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第三話 副産物

 話を聞きにあちらこちらと神殿を彷徨う。信徒たちの話に混ざったり、下女下男の雑談に混ざったりと神殿で働く者たちに協力を頼んでいた。司祭のリーバルからの口添えもあるのだろうが、皆好意的に接してくれていた。表面上ではだが。


 やはり色階と言うものは根強いらしく、今現在でも色を尊ぶ者は多い。色階について尋ねると答えてはくれるのだが、やはり黒は異端の色であるらしく良い顔はされ難いものだ。


 以前会った副騎士団長のイザークが異例だったのだと今は理解している。やはり彼は腹に何か抱えている可能性があるな。と今後の接し方を考える。


 しかしこう話を聞きまくっていると千夜一夜物語の王様の気分になってくる。違いと言えばあちらは話をする者があちらから尋ねてくるのだが、こちらは私から出向くということか。恐らくリーバルにでも頼めば誰かしら自室へ派遣してくれるとは思うのだが、自分の陣地である部屋に誰かを入れたくないと言うのが正直なところだ。それに自室だと話に飽きても逃げることができない。過激な話をされて気まずくなるのは最も嫌であった。


 今日も話を聞きまくったなあと考えながら自室へ戻ろうとしていると、自室の前に水戸場の姿を認めた。近づき水戸場がこちらに気がつくとなんだか高笑いでもしそうな笑みを浮かべてこちらを見た。


「うーす、なんか用?」

「お話でもと思いまして」

「今日聴き疲れたからパスしてもいい?」

「駄目です。さあ早く部屋に入れてください」

「怠う」


 ため息を吐きながら部屋へと水戸場を招く。律儀に部屋の前で待っている辺り、一応気遣ってはくれているのだろう。本気で嫌なら私も確かにもっと拒む。水戸場は同郷の人間だ。最初は拒んだが、多少なりとも同情と言うものはある。これから彼は勇者とならねばならない。それに対しての面倒そうな役割乙です。と言う同情だ。


 水戸場はソファに腰掛け足を組む。神殿で用意された白を基調としたアオザイに似た服にお互い身を包んでいるが、水戸場は足も長く様になる。私はと言うとなんというかちんちくりんであると自覚はあった。


「今日、イザークの他のパーティメンバーの二人に会ったのですが」

「会うなら私も呼べや」

「あなたほぼ部屋に不在じゃあないですか」

「誰かに探させりゃいいだろうが……で、どんな人たちだったの」


 ふふん、と何故か自慢げな水戸場であったが、良い人材ですよと言うと話し出す。


「二人とも女性でしたが、ひとりは魔法に長けた魔法士でした。名をフェロメナ・ミトルドン」

「色は」

「水色がかった銀髪です。もうひとりは斥候役の方です。鑑定魔法も持っているそうです。名をリシェ・イルミナ。髪色は黄緑ですね」

「黒に難色は?」

「お二人とも見た限りではありませんでしたね。ま、腹の中は分かりませんがね」


 水戸場としては二人の印象は好感触だったのだろう。イザークも含め、黒に難色を示さないと言うのは重要だ。黒だからと差別主義者がひとりでも居れば、パーティ崩壊の危機に陥る可能性もあり得る。内部の問題でパーティが瓦解すると言うのは一番に避けねばならないことだ。リーダーとなる水戸場もそれを懸念していたからこそ、私に自慢げな表情で話したのだろう。思ったよりも良い人材だと見て良さそうだ。


「明日にでも全員で顔合わせをしたいのですが、ご予定は?」

「特にないよ。分かった。明日ね」

「……随分と素直ですね。初めは僕に反抗的だったのに」

「同情」

「……そうですか。ふふ、まあ良いです」


 では明日。とだけ言うと水戸場は靴音を響かせながら部屋を出て行った。嫌味を言ったのに意に介さない辺り私の扱いも慣れてきたのだろうか。適応力の鬼か。


 唇に触れる。ここに来てから煙草を吸えていないので少々口寂しい。何か代用品でも無いか聞いてみるか。と天井を見ながら考える。


 ぼけっとしていると側仕えが食事を持って現れた。礼を言い食事をし、風呂に入って寝支度を整えて寝入った。







 翌日、朝食後に水戸場の部屋に出向くと水戸場は食後の茶を飲んでいる最中であった。


「おはよう水戸場」

「ああ、おはようございます、早池さん」

「ちょっと早かったな」

「構いませんよ。もう飲み終えますから」


 ソファに掛けろとのことで、水戸場と机を挟んだ正面のソファに腰掛けた。なんとなく手持ち無沙汰で口元を触っていると水戸場に話しかけられた。


「以前から思っていましたが、あなた、時たま口元を触る癖がありますね。もしかして喫煙者ですか?」

「ああ、そうだよ」

「煙草の葉があれば紙巻き煙草は作れるでしょうが、キセルか何かでも手配しましょうか? 吸っている方を見かけましたよ」

「いや、いいよ。自分で手配する」

「そうですか」


 水戸場は紅茶を飲み終えたのかカップをソーサーに置く。目を少し伏せたが、まつ毛も長いようで益々悪役令嬢じみた見目に見える。品のいい高さの鼻や少々ぽってりとした厚めの唇。化粧でもしてカツラを被せれば女と言われても納得するかもしれない。まあ喉仏があるから、首元を隠すショールなどは必要であるかもしれないが。


