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棄てられた楽園 駆竜人ピウィ  作者: 青河 康士郎 (Ohga Kohshiroh)
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サクラアゲハの頃ー5

木筒に巻いた帯を外し、縦二つに割ると太いアムナがずっしり収まっている。小刀でその内5分の1ほどを切り分けると、残りは元に戻して腰袋にしまった。


アムナはぼそぼそとしていながらもよく噛めば味わい深く、腹を満たしてくれた。花香るキリク水を飲むと腹の中は膨らみ空腹感は消えた。一息つく。きりっと背筋を伸ばした。


 この浮遊樹は異様だ。そもそもこの大きさの浮遊樹が意図的に方向を修正しながら飛んでいるのだ。わざわざ他国の空に侵入して目的が無い、などということはあり得ない。なんとかして地上に降りることも考える。が、この浮遊樹の正体も気になる。神聖なタマラの森が荒らされるようなことがあってはならない。


どちらにしてもここを調べるしかない、と少年は思い極めた。


 それにしても、と想う。宙に飛び出したその先に偶然浮遊樹が通りかかる、などとありえるだろうか。小さな頭に疑念が生じた。あのマリーガには何か背後に隠された意図があったのだろうか。


 そこまで考えて頭を振る。それを今考えても始まらない。


 しかし、これだけの浮遊樹が領空に入ってきたのだから、領境警備の浮行機が追撃にきていてもおかしくないはずだ。黒竜の飛行速度には及ばないと言われているものの、浮遊樹の進行速度には十分追いつくはずだ。


 が、目の前に群がる浮魚たちを見て思い付く。そうか、この浮遊樹をガナ達がこれほど密集して取り囲んでいるのは、監視台や地上から発見されないためだ。


 そう思い、追尾してきている浮行機がいないかまわりの様子を確認しようと腰を浮かしかけた時、ゴトンッ!という音がした。乾いた樹木の空洞に響くような音だ。


洞の奥へ移動し、片隅に積もった枯れ葉をかき分ける。ほとんど黒といっても良い古びた樹皮が現れた。そっと触れると表面がブワブワを広く浮いている。洞の横壁は腐朽菌に侵されすっかりもろくなっていた。槍では柄が長すぎて垂直に突き立てられない。


後ろ手に回した右手の親指でパチンと留め金を外すと、腰の短刀をスッと樹皮に差し込んでみる。ほとんど何の抵抗もなく突き刺さってゆく。少年の小さな身体が這って入れる程の正方形を、壁を切り取ってみる。切り取っては切りくずを取り除く。ザクっ。面白いように穴は深まってゆく。全面的に脆くなっているわけではないようで、掘り進めやすい方向に従って進んでゆく。その作業の最中にもゴリゴリ、ゴトッという音は堀進む先から聞こえていた。


向こうの空間に短刀の先端が出たようだ。薄皮一枚を残す感じでここまでの通路を整える。薄くなった木壁を小さくくり抜く。


明るい。


大きめの空間が見えた。その空間に天井から陽の光が差し込んでいる。今度はもう少し大きくくり抜き、さらに様子をうかがう。


部屋の右隅で何かが動いている。穴を明けた真下には樽がいくつか並べてある。壁に沿って真下をくり抜いてゆく。樽の陰にあたる部分を丁寧に時間をかけて体が通れるほどの円をくり抜いた。そっと円板を引き、樽の陰に身を潜める。蠢く物の姿が見えた。5,6頭の動物のようだ。何やら頭を寄せあって身を屈めた後ろ姿しか見えない。何かに夢中のようだ。なんら危険を感じさせない。樽の後ろから蠢くものの様子を伺った。


!!! 少年は目いっぱい目を広げ、素早く頭を引っ込めた。


目の前の光景がすぐには受け入れられなかった。動物ではない、巨大な昆虫が大きな壺を囲んで頭を寄せ合っていたのだ。その仕草から壺の中身を食していたようだった。全身が白い剛毛で覆われていたせいで動物と思っていた。


ピウィは気を落ち着けると音を立てないよう、もう一度のぞいてみる。心の準備が整い、細かいところまで観察できるようになった。太い後脚4本で体を支え、頭部、胸部は立ち上がっている。折りたたまれた前脚は、丈夫な皮で覆われ動けないよう固定されていた。小さな頭には大きな目隠しがされており、それが大きな複眼を有していることを想像させた。一匹というよりか一頭といった方がよさそうな大きさだ。体高は大きめの人族ほどだろうが、体積が圧倒的だ。分厚い腹、胸。脚には装甲が施されている。


”カロヌークのチョッキリ兵”


今突然記憶の底から飛び出してきた名前だ。物知りの師がいつだか教えてくれた。指示を音で送る音繰兵に従い、両腕に重い打斧だふ、長い口吻に仕込まれた剣を使った戦いぶりはそれはもう背筋も凍る恐ろしさであった、と。

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