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棄てられた楽園 駆竜人ピウィ  作者: 青河 康士郎 (Ohga Kohshiroh)
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降星大戦ーポエルの話10

 黒竜騎士長は椅子から立ち上がると、両腕を大きく開き、無手であることを示した。


「我が名はパウド・ラウェルーン」


長身のアードラ人の声は朗々と広間を満たした。


「白双牙城城主、黒竜騎士長を務める。ミース殿は戦士と伺った。戦士であれば敵方に虜となるのは誰にでも起こり得ること。我らは貴殿を戦士として扱う所存。酷い事はいたさぬゆえご安心願いたい」


その穏やかな物言い、所作、寛容さ。ピウィは期待通りの、いや、期待以上の人物であったことに言葉を失った。


「捕まった、自分のしくじり。でも、ありがとう」


このミースという蛇人は一体なんなのか。パウド様(ピウィはいつの間にかパウド様と心で呼んでいる事に驚いた)の心遣いに応じるように、まったく丁寧な態度で返した。言葉の言い回し、気持ちの持ちようなどこの世界の住人と全く変わらぬではないか。


今のやりとりを聞いた列席者が感じていたであろうことを、紅巫女様が代弁するかのように


「みなさま、お分かりの通り意思の疎通は可能であり、そしておそらく情緒的な部分に関しても共通するものが見受けられます。


ご存知の通り大方の敵兵は投降することがこれまでありません。ミース殿は投降されましたが、意図的なものが見られたとの報告を受けており、しかしながらこれまでの尋問にはその意図を答えておりません。最高会議であるならば答える、と申しておりますゆえこの場に引き連れました」


少し間を置き、皆の視線が集まるのを確認すると紅巫女様は


「現在パロミラル湖へ降下中の巨大物体、彼らの言語では虚無の船と表しますが、呼称はナルナビス。自由落下状態にはなく、制御された動きを見せています。


ナルナビスは全長20リガ(約42km)直径5リガ(10.5km)の杭型をしております。ミース殿の証言より、かつては星の核を成していた金属塊であるとのことです。この計り知れぬ質量を持った船は、正確にこの聖ロラ島を目指しております。このまま進路、および降下速度に変化がなければおよそ9年後、この巻貝城に間違いなく衝突するでしょう。」


これには各塔市の市長、環道街の街長らが反応した。理不尽さに憤怒の表情を表す者、金儲けの予感に人に見られまいと下を向いて笑う者、隣の席同士で慌ただしく意見を交わす者。流石に代表者たちだけあり、不安を表に表すものはなかった。商業塔である3番塔市の市長からは


「制御されているのなら、軌道変更及び速度変化もあり得るとは思われませんか」


と、事態をさも冷静に把握している態度をもった意見がでた。楽観的に考えたい者は賛同のざわめきをあげた。

紅巫女様に代わって伯王様が口を開いた。


「皆、紅巫女様の話に耳を傾けねば」


伯王様はやんわりと想いを述べただけであったのだが、これを耳にした者たちは水を打ったように静まり返り、伯王様へ一礼をした。

パウドは後を引き継ぐように


「今はまず現状を踏まえるとき。紅巫女様、先をお願いいたします」


紅巫女様は口を開いた。


「このことは、水結晶による観測を続けるうちに、精霊院で内々推測されていたことです。現在我が方と交戦中である多数の戦闘種族の魂魄は、ナルナビス外殻周辺にとどまり、天晶院の水結晶を持ってしても内殻まで探ること敵わず、これまで空白地帯となっていました。


しかし、タマラの森周辺に点在する精霊院水結晶の全てを巻貝城水結晶を基点に同調させることにより、内核の観測が辛うじて可能となりました。


これまでナルナビス内部の空白地帯とされていた区画には、私たちの称するところのセピズムのうち‘セピ’を欠いた‘ズム’つまり下降する陰の気の集合体がおよそ百数十億を確認しました。


渦巻く意識体が有していたのは、狂おしい痛み、苦しみ、飢えと乾き、そして狂気のような憎悪でした。その全ての意識がここ巻貝城を通り越して、この星の中核に向いています。


彼らの欲望を満たす癒しがこの星の内部に存在している、と結論付けるしかありませんでした」


列席者すべてが言葉を失い、紅巫女様の言葉に誰一人として口を差し挟む者は無かった。

皆の視線が己に集まるのを知ってか知らずか、紅巫女様は淡々と先を続けた。


「この狂気の奔流ともいうべき流気の中に一つ、微動もせぬ意識体が確認されています。これはミース殿の供述にもありましたナルナビスの統率者、不死者の王と呼ばれている‘ネウネロザ・ヌツ’と思われます。


ミース殿の供述通りであるとすれば、およそ十万年の永きに渡り星々を襲撃し喰らう、そう喰らうとあります。これを繰り返してきたようです。現段階で申し上げられることは以上です」


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