表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

断罪された聖女は牢の中、かく語りき

作者: 空月
掲載日:2026/04/24




「だって、――『()()()()()()()、『イベント』が起きてしまうから」


 将来を嘱望されていた聖女であったにもかかわらず、魔と通じたとして断罪された少女はそう言った。




 瘴気に蝕まれゆくこの世界で、瘴気を浄化できる能力――その力は女性にしか発現しない――を天より与えられた者のことを、聖女と呼ぶ。

 その力の強さはまちまちで、狭い範囲だとしても集中せねば瘴気を浄化できない者から、そこに居るだけで一帯の瘴気の浄化を行える者まで様々である。


 孤児院の出ながら、将来を嘱望されるほどの強い力を持つ聖女だったメルティ・ラーラはしかし、一説には瘴気の原因とも言われる魔の者と通じた。

 魔の者とは、黒の色彩を持つ異種族である。彼らの棲む魔の領域は瘴気が濃いことから、彼らが瘴気の原因であることは、半ば定説とされていた。

 魔の者たちは、天から与えられたものではない、理の異なる力を使う。それを天に認められていない証だとして、人々は魔の者を忌避していた。


 メルティ・ラーラは、そんな魔の者の中でも力の強い――人型をした魔の者と通じていた疑惑があった。真偽を明らかにすべく議会に召喚され、その場で事実だと肯定したため、罪人として牢へと入れられたのだった。


 メルティ・ラーラは、暴れるでもなく、粛々と牢に入った。その大人しさは、魔の者と通じたという罪状もあって、不気味ささえ感じさせた。


「メルティ――どうして君がこんな目に……!」


 そんな彼女のいる牢に、権力を以て押し入ったのは、彼女と懇意にしていた者たちだった。

 悲痛に彼女に問いかけたのは、放蕩者と噂の第二王子。

 権力をちらつかせて押し入る算段を立てたのは、切れ者と名高い若き議員。

 隙なく周囲を窺うのは第二王子の幼少期からの従者と、最近護衛に抜擢された若き騎士。

 どこか硬い表情で彼女を見つめるのは、聖女の浄化能力についての研究の第一人者。

 そうして、彼女と同じく研鑽に努めていた聖女がひとり。


 第二王子の言葉を皮切りに、彼女を信じたいがゆえの言葉たちが次々と牢に反響する。


 君がそんなことをするとは思えない、何かの間違いじゃないのか、あるいは誤解ではないのか、今もなおあなたの浄化の力は失われていない、ならば天があなたの行いを認めているはずだ、だから罪などない――そういった言葉たちを前に、メルティ・ラーラは茫洋としていた。


「――メルティ……?」


 彼らの前では程度の差はあれ、常に明朗快活であった彼女の、どこか心あらずな状態に、彼らが不安を抱くのは当然だった。


 まさか――魔の者と通じたのではなく、魔の者に何かされたのでは。


 そのような思考に至るのも、彼女を信じている彼らからすれば、自然なことだった――けれど、それは否定された。他ならぬメルティ・ラーラによって。


「私は、誰にも、何もされていません。ただ、交流しただけ。あなたたちとしたように、あなたたちと積み重ねたように」


 それは――暗に、魔の者とのつながりを示唆する言葉だった。

 冷や水をかけられたように沈黙した一同の中で、最初に立ち直ったのは賢者とも呼ばれる浄化能力研究の第一人者。

 努めて冷静に紡がれた事実の確認に、メルティ・ラーラは当たり前のように頷いた。


「あの人と交流を持ったことを、魔の者と通じたと言うのならそうなのでしょう。そしてそれがこの国で罪になるというのなら、私は罪人で間違いないのでしょう。罪人が牢に入れられるのは当然。処断されるのも当然。だから私は、逆らう気なんてありません」


