まっていて助けたい人がいるんです!」
「ねえ、だから、あなたが仲間になってくれたら嬉しいわ」
私はならべく優しい声でそう言った。
少女は驚いたように目を見開くと、頭を大きく動かして何度も頷いた。
「そうですわ、仲間になってくださるのでしたら、名前を教えていただけます? ワタクシたち、まだ聞いてませんでしたから」
「フローラと言います」
フローラちゃんは涙を拭う。
「フローラちゃん、よろしくね。私はスクルド」
「スクルドさん……」
「そうそう、ワタクシも勇者さまではなく、ジェスカとお呼びください」
「ジェスカさん……二人ともありがとう」
私たちはそっと握手を交わした。
こうして、フローラちゃんという心強い仲間が増えた。
子どもとはいえ、この中で1番ルドベキアのことを知っている。
きっと助けになってくれるはずだ。
早速、私たちは作戦を立てることにする。
ヤツらが仕掛けてくる前に先手を打つことが大事だ。
「じゃあ、まず、次回、やつらが魔族を捕まえに来る日を教えてくれない?」
「おそらく、明後日の夕方。大体、時刻はほぼ一緒で、1日は空けてくるの」
「じゃあ、1日は猶予があるわけね。その間に準備をしましょう」
私はにんまりと笑った。
魔族に、勇者に、手を出したことを絶対、後悔させてやるんだから!