表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
棄てられた楽園 駆竜人ピウィ  作者: 青河 康士郎 (Ohga Kohshiroh)
41/51

降星大戦ーポエルの話6

「これから話す私の言葉には、これまで各地で調べてきた資料、現地調査、伝承、伝来の日記とそして光影石による再現を見ての上での内容が含まれている。それらを統合して話そう。


 その上で、それぞれがなぜこの場にいるのかを考えてほしい」


光影石・・・その言葉にピウィとバロワは眼を見開いて互いの顔を見合わせていた。


いつだったか、バロワの家で光影石の話を聞いた。それは親指ほどの大きさの石。それを掘り当てた地精族は、それ一つで豪勢な屋敷を構えることができると言われている極めて希少価値の高い鉱石である。


サークレットの形をした光影冠輪に光影石を嵌め込みオーグを纏えば、五感が受け取る情報、つまり光景、音、匂い、触感、そしてあまり記録されることはないが味覚が記録される。


オーグは感覚が受ける刺激情報に反応するが、記録者の感覚と連動しているためある程度の感情まで記録してしまう。感情までが記録されてしまうと再生者に影響を与えてしまうので、正確な記録として残すため記録技師には感情の制御が求められる。


記憶にある情報も記録できるがその情報を再生する場合、映像の焦点が曖昧になりがちである。受け手である再現者へ明確に伝えるためには、記録する情報量を減らして鮮明度を上げることが必要である。


また記録者が特定の再現者を強く思い描きながら記録すれば、これを他者が再現するのは困難であるため重要度の高い通信手段として使われることがある。


上流階級では嘘偽りのない真実の恋文として、また加熱すれば情報は消え失せる故に機密情報の伝達手段として非常に珍重される。


 それほど高価な光影石の記録を見ることができたポエル父はいったいどのような人生を歩んできたのだろうか、とピウィは父を見る目を改めながら父の話に耳を傾けた。


「光影石に記録された当時の記録を後で見せよう。再生に先立って設定をして置こう。話しはそれからにしよう。少し時間を頂くよ」


ポエルはそう言いながら岩卓の上にピウィたちが見たこともないものを置いた。ピウィとバロワはパッと互いの喜びの顔を見合わせた。


「この再感機なら複数人で光影を体感できる」


ポエルは光影冠輪を二つ取り出し少年たちに装着させ、さらに取り出したもう一つを再感機に繋げるとそれを長く引き伸ばし、少年たちの後方の暗闇にポツリと浮かぶ岩の上に置いた。


「再感者がワールを流し込みつつ再現される情報を受け取るのだが、二人は慣れていまい。それゆえ私がワールを流す。再感されることに心を傾けなさい」


ポエルは再感機下部のタンクに燃料を注ぐとポンピングを始めた。充分に加圧すると今度はゼンマイを巻き始めた。随分と長い間ゼンマイを巻いていたが、やっと巻き終えると腰袋に手を差し入れた。何かを握り締めた手を袋から抜くと、それを岩卓に置く。綺麗な布に包まれたその紐を解くと、深い緑色をした石が数本現れた。


ピウィはそれを初めて見た。「それが」とバロワが「光影石だ」とピウィが言った。


円柱の上下に円錐が付いた形。上の円錐には向きを表す伯王の紋章。環道の円に塔市の6つの点、中心に巻貝。


「この再感機には随分と働いてもらっていたせいか、最近調子が落ち着かなくてな。時折、再感速度が不安定になるが許してもらいたい」


それがどういった現象なのか二人には皆目わからなかったが、素直に頷いた。パチン、という音とともに光影石の上軸をおさえる金具が開いた。石の下軸を受け台に乗せ再び上軸金具をカチリと閉じる。


ポエルは再感機をぐるりと見渡すと


「よし、準備は整ったな。ルパール殿、用意が良ければいつでも参加いただけるように致した。ご自分の判断で来てください」


ポエルは石の椅子に腰掛けると居ずまいを正し、ゆっくりと語り始めた。



 「やがてこの地に災厄が訪れる、天巫女様、伯王様に伝えた獣王様の言葉。


時をおかず巻貝城、千の柱の間にて極秘の会議が持たれた。まずその様子を話そう。


参集したのはパルミ・ロイリス伯王様、精霊院からは紅巫女様、この方は天巫女様の代理として各地へ赴かれる全権巫女だ。黄爪城城主フルペ・レヴィア、黒翼城城主は我が先祖であるプルガ・ラウル。会議当初、白双牙城城主パウド・ラウェルーンは未だ席を空けていた。


白双牙城城主は別室にて精霊院よりの使者との会合で遅参すると、紅巫女様は伝えられた。


地精族からはガログ・オグル。クウィーカ族の清竜騎士第一騎士キューカ・ピーク。各塔市市長、そして森官長。


まず伯王様がことのあらましを伝えられた。霊体として現れた獣王様との会見が伝えられると、その場の者は皆、驚きを隠せなかった。


会合を司ったのは、精霊院でも才女と噂の高い紅巫女様であった。


まず、各自が保有している異変またはその予兆と捉えるべき情報の有無が確認された。この問いに、列席者が果たして災厄と関連あるものか考慮をしている間に、まず紅巫女様が象徴的な異変として精霊院の捉えた事実を提示された。議事録にはこうある。


『まず天の気にこれまで見られた事のない気の乱れ、それに応じるようにタマラの気の動きに観測されたことのない挙動をセーネマール湖が捉えた』


精霊院の活用する受け水としてセーネマール湖ほど大きなものはない。世に満ちる気の流れを受け、その調和を希求する精霊院がその乱れに気付かぬわけがない。その精霊院紅巫女様が公式に発表したのだ、疑うものはいなかった。


主に変調をきたしたのはパロミラル湖から漏れ出るタマラの気であったようだ。タマラの気の揺れはこの地に住まう者にとっては重要な関心事だ。その詳細を求められた紅巫女様は一人の巫女を呼ばれた」


 その一節はあまりに有名であり、ピウィもバロワも知っていた。登場するのはあの女性だ。青巫女パルアナ。模写された絵は何処の家でも見かけられる。白いヴェール、散りばめられた大小の水晶が青く煌めく白いドレス。古来より伝わる青巫女の姿そのものだ。息を呑むほどの美しい顔貌。聡明そうな瞳。パウド・ラウェルーンと同様にタマラの森周辺で知らぬものはない。未だに多くの人々の崇拝の念を集めている人物。ポエルは続ける。


「どなたかわかっているようだな。そう、現れたのは青巫女パルアナ様であった。その当時で百年来開かれていなかった青巫女の塔が、主人を受け入れるため再び開かれようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