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第六話 意外な吐露

 翌日一つ目の街へと辿り着いた。三人は買い出しや情報収集に出てゆき、私と水戸場は馬車の中で待機していた。


「ただ待ってるだけってのも暇だなあ」

「僕たちは色が色ですからね。余計な問題を招くよりは待っている方がマシだ」

「そうなんだけどさ。あ、なんか話してくれてもいいよ」

「嫌です」


 水戸場から否定の言葉を得たところで、きゃるきゃると小鳥の声が外から聞こえて来た。


「……なんかでっけえ白文鳥みたいなのおるなあ」

「小鳥と言うには大きいですね」


 私の知る文鳥は手のひらサイズだが、馬車の外を彷徨いている鳥はうずら程の大きさだろうか。昨日出たほうれん草で釣ってみるかと食料袋を漁った。本来鳥にほうれん草は与えない方がいいが、この世界の鳥に当てはまるか分からないし、そもそもこれがほうれん草なのかも謎なので試しに使う。


 ぷちりとひとつほうれん草の束からちぎり、馬車の端に座って鳥の気を引いてみる。こちらに気が付いた鳥がちょこちょことやって来ると啄み出した。


「おお〜かわいいね君ィ」

「野鳥に触らないでくださいね。雑菌だらけですから」

「うるせえ、暇つぶしにも付き合ってくれねえ癖によ」

「あなた気遣いと言うものを母親の腹に置いてきたんですか?」


 眼鏡の橋に指を添えてムッとした表情をする水戸場であったがそれ以上は言ってはこなかった。徐々に自分の方にほうれん草を寄せてゆく。指を出すとぴょんと飛び乗って来た。鳥は夢中でほうれん草を食べ進めておりこちらを気にする様子はない。ここいらで可愛がられている個体なのかもしれない。


「かわいいなあ。水戸場と違って」

「何かと難癖付けますが、僕も早池さんよりその鳥の方が可愛らしく見えますね」

「水戸場の恥ずかしい話、今度から率先して聞くね」

「やめてくださいよ」


 粗方ほうれん草を食べ終えた鳥は馬車の中を彷徨き出す。食料袋の上に乗ると丸く餅になり目を閉じた。


「スマホがあったら激写したものを」

「素直にかわいいと言えばいいのに」

「かわいいね。食べちゃいたいね。わたあめちゃん……」

「キュートアグレッション発動しないでください」


 水戸場は呆れているようだが、別に鳥にうつつを抜かすくらい多めに見てほしい。暇なんだよこちとら。


 しばらく鳥を観察し続けたがふこふこと丸く気持ち良さげに眠っているので私はニチャニチャと笑いながらそれを眺め続けていた。


 イザークとフェロメナが帰って来たが、私の様子を見て話しかけてはこなかった。リシェが帰って来ると、その鳥はどうしたのかと聞いて来た。


「菜っ葉食わせたら来た」

「……まあ、害はなさそうだしいいけど。今日の宿取ってきたから行くよ」

「厩見つかったの」

「うん。その宿にあったから借りてきたよ」


 馬車に全員で乗り込み宿へと移動する。宿の方で馬車を引き取ってもらい、馬を厩に入れる。夕食時なのもあり併設された食堂で食事を摂り、女性組と男性組に別れ部屋に入った。


 するとしばらくしてから扉を叩く音が聞こえてきた。リシェが出ようとすると、フェロメナがリシェを引き止める。口元に手を当て、黙るようにと私とリシェにジェスチャーで示すと、フェロメナは手を扉に向けてリシェに開けるようにと促した。


 リシェが扉を開けると共に思い切り見知らぬ男が二人なだれ込んでくる。フェロメナが炎の魔法を放ち、前に居た男が悲鳴を上げた。


 え、え、と戸惑っているとリシェが私の腕を取った。


「隅にいて!」


 隅に私を追いやるとリシェがナイフを持ち残った男へと向かった。リシェの投げたナイフは男の太ももに刺さる。悲鳴を上げたが、男は太ももに刺さったナイフを引っこ抜くとリシェ目掛けナイフを投げ返した。リシェがそれを避けたはいいが、そのナイフは私の眼前に迫った。


