九話 到着した街
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「やっとつきましたわ! 聖都・ルドベキア!」
ジェスカちゃんは両手を挙げて喜んだ。
無理もない。
野宿も交え、風呂もなかなか入れなかったのだから乙女には辛い道のりだった。
街についたのも嬉しいわけだ。
本来であれば早々に宿をとって、お風呂で疲れを癒したいところである。
確か、ルドベキアには美肌に効くと言われている温泉もあったはず。
それに、ここは帝国も近く、海も近いから色々な美味しいものが食べられる街としても有名なのだと馬車の中の人が言っていたのを思い出す。
嗚呼、温泉に浸かって、疲れを癒し、美味しいご飯が食べたいわね。
しかし、忘れてはいけない。
私たちは観光に来たのではない。
ここにはジェスカちゃんの幼なじみくんを助け出す為にやって来たのだ。
まだまだ仕事は残っている。
この仕事が終わるまでは温泉でゆっくり……とはいかないだろう。
本当に観光に来たのだったら良かったのに……
幼なじみくんはこの街の何処かに監禁されているのよね。
果たして見つかるのかしら?
私は辺りを見回した。
七聖都ルドベキアの内の1つは、聖都と言うより観光地という感じだった。
綺麗に舗装された道は歩きやすく、街並みは一貫性のある煉瓦造り、街は活気づいて露店が並ぶ。
露店は食べ物の屋台から装飾品、衣類、雑貨など様々なものが雑多に並ぶ。
行き交う人々は老若男女パワフルな感じ。
流石は聖剣を中心にして築いた都市である。
帝国の首都や教皇領の都ほどのハイテクな整備はなされていないものの、十二分に快適そうな環境だ。
見事な教会やら塔もあって、何処もかしこも観光してくれって言ってるみたい。
これなら聖剣なしでもやっていけるような気がするはするんだけど。
「お姉さま!」
物珍しそうに辺りを見回している私に、ジェスカちゃんは声を掛ける。
「それでは聞き込みに行って参りますね」
ジェスカちゃんは笑顔で私に向かってそう言う。
えがお?
ローブを目深に被っていれば見えるはずのないものがそこにはあった。
「ちょっと待って! ローブのフードはしっかり被った方がいいわよ。顔バレしているんだから警戒しておかないと」
私は慌ててジェスカちゃんの腕を掴んだ。
ジェスカちゃんの顔はすでに知れ渡っていると思ってもいいだろう。
勇者が聞き込みをしていたら警戒されるし、命を狙われることもあるかもしれない。
非常にまずい。
「ああ、忘れていましたわ。ありがとうございます」
ジェスカちゃんは目深にフードを被り直す。
「早く気付いてよかったわ」
そう言いながら、私もフードを被った。
私の見た目は魔族魔族していないけど、万が一バレるという可能性もある。
魔族ということがバレれば警戒され、聞き込みがうまくいかないということもあり得る。
念には念を入れた方が良いだろう。
「ああ、そうでした。忘れていましたわ。これをお持ちください」
ジェスカちゃんは思い出したように鞄の中を漁ると、白っぽい袋を取り出した。
私はそれを受け取る。
大きさの割に思ったより軽い。
不思議に思って中を開けると、丸められた紙と紙幣が入っていた。
どちらも相当な年代もののようだ。
「これは?」
「お金とこの街の地図ですわ」
「私だってお金ならちゃんと持ってるよ?」
実際はあまりお金は持っていなかった。
でも、一応、歳上なんだからお金ぐらい借りなくても大丈夫だと見栄は張らせてほしい。
「いえいえ、ここの街は特殊で、独自の通貨があるんです。通常使われているものでの支払いは大抵断られてしまいます。交換にも手間がかかりますのでここはこれを使ってください」
よくよく見ると、紙幣は見慣れたものと大分違う。
書かれているデザインは勿論だが、紙質がよろしくないらしい。
インクが掠れたり、滲んでいたり、紙自体が毛羽立っている。
なるほど、道理で儲かるわけだわ。
勝手に紙に印刷して紙幣がつくれるのだから。
「交換する手間が省けるわ。ありがたく借りておくわ」
私は素直にそれを受けとった。
「では、何の手掛かりがなくても……」
「分かってる。十五時には噴水広場ね」
私は街の西の方を指差す。
街の中心から少しだけ外れたところに広場があるのは既に確認していた。
私の仕草を見て、ジェスカちゃんは満足そうに頷いた。
そして、私たちは、情報を集めるために二手に分かれた。
さて、まずはどこに行こうかな。
私は地図を広げた。
街はとても広い。
やはり南と北に分かれて探すというのは正解だったな。
怪しいところは何処かしら?
私は地図を覗き込んだ。