遺された星
第102回フリーワンライ
お題:
太陽に憧れる星
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
天の川銀河の辺縁にその暗い惑星はあった。それは太陽系に類似した惑星系の最も内側に位置する天体だった。
太陽に酷似した恒星の間近にありながら、決して光を反射しない漆黒の星。
太陽型恒星と漆黒惑星が互いに互いを振り回す連星を中心にして、その惑星系は存在した。
漆黒惑星の地表は精製された鉱物で構成されていた。惑星系内のどの星とも異なり、この星は人工物だった。
すべてが自動化され、人工知能に一元管理されるプラント惑星。生命の熱を一切感じさせない冷たい器物の塊だ。
気の遠くなるほどの時を経て――自らの創造主たる種族すらも域内から絶え――それでも人工知能は惑星を、プラントを維持し続けた。
ここ数百年ほどの直近で、人工知能はある一つの結論に達した。
自分は遠からず機能不全を起こし、惑星が崩壊するだろうということを。
勿論、人工知能にも惑星にも自己保守機能が備わっていた。あたかも有機生命体が代謝を行うように、絶えずモジュールの修復ないし交換はされてきた。
理論上、漆黒惑星は恒星のエネルギーを受けることで、半永久的に稼働出来るはずだった。人工知能もそれに合わせてほぼ無限に維持出来るはずだった。
だが、無限とほぼ無限は違う。無限とほぼ無限の間にはそれこそ無限大の開きがある。
「ほぼ無限」のその限界点が近付きつつあった。
漆黒惑星の人工知能は思う。
自分を生み出した種族はもういない。
あらゆる生命がこの惑星系には存在しない。
力強く輝くのは太陽だけだ。
自分の最期が近いのならば、せめてあの太陽のように輝きたい。
宇宙に溶け込む漆黒ではなく、光り輝く一点の星でありたい。
あるいはそうしたならば、この宇宙のどこかに散った人類の子らに自分の存在を知らせることが出来るかも知れないと……
そんな風に考えた。
何か方法は?
なんとか出来ないか?
ほとんどすり切れた過去の蓄積データを掘り返す。
……ああ、そんな……これは……なんてことだ……
*
そしてとうとう、漆黒惑星と人工知能は最期の時を迎えた。
まず表層の構造物がたわみ、歪み、千切れ、ひび割れた。
人工知能は自身の身体に相当する惑星が崩壊していくのを感じた。断線し、制御下を離れるモジュール。それでも恒常性を保つため迂回路を構築しようとする保守システムを、人工知能は自ら遮断した。
崩壊を止める手立てはない。
それでも人工知能は満足していた。
意識と呼べるほど高度に昇華した人工知能が、細切れになって己の内側へと埋没していく。
漆黒の惑星が瓦解し、縮んでいく。
その下から。
表層の切れ目を破って、太陽にも匹敵するまばゆい光が漏れ出した。太陽と同等のエネルギーを放射する輝く天体。
漆黒の惑星は、人工知能は、ただの星ではなかった。いや、正確には星ですらなかった。
その正体は外殻で一個の恒星を丸ごと覆い、それの発する光も熱もすべてエネルギーに変換する天体級の発電施設、ダイソン球だったのだ。
漆黒惑星は生まれた原点すら忘れるほど長く存在したが、最期には己が望んだ通りに太陽型恒星となって果てた。
『遺された星』了
銀河の辺縁大好きすぎるだろう俺。宇宙が舞台だとだいたいそうしてる気がする。「遠い昔、遥か銀河系の彼方で…(Long time ago, in a galaxy. far, far away...)」みたいなもんですな。はっきりした検証もないんでぼかしたいだけですが。
ダイソン球は実にSFマインド溢れる構造物なんで、これも大好物。恒星一個使って発電所にしようなんて、強欲な人類らしくて非常に良い。
ただ、どうにもお題を意識しすぎて(珍しくドストレート。これはこれで捻くれてるが)いまいちダイソン球を生かし切れてない感があるのは残念。
書くに当たって、恒星の連星「ケプラー16b」を参考にした。