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棄てられた楽園 駆竜人ピウィ  作者: 青河 康士郎 (Ohga Kohshiroh)
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サクラアゲハの頃-18

 溢れる怒りに我を忘れた、と見たピウィを操る存在と操甲体らは同時に動いた。

 ピウィは自身の左腕にしっかりとしがみついていた小型チョッキリをパミラに押し付けざま突き飛ばす。ユリナスは水晶の椅子から下へ回避させようとパミラに飛びつく。イフィヨラは斧の軌道を少しでも変えるためその大きな盾を斜めに構えた。後ろに控えるモセナ、精霊院のお付き衆を守らんと、パミラは突き飛ばされよろめきつつありながら持てるワールをイフィヨラへ向けた。


ピウィを司っている存在は、イフィヨラ、ユリナスの動きで視界が遮られるのを嫌い、右へ跳躍する。斧と盾が激突する。ユリナスがパミラを捕らえる直前、パミラの体はスッと腕をすり抜けた。金色に光を散らす細鎖が少女の細い腰に巻きつき、くの字形に曲がったパミラは宙を切り裂き巨人へと向かう。


怒りに我を忘れたのも、斧を投げたのも、すべて意図されたものだったのか。遂に巨人は目的の青巫女を捕らえた。


巨人がパミラを捕えようと意識を向けた隙に、ピウィはその強大なワールを発揮し、構えた槍とともに真一文字に巨人へ飛翔していた。打ち出された一本の槍と化して。


しかし、 パミラが先行するピウィを徐々に追い越して行く。ピウィを見つめ、その口の形がピウィのピの形を成そうとしていた。自分の頭の中の片隅でピウィは感じた。自分の体を動かしているこの意志を。巨人を貫かんとする鋼鉄の意志を。レイワールに包まれたピウィという槍が一直線に巨人の胸へ向かう。しかし、追い越したパミラがその軌道に重なってくる。


*いけない* *止めないと* *やめろ* *止まれぇ・・・*


狭く閉じ込められた脳内の牢内、ピウィが抗う。激しく、さらに激しくもがく。手足を持たぬ意識体と化しても、ここから抜け出そうと気も狂わんばかりに暴れる。ワールの使えない存在として生きてきた。この大事にまた何も出来ないのか。


荒れ狂う怒りの意は、流れとなりいつしか渦を巻き、全てを破壊せんとする嵐となった。この閉ざされた空間が軋みをあげる。それが自分自身を傷つけているとも知らず。その渦は留まるところを知らずどこまでも回転を上げる。遂にピウィという存在を成していた意識の核は向心力の限界を迎え、崩壊が始まった。小さな亀裂が走り、細かい破片が闇の中に散る。


ピクッ!


その時、意識の核が震えた。何かに触れた。優しい何か。そう、これはワールだ。2つのワール。パミラだ。パミラが感じられる。届いた細いワールの流れは、勢いを強め力強い流れとなった。渦を巻く意の嵐は、しん、と静まった。ピウィは自分が見えた。


おぞましい怒りの渦を脱ぎ出すことができた。そして気づいた。目の前に厳かにそびえ立つ何か。これまでその存在にさえ気づかなかったそれに、今気がついた。扉だ、門か。静かに大きく開いた。その向こう。深い。どこまでも深い。夜空か。いや、パースル。虚未界と呼ばれる宇宙なのか。


無数に浮かぶ乳白色の水滴。その一つが薄くピンク、ブルー、グリーンと次々と色を変え光を弾いている。エルゴだ。ピウィはそこへ急速に引き寄せられて行った。水滴などではない。茫洋と広がる一つの宇宙だ。ピウィは飲み込まれ、その一部となった。


広がって行く。自分が広がって行く。全身を駆け抜ける流れ、さまざまな感触。弾ける、繋がる、流れる、浮き沈む、回る、膨張する。いま正に起こりつつある宇宙の事象を感じた。あらゆるエネルギーの存在と流れを、理解したのではない、ただ、ただ、感じた。


広がりは始まりと同じく突然収縮へと変わり、ピウィは再び一個の存在へまとまり、エルゴから切り離された。向きを変えるとみるみる遠ざかる。


マノン(霊門)にたどり着いたピウィの意識は、己に戻ってきたことを実感した。すると喜びの波動が湧いてきた。身体を駆け巡る血流、知覚神経を走る情報、オーグを通して感じるエネルギーの流れ、その中にいる自分。


いつしかその喜びの波動が己の外からも伝わってきていた。マノンにいたのはピウィだけではなかった。2つの意識が待ち受けていた。一つはよく知っている。いつも存在しているが決して干渉しない意識。もう一つは何を感じる間も無く繋がってしまった。吸い付くように、そうなるのが自然なように絆は結ばれた。


その状態のまま迷宮のような通路を巡り、ピウィは遂に自分へと帰ってきた。右手が竜槍を握っているようだが、制御は失ったままだ。


並列する強烈な決意が伝わってくる。このままパミラの胸を貫き巨人にとどめを刺す、という鋼の意志。ピウィの意志にオーグが応え全身にワールを行き渡らせた。溢れる力を司り、槍と化した自分の進む先をパミラから逸らし巨人の左肩へ向ける。


白熱するレイワールをまとったピウィの竜槍は、そのままアルウィードの肩を大きくえぐり、強大な力に包まれたまま真っ直ぐに突き進む。天へ、どこまでも青く続く空へ飛び続け、吸い込まれる。今、ピウィには力強い翼があった。光が見え・・・そしてピウィの意識は暗い闇へと落ちた。

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