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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
弐章 勇者様の憂鬱─囚われの幼なじみの救い方─
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十一話 天使様の話

「いえ、魔王陛下はアスティアナさんとか言う偉い方に怒られて、軟禁されてますよ。僕は陛下とは全く関係ありませんから」

 天使様は困り顔で笑う。


 魔王サマ御愁傷様。

 魔王や腹黒より強いアスティアナさんってどんな人なんだろ。

 鬼……とか?


「それより、情報がほしいんじゃありませんか?」

 魔王よりも僅かに高く、麗しい声が耳元で囁く。


 耳と口!

 近い!

 恥ずかしさのあまり、咄嗟に天使様の肩を押した。

 天使様はいたずらっぽい笑顔を浮かべている。


「ジェスカちゃんの幼なじみの居場所を知ってるの?」

 私は声を低くした。


「いえ、それは知らないんですよねー」


「じゃあ…」

 そう言いかけたとき、注文したコーヒーとサンドイッチと紅茶が運ばれてきた。


「じゃあ、どんな情報なのよ!」

 私は腹立ち紛れにサンドイッチを頬張った。


「そうですね。例えばなぜこのタイミングで勇者生まれたか……とか?」


「それが何か関係があるの?」


「大ありなんです」


「聞いてあげる」

 私は手を動かして聞かせろとアピールした。


 それを見て天使様はにっこり微笑むと手招きをして耳を貸して欲しいというジェスチャーをする。

 私は素直にそれに従った。


「この街は遅かれ早かれ、諸事情により聖都から外される予定でした。聖都に選ばれるとその都市は教皇庁からのお金が入るんです。ですから、その金で私腹を肥やしていた支配者の方はさぞかし困ると思いませんか?」


 いきなりなんだ?

 いや、ちょっと待てよ。


「まさか、ジェスカちゃんが聖剣を抜いたのって……」


「広場をよく調べてみて下さい。抜けやすくなるように剣の在った周りが少々壊されています」


 つまり、支配者たちは今まで楽して手に入れていたお金を守るため、ここを聖都にしておきたかったわけだ。

 聖都のままでいるには何らかの奇跡が起きなければならない。

 例えば、また勇者が現れるとか。

 しかも、その勇者がこの聖都の出身だったらどう?

 また威厳は保たれるわね。


 でも、その説には腑に落ちない点がある。


「そうしたら──聖剣がなくなったら観光地として成り立たないんじゃない?」


「いえ、ここは海に近いこと、帝国領からも近いことから商業が発展した地でもあります。充分やっていけます。勿論、勇者が現れれば、勇者発祥の地とか言って今まで通り観光地としてもやっていけます」


 天使様の言葉に私は頷く。


「結局、彼らは楽して大金を稼ぎたいのですよ。なんと醜い! 僕はそういうお金に対して愛のない、不正をする奴らが大嫌いなのです」

 天使サマは不愉快だと言わんばかりに笑う。


「彼らは勇者を仕立て上げ、後ろ盾とする必要がありました。しかし、抜いてしまったのはこの地に縁のない者。貴女ならどうします?」


「うーん、剣を盗む。で、剣をここに縁のある人に渡して勇者をでっちあげるわ。でも……」

 そう。奪って、別の人間を勇者にすればいい話だ。

 うん、簡単だ。

 でも、それをしなかったってことは何かあると言うことよね。


 なんだろう?

 聖剣聖剣聖剣。勇者の剣・聖剣。

 圧政に苦しんだ人々が勇者の元に集い、自由を手に入れた。その勇者が使っていた剣。

 支配者が欲のために使っていい剣ではない。


 色々細工してもジェスカちゃん以外の人には抜けなかったのよね。


 そうか、きっと聖剣は人を選ぶんだわ。

 だから、支配者に選ばれた者は使うことが出来なかったんじゃないかしら。


「お分かりになったようですね。あの剣は支配者のための剣ではない。民のための剣なのです。正義の名の元に不正を働く独裁者を裁くための剣が手を貸すわけないでしょうね」


「だから、幼なじみくんを人質に剣が扱える者を操ろうとしたってところ?」


「ええ、おそらくは。これで使い物にならなくて死ねば、所有者が変えることができるわけですし、ドラゴンを倒せれば、こちらのいいように使える勇者だと証明できるわけですから。何も出来ず帰ってくれば何か理由をつけて殺せばいい程度に思っていたかも知れません。どう転んでもいいようにできます」


「ちょっと待ってよ。ジェスカちゃんを殺そうとしていたってこと?!」

 思いの外大きな声が出た。

 周りの人がぎょっとしてこちらを見る。


「すみません。本のお話です。彼女が好きな小説のネタバレをしたら怒ってしまったようです。お騒がせしました」

 天使様が慌ててフォローを入れる。

 周りの人は納得したようで和やかな雰囲気が戻った。


 天使様はさらに声を低くした。

「上手く行けば、ドラゴンスレイヤーとして箔の付いた勇者を操れます。彼女は天才魔術師らしいですからね、万が一でも倒せる可能性はあった」


 いやいや、ドラゴン倒すとか、下手したら、教皇側と魔王側の戦争になるわよ。

 なんでそこは計算出来ないの。

 悪党な上に相当な阿呆。

 本当に人間ってお馬鹿さんなのね。


「何でそこまで詳しく知っているの?」

 当然の疑問だった。

 事情にやけに詳し過ぎるもの。


「色々とコネはあるほうなんです」

 なるほど、魔王の側近である眼鏡となんだか知り合いっぽかったし、コネは充分ありそうだ。


「色々と情報をありがとう。でも、肝心の幼なじみの居場所も黒幕も分からないから動きようがないわ」


「僕を誰だと思っているんですか? 黒幕はもう分かっています。支配者はデュグライムと言う、ケチで頑固な卑怯者、金儲けのみしか考えないヤツなのですよ。僕はこう言う守銭奴は好きじゃありませんね。お金への愛がないのですから。元々は商人だったのですが、一代で莫大な富を築き、その金でここを買い取ったそうです。その富を築き上げた秘密を暴露してやったら、さぞかし楽しいでしょうね」

 天使様は愉快そうに喉を鳴らす。


「とにかく、そいつを調べてみれば、幼なじみくんの居場所が分かるってことね」

 天使様の言うことが本当かどうか分からないが、手掛かりがない私にはありがたかった。


「そうそう。先ほど、居場所は分からないと言いましたが、実は怪しい場所の目星はついているんです」

 天使様は丁寧に丸められた紙切れをカウンターに乗せた。

 古びた紙にリボンが巻いてある。


 私は他の人に見えないように隠しながらそれを開ける。


「見取り図?」


「デュグライムの屋敷のものです。怪しいお部屋がいっぱいあるんです。こういうものも必要でしょう?」


「こんなものまで。なんでここまでしてくれるの?」


「僕は真実が知りたい。でも、表立って動くことは出来ないんです」

 悲しげに天使様は笑う。


 怪しい。

 ものすごく怪しい。

 話ができすぎている。

 なんかの罠じゃないかしら?

 私は疑いながら紅茶を含んだ。


「ほとんどが憶測ですから疑うのも無理ない。貴女は聡明そうなのであとはご自分で考えて行動されるといい」

 天使様はそう言い残して席を立った。

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