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はすっぱ八面六臂  作者: 望月笑子
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蓮っ葉1

ヘッドフォンから流れる有線を聴きながら、充電器をコンセントに差し込んだままのガラケーを右手に、手塚治虫の【火の鳥】の漫画を左手に持つ。 ガムを噛みながら、マッサージチェアの背もたれに体をあずけ揉ませながらテレビ番組を流し見る。 パソコンが置かれた出し入れ体を可能なスライド式のテーブルの上には、数枚の原稿用紙が置きっぱなしだ。原稿用紙にはこんなことが書かれている。〜〜〜ウチの職場には、歯の無い男が多い。何本か明らかに欠けていたり、ひどく黄ばんでいたり、前歯が二本だけだったり、歯が一本もなかったり…ちなみに<夢占い>ができる診断本がある。「歯が抜ける夢」と診断すると、それがたとえどんな抜け方であっても、−−−−喪失、浪費、貧窮、老化、欲求不満、破壊、破滅を意味すると書かれている。動物にとって歯というものは、攻撃力や生命力の象徴である。だから、歯が抜けるということは、それらを奪われるということを意味するのだ。にもかかわらず、なぜ治療しに行かないのだろう…歯が無くても死にはしないと思っているとか…歯医者に行く暇が無いとか…治療を受ける金が無いとか…余計なお世話かも知れないが、このままの方が良いと思っている人はいないのではないだろうか…冴子は時々涙を流した…漫画本に感動するのだ。そのたびにチーンという高い音を出して、置かれてあるボックスのティッシュで鼻をかむ。割りと小さめのゴミ箱には既に鼻紙でいっぱいになっていた。

そこに、ガラケーへ着信が鳴った。

「天野だけど、嫁に来ないかぁ〜〜」

あい変わらず、間の抜けたしゃべり方だ。

通称あまのっち。親子ほど年が離れた友人だ。あまのっちは、会社の先輩で、会社側から早期退職を迫られ、退職金2000万円に、200万円を上乗せした条件で退職した。現在は、わずかな年金を受給しながら、近所の小学校で用務員のアルバイトをしている。未だ、独身だ。

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