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私の魔王様!?─仇討ち少女は魔王を倒したい!─  作者: シギノロク
弐章 勇者様の憂鬱─囚われの幼なじみの救い方─
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六話 謎の天使様

 魔王と眼鏡は蝋人形のように固まって動かなかった。

 どうしたの?

 全く大の男が何硬直してるなんて。


「どうしたのよ?」

 魔王たちの後ろからひょっこりと、扉の外を覗く。

 すると、黄緑に近い金髪と青い瞳の某合唱団にでも居そうな美形さんがいた。


「あ、こんにちは」

 そう言いながらズビっと鼻をすする美形青年。

 何処かで見たことあるような顔だ。

 ふわふわとした髪、白い肌……これはもしや。


「天使様?」

 そう、宗教画に出てくる天使みたいなのだ。輪と羽のオプションを付けたら間違いなく天使。


 私の呟きに天使様はにこりと笑う。

 途端に脳内では警報が鳴り響く。

 その笑顔からは眼鏡と同じような匂いがしたのだ。

 でも、目つきの鋭い眼鏡の親戚にしちゃ、綺麗な顔をしているし、赤の他人かしら?


「ここは埃っぽいですね。魔王陛下がおわす所とは思えません」

 天使様は綺麗なお顔をしているが少しイヤミっぽいらしい。

 やはり眼鏡と同じ匂いがする。


 私は警戒するように気を引き締めて天使様を見つめた。


「魔王?」

 強ばったような声がした。

 振り向くと、ジェスカちゃんの顔が不自然な笑顔で固まっていた。


 あれ? そういえば、魔王と眼鏡と私が魔族だと言った覚えがない。

 もしかして、魔族を見ても普通だと思っていたけど分かっていなかっただけってこと?


 ジェスカちゃんは勇者だ。

 ということは……もしかして、これは大ピンチというやつ?

 魔法とかで倒されちゃう系?

 物語が変わっちゃうわよ。

 主人公は私。

 私なんだからね!


 私はどう弁解すべきなのか、どう状況を切る抜けるか、必死に考えを巡らせた。


「お、お姉様が魔王陛下でしたの!?」

 ジェスカちゃんの言葉に、古式床しく、皆ずっこける。

 古典的かつ古めかしいにも関わらず息の合ったコケっぷり。

 なんでそうなるのよ!


「皆さん、どうしたんですか? そんな転んじゃって」


 ひぇぇー、ジェネレーションギャップだわ。

 この古典的リアクションが通じないだなんて。


 ぽかーんとしたジェスカちゃんが首を傾げる。


 大体、いくらなんでも私が魔王なんてありえないはずだ。

 この衣装。金の装飾にへそ出しスタイルの半そでトップス、薄い布でできたロングスカート。どう見ても踊り子じゃない。

 私よりももっと魔王らしい格好の奴がいるのに、何で私が。

 私は口をパクつかせた。

 そりゃあ、もう窒息寸前の金魚のように。


 私とジェスカちゃん以外は爆笑していた。

 こともあろうに表情の乏しい魔王陛下まで静かに笑い出す始末。

 お上品に笑う魔王に鋭い睨みを向けるが、魔王は私を見て優しい笑みを返した。


 腹が立つ。

 笑ってないで誰か説明してやってよ!


「魔王陛下はそちらの黒髪の方ですよ」

 抱腹絶倒、床を叩いてまで笑っていた天使様がやっとのことで口を開いた。

 やっぱりこの人は天使。

 救世主だ。

 腹黒眼鏡と一緒にしてごめんなさい。


 その腹黒眼鏡は今だ笑い転げたままだ。

 いい加減に笑うのを止めろ、と私はそろそろ殴ってやろうと思ったところだった。


 魔王は眼鏡の肩を叩き首を振った。

 すると途端に眼鏡は咳払いをして笑うのを止めた。


 流石は魔王。

 威厳があるわ。

 私は魔王を少し見直した。


「こちらのお方が魔王陛下だったんですか!?」

 ジェスカちゃんは改めて驚く。


 当たり前だ。

 私が魔王でたまるか。


 否、待てよ。

 ここで魔王が頷いたとしても状況的には変わらない。

 魔王と眼鏡と私が魔族なのも、ジェスカちゃんが勇者なのも変わらないのだから。


「ああ」

 魔王は頷いた。


 嗚呼、やっちゃった。

 頷いちゃった。

 天下の魔王サマは忘れていらっしゃる。

 ジェスカちゃんは勇者なんです。


 眼鏡が魔王のこと魔王魔王連呼してたのに反応なかったし、敵意ないんだろうなと思ってた。

 なのに知らぬ存ぜぬ。と言うことは、ジェスカちゃんは魔族反対派かもしれない。


 ホラ、ジェスカちゃん震えてますって。

 もしや怒ってるのかしら?

 魔王サマを倒すのが勇者サマの役目なのよ。

 とばっちりは嫌。

 絶対、嫌。

 魔王サマを倒すんなら力を貸しますけど、とばっちりは嫌。

 しつこいと言われようが絶対的に嫌!


 そう言えば、ジェスカちゃんは勇者を憧憬していたとか言っていたような。

 これは魔族反対派の予感……


 私たちはジェスカちゃんの反応を見守った。


「かっこいい! サイン下さい!」

 ジェスカちゃんが叫ぶ。


 はい。皆さん一斉に再度ずっこけ。

 もしかして杞憂に終わりました?

 嗚呼、よかった。

 ジェスカちゃんが天然で。


「サインは後でお願いしますね。とりあえず、扉の前では何ですから中へどうぞー」

 眼鏡がジェスカちゃんを端に寄せながら、天使様に中に入るよう促す。

 ナイスフォローだ。

 眼鏡の癖にこのときばかりは拍手をしてやりたいと思った。

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