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第三章 邂逅 その2

                     二


 瞳を開けると、チャンが部屋の窓を拭いていた。机にはハムエッグとパンを載せた皿があり、椅子の上には清潔な服が一そろい置いてあった。

「外界は昼の十時だぞ。」

 窓を睨んだまま、相変わらずのぶっきらぼうでチャンが言った。

「だったら何だよ。」

「それ着ろ。列車に乗せてやる。」

 チャンは振り向き、バケツに雑巾を投げ込んでから、俺の足元を指差した。

「制服じゃないか。」思わず俺は声を上げて。

「早く着替えろ。一時間後には出発だ。朝飯、冷めないうちに食べろよ。」

 白いYシャツにスラックスのチャンは、サングラスをかけていなかった。鋭く力があるが温もりに満ちた二つの黒い(まなこ)からは、あの日の(かげ)りは消えていた。

「随分急だな。俺の都合も考えろよ。」

 チャンの表情に幾分安心し、俺は口を尖らせた。

「馬鹿言うな。こっちは仕事なんだ。気持ちよく寝させてやったんだから、感謝してくれないとな。」

「でも制服ってさ。」俺は言った。「俺に何させる気だよ?」

 バケツを持ちあげ、チャンは扉へと足を運びながら。

「働かざる者食うべからず、だ。ここで夏休みを過ごすならちょっとは手伝え。」

 ちょっと待てと起き上ったが、チャンの代わりに扉が短く返事しただけだった。

 耳に窓からの爽やかな風を感じながら、俺は皺ひとつない紺地のブレザーと目を合わせた。

「勝手なことを。」

 悪態をつく一方、チャンの様子に幾分心も落ち着いた。両足を床に付け、汗の染みたシャツを脱ぎ、出されたものをお召しになってやることにした。長袖のブレザーは厚地に見える割に通気性が良く、袖を通すと涼風がブレザーとYシャツの間に滑り込んできた。肩幅の広いチャンの物なのだろう。洗面所の鏡を覗いてみれば、俺は戯れに親のスーツを羽織った幼児のようだった。長く伸びた肩のラインに小さな頭が載っていて、随分と不格好。服の肩は勿論落ちている。袖も裾も丈が余っている。それでも制帽を載せるとすっかり締まった感じになるから不思議だ。サングラスは、初めは少し期待したが、かければ何の変哲もないグラサンだった。

 暗がりから出ると、チャンとイチローがお待ち兼ねだった。

「初出勤だってね。」イチローが既に駅で待っていた。似合っているよと言う言葉と裏腹に、口元は正直に笑っていた。大は小を兼ねる、というのがチャンからのコメントだった。

「今日は、乗客が既に一人来ている。」

 チャンの右手が置かれていたのは、ワンさんの肩だった。ワンさんは済んだ目でじっと俺を見て、(かん)()として笑った。慌てて俺は会釈をする。

「今日の列車は」チャンが説明を始める。「浦東(プートン)浦西(プーシー)循環ライン、一一時二八分発の、内回り、東方明珠塔、浦東新区経由、虹橋(ホンチアオ)空港行きだ。ホームは地下四階の二六号線。」

「この階のもう一つ下のホームだね。」イチローが相槌代りに言った。

「そうだ。」チャンは頷く。「残念ながら、俺はそれに乗って魯迅(ルーシュン)公園前まで行く担当に当たっている。だから、イチローは、ワンと龍也を連れて同じ電車に乗り込んで、めぼしい場所がある度に下車して、確認してほしい。」

 何だと俺は眉をひそめた。そんなことなら別に俺はわざわざ制服に着替える必要は無かったじゃないか。怪訝そうにチャンを睨むと、チャンが近寄り、俺の右手のひらに左手を(かざ)した。その手が離れた後には、制服と同じように金の筋が貫いた紺色のカードが俺の手に載っていた。

「IDカードだ。」チャンは言った。「MMF(モーモーフォー)の社員しか持たない物だが、俺が失くしたって言ってスペアをもらったんだ。あとは専用に機械にお前の指紋を記憶させれば完了だ。」チャンは失くしていない自分のカードを見せながら説明した。「失くせば悪用の恐れがあると、上からはだいぶ絞られたけどな。」

 当然だ。しかも失くしたと偽った本人その人が他人に悪用させようとしているのだから。

「別に電車に乗るくらいなら切符もパスポートも無くたっていいんだろう?」イチローの話を思い出しながら俺は尋ねた。

「よく聞け。」チャンは顔をしかめた。「俺たちは外界に出るんだ。いいから取っておけ。」

 気が引けながらも、俺はカードを制服の裏ポケットにしまった。俺に対してここまでするチャンの本心が、俺にはまだ掴めていなかった。これも全て「ツバメ」と「アシハラ」の究明のためなのだろうか。