「どうしました? 僕の顔を見て」

「お綺麗な顔だなあと」

「そうですかね。まあナンパなどはされた経験はありますが」

「うーん、分かり合えそうにない」


 今日はどこで三人と会うのかと尋ねると、時間になれば三人揃ってこの部屋へとやってくるだろうとのことだった。


「よくもまあ自室に招いたね」

「多少なりとも自分の領域に他者を招くことは必要ですよ。人の心を掴みたいならね」

「私には分からんね」


 紅茶を飲まないかと問われ、私の分も頼むと言えば側仕えが外へと出て行った。時計もないとどれほど時間が進んだか分からない。一応鐘の音は一時間ごとに鳴らされるようだったが、呼ばれるまで自室に居れば良かったかもなと考える。


「早池さん」

「何」

「あなた、聴き壁の能力、誰かに話しましたか?」

「いや、話していないけれど……でも司祭のリーバルが色々手回ししてくれてるからここで働く人の話は聴きに行ってる」

「……その能力、これから来る三人にはまだ話さないでください」


 水戸場は眼鏡の橋に指を置いて眼鏡を直す仕草をした。何故だと聞く。


「あちらが知っている可能性は多大にありますが、あなたはタンクと言うこと以外は伏せていただきたい。隠し球は多ければ多いほどいいですからね」

「でもちょっと不誠実じゃない? ……あ、水戸場も何かしら隠し事あるってことか」

「ええ、二人で共犯になろうと言う話ですよ」


 水戸場は鑑定で判明しなかった能力があるらしい。そうして私にも何かしらある可能性が高いとのことだった。そうは言われても思い当たる節がない。


「ここから旅立つまでに何か見つけられるのならば御の字ですよ」

「ちなみに水戸場の隠された能力とは?」

「空を飛べます」

「ずるい!!!」

「うるさいですね。あなたそんな大きな声出せたんですね。いつも無気力なのに」

「私はローテンションが平常運行なんだよ。てか勇者と言っていい能力プラス空飛べるってお前どこまで行こうと言うんだ」


 私だって空を飛びたい。と駄々を捏ねようかと思ったがいい大人が駄々をこねたところで見苦しいだけだと辞める。


「まあ、聴き壁の副産物に何かありゃあいいけどな。あんまり期待すんなよ」

「ええ、期待は大してしていませんからごゆっくり」

「いちいち腹立つね君」


 側仕えが戻ってきて私の目の前に紅茶を置く。カップを持って口に運ぶと華やかな香りが鼻を抜ける。いい茶葉なのだろう。


「色々考えるんだけれど」

「何ですか」

「今まで雑談ばかり聴いているけれどさ。その人の過去とか性癖とか聴くと何かしら効能があるんじゃないかと考えるんだよね」

「あり得ますが……」

「……」


 水戸場のことをじっと見る。水戸場は初めこそ疑問符を飛ばしていたが、私の考えを察したようで顔を歪める。


「僕で試そうと?」

「なんか恥ずかしい話してよ」

「い、嫌だ」

「一回! 一回だけだから!」

「嫌です!」


 水戸場は顔を歪ませ否定の言葉を吐くが私はそれに食い下がる。


「子供の頃の恥ずかしい話して。試しに」

「だから嫌だと!」

「じゃあ私も一個話す! 等価交換!」


 お願いお願いとしつこく頼み込むと水戸場は顔を伏せて黙り込む。ぼそ、と何かを言った。もう一度言ってくれと耳を澄ました。


「……修学旅行で模造刀を買いました」

「い、意外な……」


 それを聞いたと共に、ぽぽぽこん、と頭に何かが降ってきた。足元に降りたそれを拾い上げると、棒付きキャンディだった。三つある。


「飴だ」

「……どうやら、早速あなたの隠された能力が判明しましたね」


 頬を少々赤くしながら眼鏡の橋を押し上げた水戸場。私の能力は。


「話した内容によって何か現れるようですね。恐らく食料です。飢餓状態に陥った際に役立ちそうです。まあそんな機会、来ないことを祈りますが」

「私の恥ずかしい話は」

「いいです。今回は話さなくていいです。譲歩します」


 隠された能力が分かったから今回は許す。とのことらしい。まあそれならそれに甘えさせていただきますが。と紅茶を口に運んだ。


 ……側仕えにはしっかり聞こえていたであろうが、突っ込むのは無しにしておこう。やっぱり話せと言われても嫌だし。


「この飴いる?」

「結構です」

「ストロベリー味に、プリン味にソーダ味だ。好きだったなこれ」

「……あなたが食べたことがあるものが出てくるのですかね」

「たまに試すのに付き合ってよ」

「ぐ……、分かりました」


 表情は正直に絶対嫌だと言っているが、水戸場としても私の能力の全貌は知っておきたいのだろう。渋々だろうが、私としても試しておきたいものなので素直に甘えることとした。


「そろそろ三人が来る頃かとは思いますが、問題は起こさないでくださいね」

「私が問題を起こすように見えるのか」

「多少」

「酷え奴だなあ」


 飴を机にまとめて置く。紅茶を飲み終えソーサーにカップを置いた。外から鐘の音が聞こえてきた。そろそろ来るだろうとのことで、水戸場と雑談に興じながら三人を待った。

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