007 新たな任務
召喚されて一週間が経った。
天音は今のところ、「加護の授与」が主な任務だ。毎朝訓練場に出向き、騎士たちに加護を授与する。それが終わったら、図書室で気になる本を読んで、借りる。
するべきこともたくさんあるが、全てがルーティーンに組み込まれている天音にとって、あまり重荷ではなかった。
最近は騎士たちに顔を覚えられたようで、すれ違ったときに声をかけられるようになった。天音はその度、心が温かくなる。自分のしたことで、この人たちが無事でいられるなら、これ程嬉しいことはない、と。最近はあの恥ずかしい厨二じみたセリフも、胸を張って言えるようになってきたのではないか――というか、そう思い込まないとやってられない。
今朝も訓練場で騎士たちを見送った天音は、いつも通り公爵邸に向かう。
来賓玄関から建物の中へ入ると、いつもは誰もいないはずのそこに、女性が立っていた。
「天音様がお戻りになり次第執務室へお連れするよう、旦那様より仰せつかっております」
図書室に向かおうとしていた天音には寝耳に水だったが、読書以外の予定はない。承諾して女性の後について執務室へと向かった。読書の時間を削られたことを、若干恨みながら。
公爵の執務室にはいままで入ったことがない。だから、執務室へ続く廊下も知らないものであふれていて、新鮮な気持ちだ。
廊下には数メートルごとに絵が飾られている。写実的な、花や動物の絵だ。全てが淡い色彩で描かれている。まるで、それ以外の描き方を知らないかのように。
似たような絵が並び、そろそろ眺めるのにも飽きた頃、先導していた女性が立ち止まった。目の前の扉には細部まで装飾が施されていて、公爵の執務室に着いたのだと気づく。
女性はベルを鳴らし、公爵に到着を知らせる。扉の向こうで、公爵が入室を許可した。
「聖女として、他にもやってほしいことがあるのだ」
向かいの椅子に腰かけた天音に、公爵はそう言った。
「何でしょう」
天音は簡潔に返す。自分に話が来ている時点で、根回しは済んでいるのだろう。今ここでなんと言おうとも変わる話ではないのだから。
そんな天音を、公爵は少し寂しそうな目で見た。
「なんてことはない。午後の時間はやることがないだろう、その時間でポーション作りに励んでほしいのだ」
いえ、午後の時間は本を読んでいます――そう言いたいのを飲み込む。読書は立派な予定だが、それ以外予定がないことも事実だ。
「ポーション作り、とは……?」
午後の予定はもう考えても仕方がない。それよりも天音は、疑問点を解消したいのだ。
「それに関しては、この後会う人物に聞いてくれ」
公爵は椅子から立ち上がった。つられて天音も立ち上がる。
「いまから調合室に向かう。エリアス、君もついてくるんだ」
「仰せのままに」
天音が立つ横で、跪き公爵へ忠誠を誓うエリアス。天音はしばらく彼らを眺めていたが、頭の中では別のことを考えていた。
「結局調合室に向かうなら、執務室に来る必要なかったんじゃ……」
「なにか言いましたか?」
急いで首を横に振る。考えていたことが口に出てしまったらしい。
次の更新は12月22日(月)の予定です。