「そのカードを携帯すれば、パスポートがなくても駅と外の世界とを自由に出入りできる。パスポートが無くても外国の土を踏めるんだぞ。これも世界各国からMMFが絶大な信頼を得ているおかげさ。」

 信頼を笠に着るチャンの言葉には、全く説得力が無かった。

 そろそろ行こうよとのイチローの声で、俺たちは下り階段へ向かった。上海の中心地だから当然なのか、今日も駅は活気に満ちていた。ホームは文字通り人で溢れていたし、エスカレーターは両側ともぎっしり詰まっている。身動きできず棒立ちの人間たちに、俺はビール工場で見たベルトコンベアの瓶の列を重ねた。

 早足のチャンには俺が、一歩一歩の感触を味わうかのような緩やかな足取りのワンさんにはイチローが、それぞれついて行った。何を話しても通じないのは承知の上で、イチローは身振りを交えて気さくな冗談を言い、分かっているのかお愛想なのか、ワンさんは心地よい笑みを浮かべていた。

「なあ。」三段下のチャンに声をかける。止まって、チャンは振り向いた。

「何だ、龍也。」

「俺を呼びつけた理由はともかく、どうしてワンさんまでここにいるんだよ。」

 すると、からかうかのように、チャンはわざとらしく俺を見た。

「名前、教わったんだな?」

「え?」

 相好を崩してチャンは言った。

「ワンさん(・・・・)なんて、随分と他人行儀だな。俺に対しては偉そうな口の聞き方をするくせに。」

「それは、チャンがそう話して良いって―――」

「お前、最近ワンの部屋によく通っているらしいな。ワンがそう書いてくれたからさ。」

「ちょっ――」

「経験少ない奴にはあいつは難しいぜ、忠告しておく。」

「何言い出すんだ、お前――」

「そうムキになるなよ。」チャンはにやけながら。「可愛いな、お前。」

 俺は思わず大声で言い返したくなったが、周りの人の多さに理性を取り戻し、全く見当違いな想像を膨らませるチャンの朗らかな笑い声を、押し黙って聞いていた。

「それで・・・・俺の質問の答えは?」

「描いたんだ。」こともなげにチャンは答えた。

「何を。」

「そりゃ、ツバメをさ。」

「ワンさんが、か?」思わず跳び上がった俺を、素早くチャンが制止した。

「馬鹿だな、落ち着いてよく聞け。」

「それで・・浦東・浦西循環ラインに乗るってことは、『ツバメ』は上海市内にいるってことか?目星は付いているのか?」

「近づき過ぎだ。少し離れろ。」チャンは手を払いながら。「ところで上海市の大きさは知っているのか?日本で言えば東京都の約三倍、人口は東京よりも百万人ほど多いんだ。その中で、何人いるのか、いついるのか、どこにいるのか、そもそも人間なのかも分からない『ツバメ』を、どうして簡単に見つけれられるんだ?」

「じゃあ、勘なのか。」少し白けて俺は言った。

「大いに希望的観測をもってな。」とチャン。「上海の中心地をさ、ワンを連れてぐるぐる廻っていたら、そのうち奴らも寄って来るんじゃないかと思ってよ。」

「避雷針じゃあるまいし。」

 不意に足が重たくなった。それじゃあ頼むぜとチャンは俺の肩を叩いた。訝しく思いながらチャンを見上げる。どうも楽天的にすぎるなと感じた。この男と知り合ってまだ七日も経っていないが、こいつが絶対的な確信を持つまでは疑心を抱き続ける性格だということには、薄々気付いていた(事実、俺のツバメ疑惑は正式には解消されていない。)その男が、こうも余裕綽綽(しゃくしゃく)としているさまを見るにつけ、俺はチャンが確証をつかんだのではないかと疑わずにはいられなかったのだ。

「チャン。」

「ん」

「お前さ、俺に隠してる――何かすごく重要な手がかりとか、あるんだろう?」

「何で分かる。」チャンはまだおかしそうに俺を見た。

「―――何で隠すんだよ。」

「いや、別に隠していたわけじゃないし、隠しているわけでもないさ。」チャンは楽しそうな口調で続けた。「実は、お前と会う前に――ワンが初めてツバメの絵を描いたときだ――面白い発見をしたんだ。で、今回もそれと似た発見があれば、俺の仮説が証明されるわけだ。」

