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悲しい王子さま

作者: 石子

 裕福なその国に生まれたその王子さまは、望むものは何でも手に入りました。それに、皆が王子さまの言うことを何でも聞いてくれます。




 ある時、王子さまは城の庭に迷いこんだ美しいキツネを見つけ、城の中で飼いたいと言い出しました。

 命令を聞いてくれる家来はたくさんいます。

 さっそくキツネを捕まえるため、総出で庭を追いかけます。

 しかし、賢いそのキツネは素早く逃げてしまい、なかなか捕まりません。

 そうこうしているうちに庭から外に出てしまいそうになりました。森に帰ってしまえば、もう追いかけることは難しいでしょう。

 しびれを切らした王子さまは、そのキツネを殺してしまうよう命じました。

 キツネを殺してしまうのはあっという間でした。

 残ったのは美しい毛並みの毛皮だけです。




 ある時、王子さまは式典でつけるためのブローチを仕立てにきた職人の娘に恋をしました。

 娘は、それは豪華なブローチを作り上げることで有名で、器量も良く働き者です。

 さっそく家来は、娘に王子さまのもとに嫁に来るように伝えに行きました。

 しかし娘には婚約者がおり、なかなか良い返事をもらえせんでした。ブローチが出来上がるまではと返事を待ちましたが、それでも娘は王子さまのもとには来ようとしません。

 しびれを切らした王子さまは、その娘を殺してしまうよう命じました。

 娘を殺してしまうのは簡単でした。

 残ったのは豪華なブローチだけです。




 ある時、王子さまは城で開かれた剣の試合に出ました。

 順調に勝ち進みましたが、いつも王子さまに剣技を教えてくれる剣術の先生に負けてしまいました。

 先生は愛用している重厚な剣をたくみに振り回して、城の誰よりも強かったのです。

 その後、がんばってその先生の元でさらに練習に励みましたが一向に勝てません。

 しびれを切らした王子さまは、先生を殺してしまうよう命じました。

 先生を殺してしまうのはそう難しくはありませんでした。王子さまの命令を聞いてくれる家来はたくさんいるからです。

 残ったのは重厚な剣だけです。




 ある時、王子さまは自分は成長したのでそろそろ王位を継ぎたいと王様に申し出ました。

 王様は亡きお妃の分も王子さまのことを可愛がって何でも言うことを聞いてくれるので、きっとすぐに願いを聞いてくれるだろうと思われました。

 しかしいつまで経っても王位を代わってくれる気配がありません。

 王様は王子さまのことを思いやって、まだ早いと判断したのでした。

 それでもしびれを切らした王子さまは、王様を殺してしまうよう命じました。

 王様を殺してしまうのは大変でしたが、家来達は時間をかけてやり遂げました。

 残ったのは立派な王冠だけです。




 王子さまは王さまになりました。

 しかし、自分の心が何も満たされていないことに気付きました。

 友だちになりたかっただけなのに、大切に愛したかっただけなのに、強くなりたかっただけなのに、認めてもらいたかっただけなのに。

 いままでたくさん何かを間違えてしまったんだな、と王さまはわかりました。

 誰かに自分は何を間違えてしまったのか聞きたいと考えました。

 でも、命令を聞いてくれる家来はたくさんいましたが、その答えを教えてくれる人はもう誰もいませんでした。

 美しい毛並みの襟巻きを巻き、豪華なブローチをつけ、重厚な剣を持ち、立派な王冠をかぶった王さまは悲しくなって涙を流しました。



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― 新着の感想 ―
[一言] お久しぶりです。 「親孝行したいときに親はなし」といったところでしょうか。 人生って難しいですね。 恵まれた環境に居るものは自分がどれだけ恵まれているのかに気が付かないことが多分にあると思…
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