十二話 少女との出会い
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一応、天使様の言っていたことの裏を取ろうと思って私は聖剣のあった場所やデュグライム邸の周りをこっそり歩いてみたりした。
結果、やはり、聖剣のあった場所には壊されたような傷がいくつも見つかった。
聖剣を抜くことができなかった誰かが腹いせにやったこととも考えられたが、それにしては新しい傷ばかりだった。
それに一部には黒く焼けたような跡もあった。おそらく爆発物を使って衝撃を与えて抜けやすくしようとしたのだろう。
でもそんなことをしたらきっと街の人は怒るはずよね。
聞き込みの結果、抜くときにそういうことをする人はいなかったようだからいよいよ天使様の言うことは本当のように思えた。
あとはデュグライム邸。外から見ただけなんだけど、とても大きくて見取り図にある通りの形の建物だった。
見取り図が正確なものかは調べないと分からないが、外から見ても怪しそうな場所が何か所かあった。
幼なじみ君がいてもおかしくないと思う。
そんなこんなで色々と調べながら歩いていたので時間が足りず、私は結局、待ち合わせの時間に少し遅れてしまった。
広場に行くとすでにジェスカちゃんがいた。
ローブで隠していてもなんとなくジェスカちゃんの美少女オーラは隠しきれていないのよね。
私はジェスカちゃんに手を振る。
ジェスカちゃんもすぐにこちらに気付くと小走りに近付いてきてくれた。
「ジェスカちゃん、幼なじみくんの居場所が分かったかもしれない」
開口一番、私は興奮してそう言った。
「ほんとですか! ありがとうございます!」
ジェスカちゃんに嬉しそうに私に抱きつく。
うん。やっぱり巨乳。
柔らかい胸が私の平たい胸に当たる。
「詳しい話は後で。とりあえず、今日はもう宿に行こう」
私は早口でそう言った。
こんなところで話していては誰が聞いているか分からないもの。
もっと落ち着いた場所でゆっくり、きちんと話したい。
「そうですわね。宿で情報を整理しつつ、明日やることも決めましょう」
ジェスカちゃんは少し疲れた顔をして頷く。
私たちは宿がたくさんある方へ歩きながら話をした。
詳しくはあとで話すことにして、手短に、すべての黒幕がデュグライムであること、その屋敷に幼なじみが囚われている可能性が高いことを伝えた。
これらはどうしても早く伝えたかった。
というのも、宿に行く途中にデュグライム邸があったからである。
ジェスカちゃんにも直接見てもらって欲しかったのだ。
「そういえば、最近、都長の護衛の兵に連れて行かれた人がいるみたいなんです。もしかしたら関係あるかも…」
私の言葉を聞いて、ジェスカちゃんは思い出したかのように言った。
都長の護衛の兵士?
聖都の長だから守るためにそういう人がいても可笑しくない。
でも、守るために存在する兵士が誰かを連れていくことってあるのかしら?
誰かを連れていく権限があるとすれば、犯罪を取り締まる集団ぐらいじゃないのかしら?
例えば自警団とか、教皇庁の犯罪を取り締まる人たちとか。
そういう権限がないのに誰かを連れていくってのは悪事の匂いがする。
「でも、連れていかれた人……っていうのがフワッとしていて判断がつかないわね。どういう人が連れていかれたのか分かれば、デュグライムの悪事も分かりそうなものだけど…」
ドン。
いい音がした。
私は弾かれたように地面に倒れこむ。
「お姉さま! 大丈夫ですか?」
考え込みすぎてきちんと前を見ていなかった。
どうやら誰かとぶつかってしまったらしい。
目の前にひよこが歩き回っているような錯覚。
グルグルする。
自分のあほさ加減に少々苛立ちながら、私は顔を上げた。
そこには顎のつんと出た少女が腰を抜かしている姿があった。
少女はジェスカちゃんより若いように見える。
十代前半くらいの歳で赤毛の髪を太い三編みにしている。
妖精のような容貌だ。
よく見ると、額に角のような出っ張りがある。
少なからず魔族の血が入っているように見受けられた。
「ごめんね」
グルグルした頭を振り、慌てて謝る。
しかし、少女の心ここにあらずだった。
ジェスカちゃんの方を穴が開きそうなほど、じっと見つめている。
「大丈夫ですか?」
ジェスカちゃんは少女に駆け寄り、手を差し出した。
少女はこくりと頷き、呟く。
小さくか細い声。
しかし、確かに勇者さまと聞こえた。
ジェスカちゃんは慌ててフードを押さえる。
どうやら下からの角度ではジェスカちゃんの顔が丸見えだったようだ。
「お願い。勇者さま、助けて」
少女はもう一度、はっきりとそう言った。
そして、頭を下げた。
私たちは顔を見合わせると、少女に向かって小さく頷いて見せた。