「どういうことさ?」

「俺の発見したものが、つまり『ツバメ』に関係があるってことだ。」チャンは俺の肩を叩いて。「仮説が立証され次第、お前に拾得物を見せてやるさ。」

「期待せずに待つよ。」返事はあくびに紛れ込んだ。

「26」のアラビア数字と、エスペラント語の書かれた読めない看板の下を通り、俺たちはホームの端まで行った。ホームと線路の間には透明の仕切りがあって、等間隔に派手な赤色で塗られた扉が並んでいる。電車はほぼ定刻どおりに光の筋とともに地下駅に姿を現し、車両の扉より数秒前に仕切りの側の扉が開いた。長い乗降の間に、チャンは降りてきた車掌に挨拶して、カバンと共に乗務員室に乗り込んだ。その姿はすっかり鉄道員のものだった。俺たちも最後尾に入り、私服姿のワンさんは座らせて、人相の良くないグラサン男二人は、乗客の疑心をかきたてないよう、扉の脇に大人しく立つことにした。

 扉が閉まる。チャンが閉めたのだ。軽快な警笛とともに、吊革が揺れた。重厚な轟音が、車内まで入り込んできて、アナウンスも聞こえない。列車は緩やかなカーブを曲がって、次の駅に着いた。チャンが扉を開ける。

「これから黄浦江(ホワンプーチャン)って河をくぐるよ。」イチローが言った。「ただでさえ摩天楼が立ち並んでいるのに、こうも地下を深く掘り進んじゃあ、あまり良くないんだけどね。」

 電車はエスペラントの下に「中山东二路」と付されたその駅を後にした。何も見えない車窓を見ているイチローを眺めながら、ふと、この人も鉄道員なんだなと感じた。イチローは運転手だ。ということは、仕事で毎日この重たい車両を一人で動かしていることになる。そう考えると妙な感じじゃないか。何かに操られているように、機械的に定刻どおりにやって来る無機質な物体でしかなかった電車に、今は温かみと、そら恐ろしささえ覚える。MMFの運賃は安い方だ。切符一枚で、俺たちは二人の人間に自分の生命を託しているのだ。そう考えると、破格の安値である。それでも、自分の知る人が動かしている電車は、心強く頼もしく、何よりも人間味があった。

「東方明珠塔駅だ。」

 イチローの声と共に扉が開いた。どうする?とイチローはワンさんの顔を見た。ワンさんはきょとんとした目で見つめかえしたが、駅名を眺めて、興味深そうに立ち上がった。

「なら決まりだ。行こう、タツナリ。」

 駅舎側の扉が閉まる。電車はゆっくりと加速する。走り去る際、最後尾の乗務員室の窓から、チャンが顔を覗かせた。俺たちは軽く手を振り、銀色の列車が闇に消えるのを見届けた。


           三


 どう考えても、ただの物見遊山だった。

 だってそうでしょう?

 なにぶん、どこにいるか分からない「ツバメ」探しなのだから。手掛かりはワンさんの「予感」だけだったが、これも当てになるとは言い難い。何日ぶりか分からない日差しと外気を満喫し、東方明珠塔から上海の中心街を一望した。大きく湾曲する黄浦江には遊覧船が浮かび、洋風建築が列強の租界時代を偲ばせる河岸の外滩(ワイタン)には、粒のような車や人が、小指の関節ほども無い短い距離の移動のためだけに、せわしなくうごめいている。高層ビルが林立し、東京の街並を圧倒するほどの壮観だ。なるほど、アジア随一の経済都市との覚え高い上海だけはある。

 なんて偉そうなことを申し上げながらワンさんを片目の隅にキープしていたのだが、ここでワンさんが「予感」を覚えることもなかし、当然ながら、「ツバメ」らしき人(それにしてもこの表現、妙だ)と遭遇する術もなかった。

 再び電車に乗り、「世纪公园」という駅で、列車の連絡待ちをした。

「空港連絡急行の接続を待っているんだ。」とイチローは言った。

「空港連絡急行?」

「うん。上海には虹橋と浦東という二つの国際空港があってね、その二つを結ぶ路線が別々にあるんだよ。浦東空港の方は、リニアが走っていてお客さんはそっちの方に取られちゃって、連絡急行も閑古鳥が鳴いているみたいだけど。」

 結局空港方面へ乗り換えはせず、循環ラインに乗り続けることにした。

 次に降りたのは「鲁迅公园」駅だった。地上階段を上がって最初に耳に入ったのは、賑やかでリズミカルな音楽だった。見れば、遠くの広場で、老若男女が楽しげにダンスとも体操ともつかないものをしている。ペットボトルを改良した筆を使い、石畳に鮮やかな筆致で活き活きとした書体の漢字を書く人もいれば、観光客がポーズを取る魯迅像の後ろで、太極拳の世界に浸っている人々もいる。緑の公園の外は騒音やかましい道路が走っていて、路線バスが忙しくやって来ては、多くの客を吐き出し、またたくさん飲み込んで走り出していく。燦々(さんさん)と太陽が照らす中、人々は思い思いに一日を過ごしている。

