第4話:かぐや姫
「ごちそうさま」
「雄太郎……?もういいの?あなた全然たべて…」
「いいんだ。部屋行ってる」
公園で、希衣は消えた。
その後、どこを探してもいくら待っても希衣を見つけることはできなかった。
家に戻っている可能性を信じ、戻ったが部屋には誰もいなかった。
夕飯は雄太郎の好物だったが、食べる気にはならなかった。
雄太郎は部屋の扉を閉めると、力なくいつもの出窓へと座り込む。
昨日までいた希衣がいない。
たった三日間いただけで、彼女の存在はもう当たり前のものになっていた。
「…………希衣」
その声に、答えるものはいない。
出窓から見上げた月はいつもと同じように煌々と雄太郎を照らしていた。
「ゆーたろ、私ね、かぐや姫になりたいの」
それは昨夜、希衣が言った言葉。
なんとなく聞き流した言葉が、脳内でループする。
「だってね。キレイで、たくさんの男の人にプロポーズされて、それを断れるほど運命の人のことを信じていて。そして本当に運命の人を見つけて結婚するの、素敵じゃない?」
「でもたしか、最後には月に帰っちゃうんじゃなかったか?」
「うん。悲しいよね。私と一緒」
「まず希衣は姫ってガラじゃないよな」
「ねにそれ!姫だもん!ゆーたろは王子様ね!」
希衣が何気なく言った言葉。
――――― 私と一緒。
その言葉だけが、引っかかっていた。
「……まさか」
雄太郎が腰を上げたとき、薄く開かれた窓から冷たい風が舞い込み、その頬を撫ぜる。
それは冬の匂いを孕んだ冷たい風。思わず目を閉じる。
雄太郎が目を開けると、ベットの上に、なにか置かれているのが目に入った。
希衣が着ていた自分のパーカーとジーンズ。そして、青い封筒。
「……………………………」
雄太郎は、封筒を手に取り、開いた。
■ ■ ■
深夜、人のいない街の中を駆ける。
昼間と違う顔を見せる街は、どこか神秘的で美しかった。走る体へと当たる風は身を裂くように冷たい、それでもその足は止まらない。
「……ハァッ……ハァッ…………」
公園、弁当屋、動物園。
雄太郎の手には青い封筒が握られていた。徐々にその足は重さを帯び、息は苦しくなる。
それでも雄太郎は止まらなかった。
街を見渡せる小高い丘の上、展望台のようになった場所に、希衣はいた。
その場所は希衣と雄太郎が幼い頃初めて出会った場所。
「えへ……見つかっちゃった……」
振り向いた希衣はいつもの笑顔で、泣いていた。