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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
弐章 勇者様の憂鬱─囚われの幼なじみの救い方─
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七話 別れ

 ***


 全員がテーブルについた。


「で、何のご用でしょうか?」

 腹黒眼鏡はにべもない言い方をする。


「冷たい言い方ですね、ナハツェール卿」

 天使様は困ったような笑顔を向けた。


 どうでもいいことだが、私は、今更、腹黒眼鏡の名前を知ることになった。


 どうやら2人は知り合いらしい。

 この天使様はそれなりに身分の高い人なんだろうか。

 眼鏡の身分がそれなりに高いことはなんとなく分かっていたけど。


「そもそも何故隠れていらっしゃるのでしょう?」

 確かに、何故隠れているのか疑問だった。

 それに魔王に会う為だけならお城に居た方が確実なはずだ。


「実は、魔王陛下が行方不明で騒ぎになっているのですよ。それで虱潰しに魔王陛下の別荘を探そうとしたところ、幸運なことに、一発目で見つけたわけです。そこでお声をかけようとしたのですが、何やら不穏なお話をされている。そこで隠れて見守っていたのです」


「バレてしまいましたか……」

 眼鏡の顔が真っ青になる。


「嗚呼、アスティアナに怒られる……」

 魔王までも真っ青な顔をして震えている。


 アホか。

 子供じゃあるまいし。

 簡単な話だ。

 私はため息が出そうになる。


「そこの腹黒眼鏡、魔王を城に連れて帰りなさい」

 そう、素直に魔王が帰ればいい話なのだ。


「勿論、そうしますが、このお嬢さんの件も終わっていませんよ。まだ早いのでは?」

 眼鏡は驚いたような顔でこちらを見る。


「お姉さま?」

 ジェスカちゃんも驚いたような顔をしている。


「だから、魔王はそこの変態眼鏡と金髪蒼眼のお兄さんとさっさとお城に帰れば良いって言ってるの。私はジェスカちゃんと幼なじみくんを助けに行くから」


「怒ってる?」

 魔王は上目使いで私を見ながら問う。


 大の大人が上目使い。

 おっさんの上目使い。

 言葉にすると、少々キツいような気もするが、美形は全てにおいて許されるのが現実だ。


「怒ってないわよ。さっさと帰ってよ」

 なんだか面倒になって投げやりに言った。

 嫌々いてもらうのってなんだか気分が悪いじゃない。

 それなら帰ってもらうに限る。


「いや、それでも私は貴女を送っていかないことには……」

 魔王は分かってない。


「何処に? 帰る場所なんてないんだから。最初から死ぬつもりだったしね」

 私は自嘲気味に笑う。

 卑屈になっちゃダメなのは分かっている。

 こんなのただのヒステリーだ。

 何故かイライラしてる自分にも腹が立つ。


「帰る場所がない」

 魔王は一人ごちる。

 いや、独り言を通り越してぶつぶつ煩い。


 何なのよ!

 全ての者に帰る場所があるのが当然だって思っているわけ?

 ふざけたこと吐かすんじゃないわよ。

 この世界は全ての者に平等じゃないの。

 平等じゃないという平等な条件に支配された平等な世界なのよ!

 皆平等じゃないことが平等に分けられた世界なの。

 お気楽に生きてきたやつにはわからないんでしょう。


 そうか、私がイライラしているのはこれか。

 魔王には帰る場所がある。

 私にはない。


 魔王には心配してくれる人も怒ってくれる人もいる。

 眼鏡にもいる。

 でも、私にはない。


 奪われた。

 理不尽にもぎ取られた。

 この男か、この男以外の誰かに。


 一瞬、忘れていた憎悪が蘇る。

 違う。

 忘れていたわけじゃない。

 ただ無視していただけだ。

 ちょっと居心地がよかったから。


 やっぱり人がいると安心しちゃうんだ。

 例え、口では嫌いって言っていても。


 勿論、魔王は敵よ。

 でも、此処に居て、魔王と話すのも悪くないかなって思っちゃった。

 矛盾しているけど。

 でも、そんな居心地の良さはいらない。

 魔王は敵なんだから。


 私は魔王を睨みつけた。

「ブツブツ煩いんだけど、なんか文句でも?」

 私の問い掛けに対して魔王は元々無いような表情を更に凍らせた。

 こう言うのは何て言うのかしら。豆鉄砲食らった鳩みたいだっけ。

 いや、苺を食らった魔王陛下だっけ?


 否、絶対に違う。

 苺は、無い。

 意外と似合いだけど絶対間違ってる。


「違う。違う。文句なんて……」

 たった今、私の中でベストストロベリー賞を受賞した蒼白の美丈夫は引きつった顔で必死に首を振った。

 魔王、アンタはいつの間にそんなキャラになったの。

 必死なんて言葉は絶対似合わないのに。

 余裕でお気楽天然な奴だったじゃない。

 それでいておバカでどうしようもない奴なのよ。

 余裕で答えてくれなきゃ困るわ。


「ならいいわ。さっさと帰れ」

 やっぱり元と言えど暗殺企てた者が標的と一緒に居るなんて大間違い。

 魔族が教皇聖下になっちゃったぐらい有り得ない。


「聞こえてるの? 帰ってよ」

 大嫌いなのよ。

 振り回されるのもうんざりだ。

 大体、私は今まで一人だって平気だった。

 それはこれからも変わらない。


「帰れ! 大馬鹿アンポンタン魔王! アンタがいないと困るのよ。これだから魔王領は治安が悪いの」

 いい加減にして頂戴。

 アンタのワガママなんて聞きたくない。

 いつか別れなきゃいけないならすっぱり別れなきゃ。


「分かった」

 魔王はゆっくりと口を開いた。


 呆気ない。

 もっと言い返すかと思った。


 もっと?

 冗談じゃないわ。

 私は首を振った。


 あんなしつこいのに付き纏われちゃ仕方ない。

 それに奴は敵なのだ。


 分かったと言いつつ、しょんぼりとうなだれる魔王。

 小動物のような瞳で下を向かれても可愛いとも思わないし、同情なんてしない。

 寧ろいい気味。

 愉快痛快ね。



「でも……」


「もう戻ってこないでよね」

 念を押すように低く呟いた声が魔王の言葉を遮る。

 もう魔王の言葉は聞きたくなかった。


「お嬢さん、陛下は……」

 何よ、眼鏡は魔王ばっかりフォローしやがって。


「眼鏡の話も聞きたくないわ。今から帰ったらいい。早く出ていけ」


「分かりました」

 こちらも物分かりがよく、直ぐに譲る。


 それ以上は何も言わず、魔王と眼鏡と天使様は部屋から退場した。

 これで魔王様ともおさらばだ。

 せいせいする。


「お姉さま……」


「2人になっちゃったけどなんとかなるよね? ルドベキアまでは歩きになっちゃった。ごめんね」

 不安そうな顔のジェスカちゃんに、私は必死で笑顔を作った。

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