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棄てられた楽園 駆竜人ピウィ  作者: 青河 康士郎 (Ohga Kohshiroh)
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降星大戦ーポエルの話7

 流気の乱れの詳細を求めた者たちは青巫女様の姿を見て口を閉ざした。そして、過去幾代にもわたって先祖たちがそうしてきたように、今度は自分たちが大きな困難を乗り越える時がきたのだと深く理解した。青巫女様が現世に現れるとは、そういう意味を持つことなのだよ。その時のパルアナ様の言葉も残っている。


『わたくしという存在は、全てこの時のためにありました。私の全てをここに捧げます。皆様の真の力をわたくしにお預けくださりませ。共にこの困難を乗り越えましょう』


 何事にも屈しない、勇に満ち溢れたお言葉であったそうだ。この言葉に一同は奮い立った。未知のものに対する不安から、いつの間にかその場に紛れ込んでいた臆する心が吹き飛んだ、とある。


精霊院が探知したという流気の乱れ、その詳細を求めた参加者は口を閉ざした。この時のために青巫女がこの世に現れた、という事実だけで十分であった。


深々とお辞儀をすると、青巫女様は伴の者に付き添われ巫女の塔へと向かわれた。出室の扉と入室の扉が同時に開き、青巫女様と入れ替わるように白双牙城城主の到着が告げられた」


 ピウィ、バロワそしてたぶんどこかに潜んでいるであろうルパールの脳裏にはパウド・ラウェルーンの姿が浮かんだ。


アードラ族にしては長身であり、意志の強そうな口と顎、高い鼻筋と穏やかな眼差し。言い伝えではパウドに出会った者は皆、彼はアードラではあるまい、といったという。


長身といえどアードラには違いなく、人族より確実に小さかったであろうが、彼が身に備えた覇圧がそう見させるのであろう。ついた別名が‘大きなパウド’。


「これも予想がついているだろう。想像通りその大きなパウドが現れると朗々と響く声で参集者に遅参を詫びた。


 伯王様がおっしゃられた。


『大いなる困難を迎えようとしている。しかし、我々は祖先の霊に示さねばならぬ。勇気と諦めぬ強靭さ、苦労を分かつ優しさを。心の集結を。青巫女と同様、すでに我は覚悟を決めてある。各々も肝を据えよ』、と。


 竜騎士パウド・ラウェルーンが伯王様に了承を得、紅巫女様に発言の許可を求めた。


『皆に報告せねばならぬことがある。天巫女様、伯王様よりの要請により偵察に出していた黒竜騎士隊が先程帰還した。少数精鋭による編成とした黒竜騎士隊10竜機は、パロミラル湖上空、10マイス層(約12000メートル)にて未知の武装翼竜騎士の一団と遭遇。国際規定に則り、所属を明かすことを求める旗凧翼を上げる行動に移る間もなく、先制攻撃を受けた。我が方は交戦を避けるべく再三に渡り回避行動を行ったが、内1騎士が熱槍により負傷、2竜機の装甲に損傷を受けた。やむを得ず交戦状態となった』


 黒竜騎士からの攻撃が開始されると、先方は早々に退却を始めた。こちらの反撃力を確かめるようであった。敵竜機の数機に損害を与えるものの突如発生した雲にさえぎられ追撃不能とのなる。

 パウドの報告は以上となった。一同皆静まり返り、その黒竜騎士隊の行手を遮ったという暗雲がこの場に立ち込めたかのごとくであったそうだ。


 突然この会議に入室する者の名が告げられた。6番塔市市長ポーポス・イズミナクが随行員から資料を渡されながら席についた。性急に目を通すと発言を求めた。


そのポーポスの言葉が資料にある。そのまま読んでみよう。


『とりあえず現時点で判明した交戦から得られた追加情報です。交戦を終えた黒竜機から竜装の一部である装甲板及び竜騎士の装甲を譲り受け、敵の攻撃手段の解析に成功。暫定的ながら結果を報告します。


表面の一部が溶解しており、その特徴から、敵竜は特殊な高粘度の強酸弾を打ち出した模様。また、敵騎士はワールを熱変活(熱エネルギーへの変換)、及び運動変活(運動エネルギーへの変換)しそれを投槍に込め、使用。最後に、6番塔からの伝書通信。西角(磁北より西に測る角度)10度、仰角およそ89度、距離概算100リガ(210Km)にて降下中の不明物体を確認。大きさ、速度、降下地点は計算中。報告は以上となります』



 これが災厄の星、ナルナビスについての初めての情報であった」

  

 それに合わせるように、打晶琴が不吉な音色を奏でた。


「この頃から変異の報告の増加が顕著となった」とポエルは続けた。


 肉食浮魚の中でも虚空魚と呼ばれるマリーガやクーガは完璧な鏡面体を有し、周りの風景に見事なまでに溶け込む。それとわかるのは口を開いた時であり、それは同時に狙われた生命の終わりの時でもある。


しかし文明社会に属する者を襲うことはあまりなかった。この広大なタマラの森で仕事をする者の中には、単独で作業をおこなう者も多くその場合は何らかの原因で襲われるケースがあった。


しかし黒竜騎士たちの空中戦があって以来、昼間の街中に虚空魚が現れるようになり、その剃刀のような牙で身体を抉り取られる人々が急速に増え出した。各塔市、環道市は警戒を強め、市民に対し外出時は軽鎧、防護兜の着用が義務付けられた。


 それとほとんど時を同じくして、タマラの森低空を漂う濃密な雲が目撃された。


 そのポエルの言葉を聞いたバロワは、地下道大全の収まってた木箱の更に底からノートを取り出した。蓄光石の灯りを頼りにパラパラとページをめくる。目的のものを見つけたのか、その部分を開いて置き、描かれていた絵を黙って指差した。


ポエルは頷くと


「うむ、それだ。伝え聞いてはいたが、やはりガログは絵も達者であったな」


 木炭筆で見事に描かれた、しかし異様な雲であった。色までは再現されていないが、添え書きに色の名称が記してあった。白、淡いベージュ、レンガ色、ダークブラウン、その表面には煙が渦巻くような模様、そこから先端がゴツゴツとした膨らみのあるいくつもの触手が垂れ下がっている様子が力強いタッチで描かれていた。


「その触手は毒手と呼ばれていた。先端の膨らみが地表面に達すると先端の小さな膨らみを四方八方へ爆発的に伸ばした。その枝触手に触れた者は皆、発狂するほどの苦しみを、痛みではない、苦しみとしか表現できないものを受ける。


動物たちでさえ苦悶の表情を浮かべ、聞いたことのない絶叫を上げて死んでいった。注死雲、後になってそう呼ばれることになるそれは殺した対象を捕食したりはしなかった。殺すことのみを目的としているかのようであった、とある。


4番塔は医療の塔。そこへ担ぎ込まれた地精族の少女がいた。毒手に触れられる直前に地竜騎士に救われた。地竜の吐く火液は毒手を焼き払えることが、これで判明した最初の例だった。

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