 一瞬のことで理解が及ばなかったが、がきん、と壁に阻まれるようにナイフは私の眼前で弾かれた。


「防衛魔法か!?」

「リシェ!」

「あいよ!」


 残った男はフェロメナの氷の魔法で足を凍らされ、身動きが取れなくなった。隣の部屋から騒ぎを聞きつけたらしい水戸場達が駆けつける。


「どうしました!?」

「黒狙いの輩だよ。……ってごめん。ナイフ弾くだろうと思って避けちゃったけど、怪我ない? ハヤチ」

「あ、うん」


 輩二人を縄で縛り、宿の主に事情を話に行ったイザークが戻ってくると、意識のある方の男が喚いた。


「黒が二人もいりゃあ、いい金になったんだがねえ」

「黙れ」

「おおう、魔法士の姉さん。相棒の火傷治しちゃくれねえか?」

「貴様らに施すほど、わたくしは腐ってはいないわ」

「ふうん……ふふ、ははは、どこに向かうか知らねえが、さっさとこの街を出た方がいいぜ? 俺みてえなのはまだまだ居る……。黒が喉から出るほど欲しい人間は、ごまんと居る。楽しいことに使うために、な?」

「……それ以上口を開くならば、お前も焼くことになる」

「そりゃおっかねえ! くく、忠告はした。後はアンタら次第だ」


 宿の主から自警団に話が行ったのか、四人の男性が現れた。私と水戸場はフードを被り隠れる。野盗だと告げると二人は連れていかれる。


「……黒だとどこでばれたのでしょうね」

「あまり長居すべきではないやもしれませんね。フェロメナ、一応今夜は部屋に結界を」

「ええ」


 リシェに話を聞くに、黒と言うのは忌色ではあるが、奴隷やら何やらと裏ルートで求める人間が居るらしい。不安そうな表情でもしていたのか。リシェは困ったように眉を下げ、私の手を握って励ますように話しかける。


「……この国は、黒には少し居ずらいかもしれない。けれど、きっと守るから、だからそんな心配そうな顔をしないで」

「……ありがとう」


 その夜は他愛もない会話をして眠りについた。少しだけ緊張はしていたが、いつの間にか寝入っていた。やはりベッドありがてえ。







 馬車に揺られながら、股座に丸くなってる鳥にどうしようかと思いを巡らせる。昨日餌付けした鳥が朝馬車の中に居るのを見て外に放したのだが、いくら放しても着いてきてしまうのだった。仕方なく連れて行くかと股座に置いたら眠り込んでしまった。動くに動けず足が痺れてきた。


「簡単に餌付けなんてしちゃ駄目なんだよ」

「はい、すみません」

「名前はどうするの?」

「フェロメナは呑気だなあ」


 フェロメナとしてはもう飼うしかないとのことで、名前を付けてはどうかとのことだった。一方リシェは野生に返せるなら返した方がいいと言っている。でかい白文鳥みたいでかわいいのだが、なんとなく名前をつけると後戻り出来なくなりそうだなと躊躇っていた。


「ここは全員で名前の候補をあげよう。はい水戸場」

「はあ? 何故僕が」

「いいからいいから」

「……わたあめ」

「はいイザーク」

「ええと、リムル」

「はいフェロメナ」

「シュラウド」

「はいリシェ」

「ポピー」

「……わたあめで行くか」

「そもそもあなたが昨日言っていたあだ名ですよ、それ」

「輝いているよわたあめ。空に輝く凶星のように」

「意味わかって言っていますか?」


 結果、名前はわたあめとなったのであった。今のところ雌雄の判別は付いていないが、可愛らしい名前だし別にいいだろう。水戸場のことだからピヨ彦とでも言いそうだと思っていたが、意外にも私の案を採用してくれたらしい。まあ恐らく思い浮かばなかっただけであろうが。ネーミングセンスがあるとも思えなかったので。


「何か失礼なことを考えてはいませんか。早池さん」

「そんなことねーよ。だっはっは!」

「…………」


 水戸場は御者席から振り返ってジト目で見ていたが、気が済んだのか前に向き直った。


「うりうり、わたあめ〜」

「ぽぴ」


 ちちち、と鳴きながらわたあめが股座から射出された。向かった先はリシェで、リシェは少々戸惑い、体育座りしていた足の隙間にわたあめは入って行った。


「あーもー、これどうすんの!」

「飼うべ」

「もしもの時は非常食にしましょう」


 フェロメナの恐ろしい提案に思わず口角が引き攣った。その時は猥談でも聞いて何がなんでも食料を出さなければなるまい。


 その後は村を越え街を越えと時折補給に立ち寄りながらも旅は進み、国境の前の村で一時的に宿を借りることとなった。


 もう国境も近い。ここら一体にも薄くだが瘴気が漏れ出しているために、村は閑散としていた。耐性のないものの多くは村を出て行ってしまったのだと言う。


 村長に話を通し、空き家となった一軒を借りて夕食をイザークが作ってくれた。五人で食卓を囲む。


「馬はここで乗り捨て、これから先は徒歩での移動となります。魔物も出て来るでしょうし、今日は早く休んで万全の状態にしておきたい」

「村長に話は通したの?」

「ええ、馬は引き取ってくれるそうです」

「これから先徒歩となると、持ち物の分担とかもしなくちゃいけないのか。面倒だな」

「そこはわたくしに任せて」


 フェロメナは収納魔法を持っているらしく、持ってきたものの大体は収納可能だそうだ。魔法とは便利なものだなあ。と思いながらスープをすくっていると、わたあめはどうするのか。との話になる。


