6.楽天主義、懐疑主義
それから数日が立つ。途中ゴブ助がものすごく体調悪そうに帰ってきてその時に状態に毒(中)になっていたり、別の日に蜂のような虫《種族 ガピート》に追いかけられながらあわてて逃げ込んで来たりと多少のハプニングはあったがそれ以外は至って平穏な日々だった。
私の台のすぐ横に食器棚や水瓶を設置したり部屋中央の窪みに机を置き掘りごたつのようにしたりと内装も少し充実してきた。
太陽が7回ほど昇り降りしたころだろうか。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
名前 Noname
耐久度 704/1000
清潔度 73%
環境 普通
GP 447
特殊機能 限定障壁:
《種族 ラフラト》
《種族 ガピート》
△ △ △ △ △
ここに新たな来客が訪れたのだ。
その日は生まれ変わってから初めての雨の日だった。
雨にもかかわらずゴブ助はいつものようにお仕事に出かけようとしたので扉を開かないように思いを込めるとゴブ助がいくら扉を開こうとしても動かないようにできた。
「グギャ・・・」
ゴブ助が出るのをあきらめてのんびり過ごしだす。
中央の掘りごたつで私の出したビスケットを食べているゴブ助を眺めている時、
「おい、小屋があるぜ」
「こんなところに建物なんて不自然ですね」
「木こり小屋とかじゃねえの?」
「近くに村ひとつない上に低レベルとはいえ魔物が徘徊するこの森にですか?怪しすぎます」
「まあ、細かいことはいいじゃねぇか。ともかく雨宿りできるに越したことはねぇ。早く入ろうぜ」
「ちょ、ちょっと!無警戒すぎますよ!」
外から人の声が聞こえてくる。ゴブ助はなぜかうわの空で気が付いていないようだ。そして扉が開かれる。
「ガチャ」
「・・・・・・・ゴブリン?」
ビスケットを頬張るゴブ助と2メートルは超えるであろう身長と無精髭に傷だらけという脱獄した凶悪犯にしか見えない男の目が合った。
(ゴ、ゴブ助!逃げて!殺される!)
状況を認識して慌てたゴブ助は立ち上がろうとして、しかし、足を滑らせ掘りごたつの中に落ち込み机に頭をぶつけた。
「グギャ・・・」
(あぅ・・痛そう・・・)
私はいつもの《癒しの力》を使う。
「回復魔法!?ゴブリンメイジですか!」
大男の後ろから驚く声が聞こえる。しかし大男はその声に警戒することなく部屋に踏み込もうとする。が、
「あたっ!」
入り口の見えない壁に阻まれて尻もちをつく。その際に腰につけてあった長剣を落とした。
「障壁魔法まで!」
大男が尻もちをついたことで後ろにいたもう一人の姿が見えた。こちらは金の長髪で線の細い整った顔立ちの美男子だ。
「いや、ちげーだろ。どう見てもただの普通のゴブリンだし」
大男は立ち上がり見えない壁を確認しようとしたが、
「あれ?」
□ □ □ □ □
入場者 2
名前 ゴブ助
種族 ゴブリン
名前 ガーランティス
種族 ヒューマン
□ □ □ □ □
「入れちまったぞ?」
そのまま普通に見えない壁の抵抗などもなく踏み込んできた。
(どうなっているんだろう?・・・・と、そんなことより入られちゃった!ゴブ助大丈夫かな?!)
「おっと、落としたか」
『<ガーランティス(ヒューマン)>が退場しました。10GP喪失』
落とした剣を拾いに一度部屋を出た。そして再び入ろうとすると、
「あれ?」
また見えない壁に阻まれる大男は一頻り見えない壁を触った後、
「ふむ、なるほど。たぶんこれは」
強面髭男ガーランティスは家の壁に剣を立てかけて、そして再び
「お、正解みたいだ」
中に入ってきた。
「武器を持ってたら発動する結界か」
「限定結界?!やはりそのゴブリンは危険です!すぐに殺しましょう!」
(綺麗な顔をしてなんて物騒なことを言うの?!)
「落ち着けって。たとえメイジでもたかがゴブリンが結界、しかも王国近衛騎士でも不可能な性能付きなんてできるわけない。この結界はゴブリンの仕業じゃねぇって」
(凶悪な顔をして意外と冷静)
悪人面ガーランティスは掘りごたつから這い上がってきたゴブ助と対面の位置に座る。
(そして、温厚で平和的)
「とりあえず雨宿りさせてくれ。そっちが危害をくわえなかったらこっちからも特に何もする気はねぇ」
ゴブ助はしばらく見た後立ち上がり、食器棚へ向かい木のコップをとり水瓶から水を汲みガーランティスに差し出した。
「おお!まるでテイマーの魔物みてぇーに賢いしおとなしい。よし、ありがたくいただこう」
「ちょっと!毒が入っているかもしれません!危険ですよ!」
相方の注意に構わず水を飲みほした。
「ふぅ、うめぇー。お前も杖置いて入ってきたらどうだ?」
「嫌ですよ!こんな得体も知れないところに武器を置いて入るなんて怖すぎる!」
かたくなに警戒を解かない美男子。
ゴブ助は自分が食べていたビスケットの入っている小皿をガーランティスに差し出した。
「お、これもくれるのか?」
ビスケットを1枚とって口に入れる。すると目をカッと見開き、
「うお!すげぇおいしい!なんだこれ?!」
御口に召したようで幸いです。
「もう、行きましょうよ!こんな不気味なところに居たくありません!」
「あ~、うるさいな、分かったよ。雨もまだ止んでないってのに・・・」
ガーランティスは愚痴りながら席を立ち、ビスケットを2枚取り、代わりに銅貨を1枚置いて部屋から出て行った。
『<ガーランティス(ヒューマン)>が退場しました。115GP獲得』
「それじゃあな。またくるよ」
「もう来ませんよ!」
「うるせぇなぁ。カリカリしてねぇでこれでも食えよ。ほんとにうめぇから」
「いりませんよ!」
そして、2人の声は雨の中へと消えていった。
「グギャ」
2人の気配が完全に消えたあたりでゴブ助がホッと警戒を解いた声を上げた。そして胴貨を私のところに持ってきて台の上に置く。
『《供物》を確認。GP変換処理をします』
『<胴貨> 4GP』
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名前 Noname
耐久度 702/1000
清潔度 72%
環境 普通
GP 549
特殊機能 限定障壁:
《種族 ラフラト》
《種族 ガピート》
△ △ △ △ △
そしてこの日から人間との関係が日常に加わる。