 彼女を慕う者たちから、絶望の声が漏れた。それに少しだけ眉根を寄せたメルティ・ラーラは、「なぜ魔の者と通じるなんてことを――」と問うた若き議員に、淡々と告げた。


「だって、――『ゲーム』の通りに、『イベント』が起きてしまうから。『イベント』を消化しなくちゃ、先には進めないから」


 その言葉の真意を、その場の誰もが理解できなかった。知らぬ響きの単語が連なっていたからだ。

 戸惑う彼らを置いて、メルティ・ラーラは続ける。


「私が『メルティ・ラーラ』として意識を持ったのは、『ゲーム』開始時点で。『ゲーム』の通りに『イベント』が起き続けたから、ここは『ゲーム』の中――あるいは、『ゲーム』と同じ理で動いている異世界だと思ったの。だから、起きた『イベント』はちゃんと進めないといけなかった。現実の時間は止まらない。『セーブ』『ロード』機能なんてない。だからずっと、綱渡りの気持ちだった。共通でも、個別でも、『バッドエンド』では国や世界が滅ぶ示唆がされていたから。――でも、この『イベント』は、知らない。『メルティ・ラーラ』が断罪される『イベント』を、『私』は知らない。『フラグ』を立て損ねたのかな。それとも好感度が足りなかった? 『シミュレーションRPG』の全『イベント』回収なんてやるほどの『ゲーマー』じゃなかったから、ただの見損ねた『バッドエンド』への道筋なのかもしれないけど」


 そこで、メルティ・ラーラは微笑んだ。何かから、解放されたような笑みだった。


「知らない道筋の現実があるなら、きっと、『私』に……『メルティ・ラーラ』にしか救えない国や、世界や、未来は、ないんだよね? この世界は『ゲーム』によく似ているだけで、たくさんの人が生きているんだから。力の強い聖女は私だけじゃないし、これからも見つかるし、ただ私が、頭のおかしな女だったってだけで……」


 集まった彼らがよく知っているはずの少女――メルティ・ラーラが何を言っているのかわからない。不可思議な響きの言葉も、意味がとれる部分が伝えてくる不穏さも、何もかもが、彼らには理解できなかった。

 ただ、彼女の精神の均衡が、崩れかけていることだけが確かで。


「メルティ? ――メルティ!」

「あは、あはは、あははははは! そっか、そうだったんだ。ずっとずっと、私って狂ってたんだ! ――頭のおかしな女の、戯れ言に付き合わされて、かわいそうね、あなたたち」

 

 狂ったように哄笑して、それから不意に憐れむように呟いて。

 ――それきり、メルティ・ラーラは人形のように黙り込んでしまった。


 どんなに声を掛けても。どんなに言葉を尽くしても。

 何の反応も示さなくなった彼女を、それでも彼らはまだ信じたいと思っていた。

 魔の者と通じたのが事実であるならば、彼女を断罪する法の方が間違っているのではないかと考えるほど――彼らはメルティ・ラーラと心を通わせたし、彼女を信じるに足る人間だと思っていた。


 けれど、彼らが彼女を牢から救い出す前に。

 メルティ・ラーラは牢から忽然と消え――その行方は杳として知れず。

 天の理の外――魔の者の力によって牢を出たと目され、罪はさらに重くなり、見つかれば死罪とされた。


 彼女を知る者たちは密やかに捜索を続けたが、終ぞ彼女は見つかることなく。

 ただ、罪人として名を刻まれることとなったのだった。





+ + + + +



●メルティ・ラーラ

転生なのか、精神のみの転移なのか、それは本人にもわからない。

『メルティ・ラーラ』が主人公のシミュレーションRPGを、攻略を見ながらクリアした記憶を元に、なんとか日々を生き抜いていた。

この世界はゲームなのか? ゲームによく似ただけの世界なのか? 自分が『クリア』しなければ国や世界が滅ぶのか?

そういうことを考え続け、精神がすり切れてしまった。

『魔の者』との遭遇もイベントの内だったが、その後が知らない展開になったので、あらゆる可能性を考えて限界を迎えた。

『魔の者』に牢から救われ、手厚い看護を受けている。いつか正気に戻る日も来るかもしれない。



●魔の者

『私』がプレイしたシミュレーションRPGの、個別エンディングがあるキャラのひとり。扱いとしては隠しキャラ。

世界の真相に迫るルートを持つキャラだが、それゆえに中身がおかしい『メルティ・ラーラ』と出会うことで、世界の歯車が狂った。

『メルティ・ラーラ』の記憶を見たので、彼女の苦悩も焦りも、綱渡りのように過ごした日々も知っている。

それを無為にしないため、世界が滅ぶ要因は排除してくれる。

牢から救い出した『メルティ・ラーラ』を手厚く看護している。恋愛的な情は今のところない。強いて言うなら憐憫が強い。







お読みいただきありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、下部の★★★★★をクリックしたり(評価)、ブックマークに追加、あるいはいいねや拍手ぽちぽちで応援いただけると嬉しいです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