歌うように星を駆ける船の話
歌うたいは出てきますが某マ◯ロスではありません。
星の歌姫号はある星系に到着した。人類が二世紀前に移民をした惑星が公転している太陽系だった。
第五惑星ドロレス。二億三千万人の移民の子孫が住んでいる農業が主な産業の惑星だった。
星の歌姫号の乗員はたった一人。船長であるマチルダ・イスカルデのみ。地球標準生体年齢で二十歳。彼女は星の歌い人として知られる歌手だった。だが彼女の歌はただの人に聞かせる娯楽としてのものではなかった。それは星を震わせる歌であった。
彼女は別の名で豊穣の女神と呼ばれている。彼女の歌は星に豊かな恵みをもたらすのだ。
船が静止衛星軌道上に乗った。ここで彼女は歌い始める。
重力振動波発生振動板=スピーカーが船の中から姿を表した。彼女の歌はこの振動板を介して真空の宇宙を伝わって星に届く。
船の内部にあるステージルームに彼女は移動していた。そこはレコーディングスタジオと同じく防音壁に覆われ三メートル四方の部屋の中には中央にマイクがあるだけであった。彼女は伴奏なしに歌うのでヘッドホンもスピーカも部屋の中にはない。ただタイミングを合わせる為のディスプレイがあるだけだった。コンピューターがカウントダウンして歌うタイミングを合わせるのだ。
マイクの前にたった彼女にディスプレーの一分前の表示が見えた。
呼吸を整えて頭の中でリズムを取る。
この惑星の好みは軽快なアップテンポのポップス系。
歌は惑星に来る前に考える。曲調はほぼ同じだがワンパターンにならないようにアレンジしている。
三十秒前。
「この星に豊かな恵みの黄金で埋め尽くされるように歌いましょう。そしてこの星に住む人々がその収穫で幸せになりますように」
彼女の気持ちが歌への思いへと変換されてゆく。
十秒前。
地上の人々も固唾を飲んでその時を待っていた。歌が星を覆うので人間にも聞こえるのだ。ただそれは歌には聞こえない。だが心を震わせる振動となって体に感じられるのだった。
五秒前。
「緊急事態発生」コンピュータが彼女に告げた。ディスプレイの画面が赤くなり黒い文字が危険性を語っていた。
「一体何事?歌を中止できない。星との同調周期を再度計らねばならなくなるわ」
「地上から対宇宙艦ミサイルが三つ上がってきます。目標はこの船です。命中まで一分弱」
そのミサイルは惑星国家政府に敵対するテロリストから撃たれたのだ。
星の歌い手は銀河連邦政府に所属する委託職員だった。惑星国家政府の依頼を受けて歌い手はやって来るのだ。その歌い手を狙うことで政府の信用を無くすことがテロリストの目的だった。
「迎撃します。機関砲準備」
「待って。その必要はないわ」
彼女は歌い始めた。
それは優しい緩やかな振動だった。母親が我が子に子守唄を歌うように慈愛の暖かさに満ちていた。
この歌はテラホーミング直後の落ち着かない惑星のために歌うまさに子守唄だった。
星は答えた。母の危機に立ち向かう子供のように。
ミサイルの誘導装置に強力な磁場が襲った。自然現象とは思えないEMPのような強力な波動が機器を破壊した。
ミサイルは船とは異なるポイントに向かって飛んでいった。
テロリストたちは奇跡のようなオカルトのような事態に茫然とするしかなかった。これは科学的ではない。だが星も生き物であるならば感情に答えてくれる。それが星の歌い手というものが存在する理由だった。
しばらく間を空け彼女は再び歌い出した。今度は予定通りの軽快なノリのポップス系。
星はどう感じてくれるのだろうか。その成果は秋の収穫期に出る。しかし豊作になるだろうと彼女は確信していた。
彼女は次の星に向けて船を発進させた。
ソルビアンカを見ていて思いついた即興ネタなので色々と突っ込みどころ満載です。気楽に流して読んでいただければ結構です。