 それでも、ワンさんの表情は曇ったままだった。

 駅に戻ると、チャンが俺たちを待っていた。

「どうだったか?」

 開口一番、チャンは結果報告を求めた。けれども、こうして三人で当てもなく魯迅公園をさまよっている姿を見れば、答えは知ったに等しかった。

「上海は、広いんだろう?」答える代わりに俺はチャンを睨み上げた。

「――ああ、広い。」納得した様子で、力なくチャンは曇り空を見上げた。「だが、たとえ上海は広くとも、捜している相手は近くにいる。ただ、俺たちが敏感でないだけだ。」

「でも、『ツバメ』の特徴は分からないんだろう?」

 まあな、とチャンは言い、魯迅像の向こうのベンチに腰掛けたワンさんを見た。

「様子に変化は?」

「脈はあるみたいだよ。」イチローが答えた。「浦東にいた時はそうでもなかったけど、浦西に戻ってからは、目つきに自信が浮かんでいるね。何かが聞こえるかのように、耳に手を当てることもあったからね。」

「なるほど。近い(・・)な。」チャンは頷く。

「でもよ。」俺は口を挟んだ。「それもあの人の予感に過ぎないんだろ?」

「そうだ、予感だ。だが、大いに希望の持てる、予感だ。」

 チャンはサングラスを取り去り、強い光の籠った(まなこ)を俺に向けた。

「一昨日、ワンはMMFの路線図のある地点に、一羽の小さなツバメを描いた。そしてその翌日、ちょうど列車がその地点を通り過ぎる時、客室で、そこにいるはずのない(・・・・・・・・・・)人物を発見した。そしてまた、ワンはツバメの絵を描いた――これは、ある仮説を立てるのには十分だと思わないか?」

「おい・・・」ちょっと待てと俺は叫んだ。

「俺は『ツバメ』じゃないって、認めたんじゃなかったのか?」

「そう怒るな。」チャンは俺を制止して。「別に俺は『ツバメ』に敵意を抱いている訳じゃない――むしろ俺は―――そいつらを手掛かりにしたいだけだ。ただ、龍也、お前はワンとは話せない。それで俺は考えたんだ。『ツバメ』の中でも、ワンと口が利けるのと、そうじゃないのがいるのだろう、と。そして今度上海に来ている『ツバメ』は、ワンと話が通じるはずだ。それにきっと今度も会えるはずだ。」

「だから俺は『ツバメ』じゃないって――」

「そうだよ。」イチローが加勢してくれた。「タツナリの顔には、浮かんでいないんだよ。」

「本人が『ツバメ』だと自覚していなかったら?」チャンは言い返した。「自覚していないことは、心に抱くことはできまい。」

 イチローが口を開いたと同時に、三人の間を流れる黒髪が覆った。

「――ワン。」チャンはワンさんの円らな目を見下ろした。ワンさんは諭すように、悲しげな表情で俺たち一人一人を見上げ、自分の胸に手を当てた。落ち着け、ということだろうか。チャンは艶のある青々としたワンさんの長い髪を掻き上げ、小さく呟いた。

「――お前と話せる奴は、一体どこにいるんだろうな・・・」

 すると、ワンさんは自分の胸に当てていた手を、チャンの厚い胸元に差し出した。手にはボールペンと地図があり、そこには、以前俺が列車の中でチャンたちに見せられたような、一羽の若々しいツバメが、精緻な筆致で、上海中心の案内図の上に描かれていた。ツバメはくちばしを南へ向けて、蛇行する黄浦江(ホアンプーチャン)よりも左側の、緑色に塗られた地区の上を舞っていた。その右隣りには、「南京东路」という文字もある。

「ここなのか・・・?」チャンは地図を凝視してから、驚いた様子でワンさんに問うた。

「――上海博物館か。」イチローも地図を覗き込んで。「行ってみる甲斐はありそうだ。」

 二人はゆっくりとワンさんに目を向けた。二人の意図を解したのか、ワンさんは晴れやかな笑みで顔を綻ばせた。

「・・・なあ、どうやってそこまで行くんだ?」俺は尋ねた。

「あれを見ろ。」

 振り返ると、俺たちの背後の壁には、路線図があった。循環ラインだけの路線図だ。チャンは円周上の点の一つを指し、次にほぼ真下の点を指差した。

「ここが今いる魯迅公園。それから、内回りに行っても、外回りに行っても、大体駅の数と所要時間が同じ駅が、これ、上海博物館駅だ。俺達が出発した上海南京路の、ちょうど西隣の駅になるな。」

「じゃあ、結局無駄足だったのかな。」不意に体の疲れを感じ、俺は椅子にもたれかかった。

「まあ――これからの、結果次第かな。」

 イチローがそう言って地図を覗き込んだように、俺ももう一度地図に目を落とした。得体の知れないツバメが一羽、場違いなこの真夏の上海の空を飛び舞うようすを想像しながら。


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