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棄てられた楽園 駆竜人ピウィ  作者: 青河 康士郎 (Ohga Kohshiroh)
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降星大戦ーポエルの話13

ポエルの話を俯いて聞いていたルパールは、ここで呟くように話だした。


「だからこそ青巫女様は、深い愛の持ち主として人々に敬愛されているの。でもね、別の呼び名もあるわ、最も孤独なエルゴの妃。それについては彼女に恋焦がれた古の詩人が歌い上げている。彼女の瞳には人界はなく、ただパースルに散りばめられたエルゴの輝きのみが映る。その心に触れることのかなう者は、この世にあらず。とね。果てない戦争の中で血まみれになって戦う戦士たちへの青巫女様の深い愛は知れ渡っていた。でもそれは特定の存在に愛を向けることができないことの裏返し、だと言われている。もし、それが真実なら、なんと切ないことでしょうね。女として彼女の身の上を思わずにはいられない」


『だからこそ、永年に渡り彼女の人生を辿る事をやめられない』という言葉をルパールは飲み込んだ。


ひとしきり話すと、ルパールはポエルを見た。


「これは私が役目から離れ、これまで個人的に調べてきたことです。ここでそれを披露したいと存じます。話してもようございましょうか、ポエル様」


他者の視点からこのさきがどう見えているのか、興味を持ったポエルは静かに頷き先を促した。


ルパールはピウィ、バロワに向かって話し始めた。


「二人とも、この先の結末は知っているわね」


「光の槍」


ピウィ、バロワは息を揃えて答えた。バロワがピウィを肘で突いて『話せよ』とばかりに目で合図を送ってきた。


「降星大戦を終わらせた、パロミラル側の最大の、で最後の攻撃だったんでしょ。ミルマイシナの遺した移動通路を使ったんだったと思ったけど」


「そうそう、どうやってあれに入れたのか不思議でならねーんだけどよ、爺様たちの話じゃあ、そもそもあれに入って生きて出られたのも不思議だって事らしいぜ」


「えっ、ってことはこれまでにあれに入ったことがある人がいたってこと?」


「そういやぁそうだな。あの話ぶりだとそういうことになるかなぁ。でもよ、それより聞いてほしいのは」


「わかったわかった、またあの話だろ。横周りの運動をどうやって上向きに換えられたのかって」



「そうそう、あの不可侵通路は・・・」


「二人ともちょっといいかしら、このまま君たちの話を聞いていても面白そうね。でも随分と脇道に逸れてしまいそうだから、話を進めさせてもらうわ。多分バロワの疑問にも答えられそうだから」


ルパールは落ち着いた様子で龍芳茶を一口啜った。


「まず、その疑問に答えるためにはグワルパ七国の歴史を知らなくてはならない。正確にはグワルパの前、パナヤーナ人の国、ブナヤ王国の歴史ね」


それに対して二人の少年は、再び顔を見合わせた。二人は怪訝そうな表情で同時に


「パナヤーナ?」


薄暗がりの中に浮かぶ二人の素っ頓狂な表情。これには流石のルパールも


「くすっ、ふふふふ、あっはっはっは」


「なんですか、ルパール師。こっちは真剣ですよ」


とピウィ。


「そうだぞ、真剣だ」


とバロワ。


「ごめんごめん、でもね、全くあんたたちには心くすぐられるわね」


そういうとルパールは居住まいを正して座り直りした。


「知らないのは無理もないわ。随分古いことで、記録にもほとんど残っていない国だもの。この中央大陸南部で、その存在由来、目的が明確に知れ渡っていないものがいくつかある。それはまず精霊院、巻貝城、妖精島がある。でもその外見から一目で異質とわかるもの。それは巨大な7枚のセーム、定期的に回転する中核リローム区、国土ハフマ区からなるグワルパ。

あれは都市や国ではない。一つの機能を持った機構物なのよ」


二人の少年も驚いた顔をルパールは再び見ることとなった。ピウィが。


「じゃあ、あれは一つの機械みたいなものだってこと」


というと


「うぉー、あんなでっかいのに」


両腕を精一杯大きく広げながらバロワが言った。


「ただ、その目的はまだわかっていない。パナヤーナ人達は自らを”月の民”もしくは”神の臣民”を呼んでいる」


そういうと、ルパールは上着のポケットから岩の卓に何か小さなものを乗せた。それは畜光石のほのかな光の中で鉱石のような輝きもつ立方体だった。


「これは散逸図書を回収している過程で、偶然手に入れたもの。こいつが何を見せてくれるか、手に取ってみるといい」


ピウィに手渡されたそのキューブは、突然ピウィの手の中で輝きを増し、全身を光に包まれた。そしてそれはピウィに意志を植えつけた。言葉ではなく、それの欲するところをまるでピウィが自発的に生み出したがごとく要望を植えつけた。ピウィはそれが帰るべき場所を明確に把握していた。


 意識がこの場に戻ってると、ルパールとバロワに肩を揺さぶられているのに気づいた。


「…ウィ、ピウィ、おい、大丈夫か」


ブルっと体を震わせると、ピウィは両手で頬をピシャリと打った。


「こんな反応を示したのは初めてだわ。太古の遺物でもう活性化することなんてない、と思っていたのに生きていたなんて。ピウィ、これは何かを語ったの」


ピウィは宙に立体的な文様を5つ描きながら


「動作、正常。われ、意を発するところの核なり。なんじ、有資格と認め、収めるべきところへわれを収めるべし」


「あなた、上代神聖文字が読めるの!」


「読める、っていうか一瞬のうちに知識を植え付けられたようです」


「そうね、そうね、やはりね」


ルパールは興奮冷めやらぬ様子であった。



「もう、はっきりするわ。ここまできたら覚悟を決めなくちゃね。グワルパの真の姿を確かめるため、リローム区中枢の地下に潜ったことがあるの。そこで私は生涯の師となる、知の巨人と出会った。


その人の名はオウ・イン。


あなたとは既に出会ったと聞いているわ。この石は我が師から預かった物。その時がくれば、自ずと持つべき者の手に渡る、と言われてね」


「そして、そのオウ・インはあなたが胎児だった頃、あなたのマノンに封印を施した本人なの。その施術はあなたが生まれ落ちた現代のことと思っていたのだけれど、・・・」



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