「私が抱いていくか肩に乗っけて行くよ」

「ここら辺で放した方がいいんじゃない? 瘴気を受けてどうなるか分かったものじゃないよ」

「……ここは微量ながら瘴気が溢れているそうですね。現状変わった様子はありませんし、もう少し様子見してもいいと思いますが」


 意外にも水戸場が助け舟を出してくれた。本当に意外だな。


「いざとなったらのして食べちゃえばいいし」


 相変わらずフェロメナは少々恐ろしいことを言っていたが、連れて行くことには反対する者はもう居なかった。私の膝の上でキャベツの葉をもしゃもしゃと啄んでいるわたあめを撫でるとこちらを見上げてきた。


「非常食には絶対させないからな! わたあめ!」

「もう、わたくしそこまで非道ではなくてよ」

「いやさっきのして食うとか言ってたじゃんアンタ!」


 食事を終えて空いている部屋をそれぞれ割り当てられ、わたあめはベッドの枕元で丸くなって既に寝入っていた。寝支度を整えてランプの火を消そうとした時、扉をノックする音が聞こえてきた。


 入室を促すとイザークの姿があった。


「どうかした?」

「……少しばかり、話でもと思い」


 イザークは扉を少しだけ開いたまま部屋に入ってきた。埃のかぶっていた椅子の埃をほろって椅子に座ってもらう。私はベッドに腰掛けてイザークの言葉を待った。何か言い淀んでいるようであったが、暇なのでイザークの観察をする。


 桃色の髪は長く腰までありひとつに束ねられている。鎧を脱いだ服の上からは鍛え上げられた肉体が見てとれた。顔立ちも精悍で垂れ目気味の目は優しげだ。これはモテにモテていたのではなかろうか。


「あの、ハヤチさん?」

「あ、はい」

「そのように見られると照れてしまいます……」


 ランプの灯りの元なので分かりにくいが、少々頬が赤らんでいる気がする。失礼、とだけ言って言葉を待った。


「ハヤチさんは……ミトバさんのことをどう思っていらっしゃるのですか?」

「あ? 水戸場ですか?」

「仲がよろしいものですから……」


 なんだってそんなことを聞くのだろうか。どう思っているかと言われると……。


「ただの同郷ですかね」

「それだけ、なのですか?」

「はあ、まあ。と言うかなんだったら最初はこのパーティに加わるのも嫌でしたし、水戸場に従ってやるのが嫌で」

「そうなのですか」


 心なしかほっとしたような表情を浮かべるイザークに何か気になったのかと聞いてみる。


「いえ……、自分は、その」

「はい」

「この世界では異端と思われる趣向を持っていて」

「はい」

「…………黒を持つ方を美しいと、思ってしまうという」


 ……すると何か。イザークは私と水戸場がいい仲だったら嫌だなと聴きにきたわけだ。私に好意を持っているというのは暫定で。


 それが分かるとなんとなしに居心地が悪くなる。腹に何か抱えているのではと初対面の時に思ったのは間違いではなかったのだろう。


 好意を寄せられるのは迷惑ではないが、これからパーティで行動するにしても若干意識しそうで面倒極まりない。今日の夜を思い出してぎこちなくなってしまいそうだ。


 思っても旅を終えるまでは心に閉まっておいて欲しかったなあ〜。と言うのが正直なところであった。


「ご迷惑でしたか?」

「いや、そう言うわけではないのですが、意外で」

「……あなたの黒の髪は、本当に美しいです」

「はあ、どうも」


 イザークは立ち上がると私の側までやって来た。なんだと思っていると私の髪の一房を取って口付けを落としたのだ。


「……おやすみなさいませ」

「あ、は、はい。おやすみ、なさい」


 ふわりと柔らかに笑ったイザークに、思わず顔に熱が集中して来るのが分かる。イザークはそれだけ言って部屋を出て行った。


「……特殊性癖男に好かれてしまった」


 ランプの火を消してベッドに潜ったが、口付けされた髪の一房を弄り、指先が熱を持っているように熱い。しょうがないじゃん、顔のいい男に言い寄られるとか初めてなんだから。と言い訳をしながら悶々とベッドの中でイザークのことを考えながら寝入った。

お読みいただきありがとうございます。

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