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冬の桜  作者: 小月 恵
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第3話:線香花火 - 1


「雄太郎、希衣ちゃんのお葬式、急だけど明日になったわ」


朝食をとっていると、母が唐突に口を開いた。


「は?」


戸惑う雄太郎をよそに母は食器を片付け、部屋を出ていこうとする。


「スーツ、昔使ってたのがまだクローゼットにあるはずだから、出しておきなさいね」

「あぁ…わかった」


母はそれだけ言うと、父と雄太郎を残し、部屋を出ていった。




「なんだ雄太郎、おにぎり作ってるのか?」

「うん。部屋で食べようと思って」

「そうか、父さん仕事行ってくる。あんまり気に病むなよ」



父も、雄太郎を少し不思議な目で見ると仕事へ向かった。



「ほら、朝ごはん。おにぎりだけだけど大丈夫か?」


雄太郎が部屋へ戻ったとき、希衣はベッドに腰掛けまだ目をこすっていた。

その目はまだ眠そうにとろけている。


「ありがと、ゆーたろ。あのね、今日夢で、白い………」

「温かいうちに食べちゃえよ、味は…保証できないけど」


希衣は頷いて、雄太郎が作ったおにぎりへ手を伸ばす。


「ゆーたろ、おにぎりつくるの下手っぴだね」

「うるさい、早く食べろよ」

「はーい……ふふっ…」


希衣は不格好なおにぎりを口へ運んだ。その顔には笑顔が浮かんでいた。


「お茶、お茶飲むだろ?持ってくるから待ってろ」


雄太郎は照れながら部屋を出た。居間にある冷蔵庫から茶を取り出す。

ペットボトルを持った雄太郎が振り返ると、そこには母親がいた。


「ったく…世話の焼ける……」


母を見た瞬間。雄太郎の動きが止まった。

居間の入口に立った母親は、いままで見たことのないよな目で、息子を見つめていた。それは心配そうで、どこか不安そうで。


「雄太郎、最近どうしたの?近所中に希衣ちゃんのこと聞いて回ったり、夜中に家を出て行ったり……

希衣ちゃんのこと、辛いのはわかるけど、それでも生きてる私たちが前に進まなきゃいけないのよ。なにか悩んでいるなら母さんが聞くから……」


「うるさい!!」



雄太郎は叫んでいた。


「そんなこと、わかってるよ!俺は別に悩んでなんかない」

「死んじゃった希衣ちゃんだって雄太郎が落ち込んでいることなんて望んでないわよ。きっと……」

「母さんに希衣の何がわかるんだ………希衣は望んでない?俺が落ち込んでる?母さんは何一つわかってなんてない。

………ごめん、いまはもう話したくない。夕飯はいらない、どこかで食べてくる」


「雄太郎………」


部屋へ戻る雄太郎に、母はそれ以上何も言わなかった。

希衣は部屋へ戻った雄太郎を不安そうな目で見つめる。


「ゆーたろ?なにかあったの?声が聞こえたけど……」

「なんでもない。ほら、お茶」


希衣は訝しげな顔をしながらも、それ以上は追求してこなかった。




「ねぇゆーたろ………」

「明日、希衣の葬式だって」


雄太郎はそう切り出した。

希衣の目が、まんまるく見開かれる。手に持っていたおにぎりを危うく落としそうになる。


「ふぇっ!?わらひのおほーひひ?!?」

「ちゃんと食べてから話せよ」

「わはっはー」


希衣は手に持っていたおにぎりを口へと押し込んだ。

「もぐもぐ……もぐもぐ……ごっくん……」


「私のお葬式、やっぱり不思議……私死んでるんだもんね」


お茶を飲みながら希衣はのんきに口を開いた。


「うん。明日らしいけど、希衣も来るか?」

「えっ………?」


希衣の顔を見た瞬間、雄太郎はしまったというように口を覆う。


「ごめん。自分の葬式なんて嫌に決まってるよな……」

「ほぇ?なんで?」


頭を下げて謝る雄太郎に希衣はあわてて両手を振った。


「なんで謝るのっ!?ぜんぜん大丈夫だよ!それに……私行きたい!」

「は?希衣わかってるのか?自分の葬式だぞ?」

「うん!だって自分のお葬式なんて一生に一度だよ?行ってみたい!!」



「あ、でも死んじゃってるから一生、じゃないか!」

そう言って笑う希衣に、雄太郎は頭を抱えた。



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