友達
2007年11月に書いたものです。
「あのバカが。見送りにも来ねえで……」
小さくなっていく飛行機を見送りながら、俺はひとりごちた。今にも雪が降り出しそうな鈍色の空の下、雲に吸い込まれるようにして飛行機が見えなくなった。
見送りが済んだら手持ち無沙汰になった。用が済んだのだからこれ以上空港にいる意味はない。
だが、今日の俺はなんとなく別れの余韻に浸っていた。
唐突に。
「――!」
俺は声にならない叫びと共に、首を縮こまらせて背後を振り向いた。
首筋に冷たいものが押し当てられたのだ。
驚いて振り向いた俺の目の前に缶ビールを差し出し、そいつは話しかけてきた。
「らしくねえな」
奴だ。来てたのか。
缶ビールをひったくるようにして受け取りながら、俺は言ってやった。
「何やってんだ。遅刻かよ。もう飛行機は行っちまったぞ」
「悪い。……見送るのは苦手なんだ」
――はぁ?
「わけわかんねえ。なんだその言い訳は……ってか、なんでこの寒いのに缶ビールなんだよ! お前バカだろ」
「二度もバカって言いやがって……、まあいいや。どっかで呑みなおそうぜ」
こいつ、ずっといやがったのか。こそこそ隠れていやがって。まあいいや――
「――まあいいや。缶ビールありがとな」
奴は大げさに驚いた顔を向けてきた。
「熱でもあんのか?」
「うるせ。俺だって今日は呑みたかったんだよっ」
まだ、飲み屋が開くには早い時間帯だ。俺たちはぶらぶらと郊外へ向かった。
奴は言った。
「なあ、せっかく俺が身を引いたってのに、なんで彼女を行かせちまったんだ?」
「ホントにバカだなお前は。彼女はお前に惚れてたんだよ」
「……三度目。俺にはお前のほうがバカだと思えるんだけどなあ」
目的地に着いた。
ここに来る道すがら購入した日本酒を惜しげもなくかけてやると、奴が言った。
「もうそのくらいでいいよ。お前が呑む分がなくなっちまう」
「俺たちの友情に乾杯!」
そう言って俺は、奴が眠る墓石を見つめた。