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異世界広告論  作者: はるかぜ
第一部 お店を救え!
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002

「それでどうするの?ここまで言ったからには何も考えてませんじゃ済まないわよ。」


フェリスはそんなことを言いながらお茶を出してくれた。


「考えてない。」


「頭を出しなさい。余分な毛があるようだから切ってあげるわ。」


「ま、まて!今はまだ考える段階じゃないんだ。もう少しわかっていなければいけない事がある。」


「わかってなければいけないこと?」


「うん。そう。そのために俺たちの《武器》を確認したい。」


「武器?私は…この即死毒が塗ってあるいばらのムチだけど…」


「フェリスさん!物騒すぎます!なにそれ?!そんなもん捨てなさい!


そうじゃなくて……俺たちの武器。

つまり、フェリスの作る服だよ。


今置いてあるのはどんな服があるの?」


ああ。ちょっと待ってて。といって店内に戻って行くフェリス。


フェリスが服を持ってくる間に《フェリス服飾店》の全体の整理をしておくことにする。


《フェリス服飾店》は先々代、つまりフェリスの祖父の代から続く20坪程の土地に店内と自宅をちょうど半々くらいになるように立てられたら店舗型家屋である。


外観は木造の長方形をした家屋で、中心にあるドアの真上に服のマークの看板が下がっている。


店内は明かり取りの窓と、四方にランプが吊してある程度で少し暗い。


広場に面して建てられているが、両隣と店の作りが同じ為、わかりにくい。


これは先々代のときに王都発展の政策として王国の支援で建てられた経緯があるらしい。


と、フェリスが戻ってきたようだ。


「お待たせ。今の商品はこの辺ね。」


ふむ。やはり質は高い。値段も安くは無いが質の割には大分安い。


フェリスが女性だからか、全体的に女物が多いみたいだ。


「なるほど。わかった。やはり質はいいね。値段も手頃だ。」


「本当?嬉しいわ。」


といって嬉しそうに笑うフェリス。


「さて。商品が出揃ったところで聞きたいことがある。」


「なにかしら?」


「この店のコンセプトだ。フェリスは何を思って服を作ってるんだ?」


「それは…着てくれる人がいるならその人のために素敵な服をって。」


「うむ。わかった。聞き方を変えよう。どんな服を作るのが得意だ?」


「私は…女の子だから…女性の服を作っている時が一番楽しい。」


「ふむふむ。では、これとこれ、後…これはポイっと。」


幾つかの服をピックアップし、放り投げる。


「ちょ!何するのよ!」


「今投げたのは売りません。

ここはアーカスのお店とは違う。


小型店だ。


全年齢対象とするのはいい心がけだけど、今は得策じゃない。


相手の土俵に乗っても勝てない。

こちらはこちらで、相手は相手だ。


そこでまず俺たち《フェリス服飾店》は専門店を目指す。


フェリスの得意な女性向け。

それもF1層、つまり流行に敏感な20ー30代の女性の服をメインに女性らしさを押し出したお店にしていく。」


「女性向け……?」


「ああ。想像するんだ。


街の淑女達が女性の服といえばフェリス服飾店だよね!と噂をする姿を。」


それを聞いてフェリスは二ヘラと何かを想像して笑う。


「これがコンセプト。


店の方向性だ。


誰でも入れるアーカスの店は確かに強いが、淑女達だけはフェリス服飾店の服を買って貰う。


ここは負けちゃいけないところだ。」


「方向性…方向性…なるほど。」


「というわけでこれからしばらくは女性物の服を作って欲しい。」


「わかったわ。種類は問わないのよね?」


「問う。」


「え?」


「今は暑くも無く寒くも無く過ごしやすい時期だから、毛皮とか暑苦しい服は売れない。


季節感を考えて作ってくれ。」


「わかった。」


「ああ、それと生涯で一番の自信作ってある?」


「ええっと…これ。でも気合い入れただけあって高いわよ。」


真っ黒のシルクのような光沢があり、波打つかのようなデザインのドレスに胸のあたりに大きな赤い宝石があしらわれている。


「ほう…これはすごいドレスだな…ふむ。これ、貰っていいか?」


「だ、ダメに決まってるでしょ!いくらすると思ってるのよ!」


「必要なことなんだ。頼む。」


「〜〜っ!わかった!わかりました!必要だ!とか卑怯よ。何も言えないじゃない。」


「すまんな。元は取るから。それとこれと同じデザインで素材を安価な物に変えてイミテーションの宝石を使ったドレスを作ってくれ。」


「いいけど…なんで?」


「その時になればわかる。後はそうだな。少しずつ調整しながら品を決めて行こう。デザインはここにある服の多くが持つ様に、優雅で洗練された服。


コンセプトはちょっと背伸びした女性。

デート、あー。逢引の勝負服。ってとこかな。」


「あ、逢引の!?」


あうあう。と真っ赤になっているフェリス。

この程度で赤くなってどうする。


「そう。

恋する乙女は無敵だからな。


コミュニケーションキーワードは「恋するあなたを支えます。」


この言葉をイメージに服のデザイン、店内の内装、外装を変えていく。」


「F1層とか言ってた時よりイメージはしやすくなったわね。」


いつ、どこで、だれに、なにを、どうやって。


ターゲット選定と手法はこの様に決めていく。


色んな物に手を出すと、得てして方向性を見失いがちである。


フェリスの場合はまさにこの典型で、達也は方向性をつけることで余分な物を削ぎ落としたのだ。


兎にも角にもこれでコンセプトは決まった。


恋する乙女にちょっと背伸びした優雅で繊細な春秋物を売る。


「フェリスの作る女性向けの服。

これがこの店の新しい武器になる。


これで敵を知り、自分を知っただろう?

次は何を知ればいいかわかるな?」


「買ってくれる人。お客様のことね?」


ライバル店と自分の店を知っても売れるわけではない。


実際に手にとって着る客達のことを知らなければ、ただの押し付けだ。


「そうだ。この国に住む人のことを教えてくれるか?」


「前にも話したけど、この国は人族、獣人族が大半で、少ないながらもエルフ族や、魔族が住んでいるわ。」


「生活水準はどのくらいだろうか?」


「比較的生活水準は高いんじゃないかしら?


裕福ってわけじゃないけど、苦しいわけではないわ。」


なるほど。生活水準は日本と同じような状態のようだ。


「各種族の特徴ってあるかな?」


「そうね。人族は人口は一番多くて、華美な物を好むかな?新しい物を取り入れたりするのは人族ね。


獣人は、流行とかそういうものには疎いかも知れないわ。伝統を重んじる傾向が強いと思う。


エルフは排他主義的なところがあって、プライドが高いわ。ただ、物の価値は正確にわかるんだと思う。いい物しか持ってないし。


魔族は…ちょっとわからないわ。」


「わかった。十分だよ。ありがとう。

これでようやく現状の整理がついた。」


ここまでを整理するとこうだ。


量より質の小型店のフェリス服飾店は地元民が主な客層で、大型店の出店により客足が減ってきている。


フェリス服飾店は小型店のため、多様性で劣っている。

これは逆転のしようがない。


そのため、この度、女性専門店として再出発を図ることにした。


しかし、この街には複数の種族が住んでいるため、専門店といえど、さらに特殊性を盛り込まなければならない。


ここまで来れば後は、施策を打って行けば良い。


時間を忘れ、考えていたためか、辺りはすっかり暗くなっていた。


整理は出来たし、今日はここまでにして、明日までにどうするか考えることにした二人だった。

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